お世話するココロ
第188回
飼い猫の食をめぐって

食は生きる基本。これは人間だけでなく、すべての動物にあてはまります。私が大好きな猫の長寿化も、食の質向上によるところが大。猫の食は、私に多くの示唆を与えています。

食の細い子が来るめぐり合わせ

親元を離れた24歳から62歳の今まで、私は3匹の猫と暮らしてきました。初めの子は大人で来たので年齢は不詳。天国へ行った時は多分20歳を超えていたと思います。
次の子は子猫でもらい受け、18年生きました。そして今の子は4歳でもらい受け、今は11歳。猫は大好きなので2匹以上飼いたいのですが、1匹ずつ飼っているのには、理由があります。

最初の子は「他の猫との折り合いが悪いから」とうちに来た子でした。猫のなかには、他の猫より人問が好きな子がいて、そんなキャラクターだったのですよね。
その後の2匹はいずれも身体が弱く、食事量などをきちんと管理したかったので、一頭飼いに。前の子も今の子も食べる前後でフードの重さを量り、食べた量を記録しています。これは、多頭飼いではできません。

猫はもともと乾燥地帯にいた肉食獣、リビアヤマネコが祖先と言われています。だから、あまり水を飲まない傾向があり、獲物が捕れない期間にも耐えられるよう飢餓に強いのだと聞きます。
これが悪いほうに働くと、食欲がなければ食べず、健康を損ねる事態になりかねません。

前の子は、6歳の時に急性腎不全で命が危ない状態になり、そこを切り抜けて18歳まで生きてくれました。一時は全く食べ物を受けつけず、病状が良くなっても、食欲は1年近く戻りませんでした。
今の子も、10歳を超えたあたりから眼や気管支が悪くなり、すぐに食べなくなってしまいます。前の子同様、常に食に気を遣い「うちにはこういう子が来るめぐり合わせなんだ」と受け入れています。

前の子も今の子も、とてもおとなしく聞き分けがよく助かります。身体が弱く、ひとりで生きられないとわかっているのでしょうか。そんなふうにセンチメンタルな考えが浮かぶほど人間になつき、食べない時にはドライフードを口に入れると、一生懸命飲み込んでくれます。
このように、人間がフードを口に入れて食べさせることを“強制給餌”といい、動物医療ではよく行われています。

猫に絶食は大敵

先ほど“猫は飢餓に強い”と書きました。「ひとたび食べないと決めたら食べない」という意味では強いのですが、身体は必ずしもそうではありません。
完全な絶食が数日続くと体内の脂肪が肝細胞に付着する“肝リビドーシス”という肝障害を起こす可能性があります。これは即、命にかかわるので、そうならないよう強制給餌をするわけです。
いったん肝リビドーシスになると強制給餌は受けつけず、しばしば経鼻カテーテルによる経管栄養が行われます。「猫にそこまでするか」と思う人もいるでしょうが、実際これで助かる子もいるのが驚きです。
ここまで一気に病状が悪くなると、人間の場合、なかなか好転はしないものです。ところが猫の場合、けろっと良くなる場合もあり、これまでお世話になった獣医さんからは、「猫の寿命はわからない」という言葉を何度も聞きました。

また、猫がなぜ食べなくなるのか。この理由についても不明な場合があり、その回復もまた「よくわからない」という事例も聞いたことがあります。
「何度か吐いたら食べるのが嫌になっちゃったみたいで、全く食べなくなった子がいて。検査データは正常だしまだ若い子だったんで、飼い主さんと相談して胃瘻をつくったんですよ。胃瘻は嫌がらず、栄養注入すれば元気だし、飼い主も猫もその生活になじんじゃってたんです」とある獣医さんは言いました。
この『なじむ」という感覚は、私にもよくわかります。先代の猫は1年近く食事量が少なく、強制給餌を続けました。それが回復した後、慢性腎不全も進行。その生を終えるまでの10年以上、家で皮下補液を続けたのです。
最後の数年はほぼ毎日補液をしていたので、仕事以外で宿泊したことはありません。振り返るとなかなか大変な暮らしでしたが、当時は、飼い主も猫もそんな暮らしになじんでいたのです。
ところがこの胃瘻の猫は、その後劇的に回復したとのこと。この経過は驚きでした。

「結局2年間、1日2回胃瘻から栄養剤を入れていたんですけどね、その子、突然食べ出したんです。ガツガツと。それで胃穫を抜きました。最近も健診で来たんですが健康体ですよ。もともと自分で食べない以外、どこも悪くないんだから」
獣医さんの明るい笑い声は、今も忘れられません。回復する話というのは、人でも動物でもいいものですよね。それはすごくわかります。
それにしても、猫の食は不思議。どこも悪くないのに2年間食べなかったのも不思議なら、2年間食べなかった子が突然食べ出す。これもまた不思議でなりません。猫はやっぱり魔物なのでしょうか……。

強制給餌の葛藤

今の飼い猫・もふこは、4歳で保護猫団体のシェルターからわが家に来ました。当初から気が弱く、臆病。家になじむまで抗うつ剤レメロンの力を借りて、なんとかフードを食べていたほどです。
そんなもふこは身体も弱く、ウイルス性の角膜炎や慢性気管支炎で、病院通いが続いています。今年に入ってからは食事量もめっきり減り、体重が減ってしまいました。
これ以上やせないためには、ドライフードを1日30グラムが最低線。レメロンを使っても体調自体はよくならず、食べても吐く結果になってしまいます。
結局、一番無理がないは強制給餌。かくして、1日30グラムの摂取を目安に、不足分は口に入れて飲み込ませています。
摂取量には波があり、自分で食ぺきることもあれば、日によっては全く食べません。1回に食べさせられる量には限りがあるため、何回かに分けて食べさせるようにしています。

人間の場合でも、食が細くなった高齢者などでは、経口摂取をどこまでがんばるかは悩みどころですよね。これは、猫の場合でもそうなんです。
こんなに無理して食べさせていいのかな。そう思いながら、日々、足りない分のフードを口に入れて飲み込ませています。
本当に、できれば自分で食べてほしい。いつもそう思っています。猫も犬も、食は楽しみのはずなのに。なぜそうならないのか。かわいそうでなりません。ところが、当の猫は、意外に嫌がらず強制給餌されているのですよね。
もっとも、こうした処置は嫌がる子には絶対できません。なかには、大暴れするので動物病院に連れて行くことさえままならない子もいます。このあたりは猫のキャラクター次第というほかありません。
とにかく、おとなしいもふこは、何につけてもされるがまま。先代の子も強制給餌も皮下補液もおとなしくさせてくれましたが、動物病院ではかなりの抵抗でした。
もふこは、動物病院でもただただかたまるだけ。「こんなおとなしい子は見たことないですよ」と、動物看護師さんからもほめられています。

友人宅の猫は、常にフードを求め、フードの袋を見つけると食いちぎってでも食べるそうです。かくして、雌猫で8キロ超え。もふこは今、3.2キロ。なんか、同じ猫とは思えません。
食の細い子を飼っていると、猫がドライフードを食べるカリッという音が、なんとも尊く感じられます。

猫も食は命の基本。食べない猫を通して、改めて食の大切さを日々感じています。もふこが楽しく食べられる日が来ますように。(『ヘルスケア・レストラン』2026年5月号)

宮子あずさ(看護師・随筆家)
みやこ・あずさ●1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業後、2009年3月まで看護師としてさまざまな診療科に勤務。13年、東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。精神科病院の訪問看護室勤務(非常勤)を経て、同院の慢性期病棟に異動。長年、医療系雑誌などに小説やエッセイを執筆。講演活動も行う。看護師が楽しみながら仕事を続けていける環境づくりに取り組んでいる。近著に『まとめないACP 整わない現場、予測しきれない死』(医学書院)がある

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