お世話するココロ
第181回
詐欺、被害のその後

不特定多数の者から現金等をだまし取る、特殊詐欺。スマホを介しての犯罪も多く、被害額はうなぎ登りです。被害に遭った人の精神的ダメージは、計りしれません。

詐欺被害に遭いやすい人たち

警察庁によれば、今年1月から6月までの半年間の特殊詐欺の被害は全国で1万3213件、被害総額は597億3000万円。これは、去年の同じ時期に比べて4200件あまり、およそ370億円増え、統計の残る2004年以降、件数、被害額ともに最多になったそうです。
なかでも最近では、警察官を騙る詐欺が増えているとのこと。後から考えれば、なぜあんなにやすやすと騙されたのか……。そんな悔いを抱いて生きる人が、どれだけいるのでしょう。

私が働く精神科病院には、健常者よりもこうした詐欺被害に遭いやすい人がたくさんいます。
理由は、病気による判断力の低下や、社会とのかかわりの薄さからの情報不足など。これらは精神疾患に限らず、高齢や身体的疾患によって同様の状態になっている人にもあてはまるでしょう。
私は、3年前までの13年間、訪問看護の仕事をしていたのですが、その後半は特に、詐欺被害にも気を配らねばなりませんでした。
実際、詐欺に遭い、金銭管理を請け負う支援者と連携したこともあります。ただでさえ支援の手が足りない居宅支援において、かなりの難問と言えるでしょう。

うつの原因は詐欺被害

私が病棟でかかわったある高齢女性は、詐欺被害に遭って全財産をなくしました。
もともと資産家の娘だったその女性は、30代で離婚。実家の家業を大きく成長させ、50代にしてかなりの財産を築いていました。
2人の子どもは家業を引き継ぎ、70代になった女性はまさに悠々自適の生活だったのです。ところが、好事魔多し……。

賑やかな交友関係に活用していたケータイ電話のメールに、いろいろなメッセージが入るようになりました。
そのほとんどが「自分は死が近いから、財産分けをしたい。返事が欲しい」といった、いかにも詐欺とわかる内容。女性は、躊躇なく削除していました。
ところが女性は、ある日届いた内容に、心惹かれてしまいます。

「人生経験豊かな女性に、いろいろ相談したいことがあります。僕は母親に虐待されて育ち、高校も途中で辞めてしまいました。人生のアドバイスをもらえる大人が周りにいません。どうか、お返事をいただけませんか」

少し考えれば、いかにも怪しい内容なのですが、女性はこのメールに返信。やり取りをするうち、お金の無心が始まりました。

「運転免許がないから、どうしても仕事で不利になる。教習所のお金が足りないので貸してほしい」
「大学検定をとって大学進学をめざしたい。通信講座を受けるためのお金を貸してほしい」

いずれも、数万円から10万円程度で、女性にとっては無理なく自由になる金額でした。

やがて二人は、メールだけのやり取りから直接会って話すようになります。
快活で礼儀正しい20代の男性に心惹かれた女性は、積極的にお金をあげるようになってしまいました。
数年の間につぎ込んだお金は数千万円。会社のお金を引き出したことから子どもたちに気づかれ、事態が明るみに出たのでした。
そして、騙されたと気づいた女性は焦燥性のうつ状態となり、精神科病院に入院。回復に長時間を要したのです。

詐欺被害が奪うもの

回復の過程で女性とかかわり痛感したのは、70代になって財産を失う絶望感です。若い頃に蓄えたお金で、老後の資金は安泰だったはず。それをまんまと奪われたのですから、気の毒でなりません。

さらなる悲劇は、この一件で子どもや兄弟など、近しい親族との関係が壊れてしまったこと。見舞いも途絶え、必要な確認事項があって看護師が電話をしても「お任せします」の返答ばかり。“かかわりたくない”のが見え見えでした。
それでも、ある時子どもの1人が訪れて主治医が病状を説明したことがあります。主治医の記録には、子どもの言葉として、以下の記録がありました。

「母はどんなに私たちが詐欺だと言っても、男性を信じ続けていました。それまでの賢い母からは想像もできない愚かしさでした。子育ても仕事もひと段落して、心に隙があったのかもしれません。私たちがもう少し母をかまうべきだったのかという反省もあります。でも、今はまだ母に対して『許せない』という気持ちがどうしても拭えず、会うと怒りが湧いてしまいとても辛いのです」

この記録を読んで、私は親族の辛さが改めてわかった気がします。信頼していたからこそあっさりと騙されてしまった事実が受け入れられないのでしょう。
ましてや色恋がらみとも見える内容では、なおさらでしょう。
加えて、自分たちが特段手を貸さなくても老後の資金は潤沢だとにと思っていた母親が、そうではなくなったことへの不安。これも大きいのかもしれません。
親の老後は、介護への不安ももちろんありますが、お金のあるなしでやりようが変わるのも事実。
親を見送った私自身の経験に照らしても、つらいと思います。
詐欺被害については、金銭的被害に加えて人間関係の崩壊も大きな問題です。改めて。許されない犯罪」というほかありません。

そして今この瞬間にも……

詐欺の手法はどんどん巧妙になり、今この瞬間にも、詐欺メールは多量に撒かれています。私自身も例外ではありません。
たとえば私の家のパソコン。毎日20~100通程度の詐欺メールがきて、ウイルスソフトのブロック機能が大活躍です。
発信元は金融機関やカード会社、配送会社を騙り、以下のような内容が届きます。

「アカウントが乗っ取られたので速やかにバスワードを変更してください」
「怪しいアクセスがあったので口座残高を今すぐ確認してください」
「サービスポイントの期限が近づいています。すぐにお申し込みください」
「配送中の荷物の再配達をお申し込みください」

目的は個人情報の入力で、似たような内容が繰り返し送られてくるところを見ると「数打ちゃあたる」の目論見で、手あたり次第出しているのでしょうね。
また、スマホにも多くの詐欺メールがきます。こちらの内容は、いわゆる色恋で引っかけようという内容ばかり。メールのタイトルからして赤面するようなものが大半ですが、先ほどの女性が騙されたような、切々と身の上を語るような内容も稀にきています。
そして、メール以外にも電話、直接の訪問など、詐欺の手法はバラエティに富んでいます。

特殊詐欺の原点は、親心につけ込む“オレオレ詐欺”。子どものふりをして手あたり次第に電話をかけるやり方から始まりました。
騙される人は皆、「自分だけは大丈夫と思っていた」と振り返ると間きます。慌てさせ、考える隙を与えないやり方もあれば、時間をかけて騙すやり方もあります。
騙されやすい弱者を支えるためにも、支援する側はそのバリエーションを知らなければいけませんね。
「これは詐欺かも」と気づく力を身につけること。これが一番大切な気がします。(『ヘルスケア・レストラン』2025年10月号)

宮子あずさ(看護師・随筆家)
みやこ・あずさ●1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業後、2009年3月まで看護師としてさまざまな診療科に勤務。13年、東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。精神科病院の訪問看護室勤務(非常勤)を経て、同院の慢性期病棟に異動。長年、医療系雑誌などに小説やエッセイを執筆。講演活動も行う。看護師が楽しみながら仕事を続けていける環境づくりに取り組んでいる。近著に『まとめないACP 整わない現場、予測しきれない死』(医学書院)がある

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング