食べることの希望をつなごう
最終回
管理栄養士としての情熱は
変わらず持ち続けていたい

約6年、連載してきた「食べることの希望をつなごう」も最終回を迎えました。この6年間で、父の闘病や叔母の生活支援などさまざまな経験を積みました。今回は、「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」取得に至った経緯と、変化する環境での管理栄養士としての思いについて振り返ります。

歯学部附属病院へ異動
摂食嚥下障害を学ぶ

2018年から「ヘルスケア・レストラン」にて連載を担当させていただき、早いもので6年が経ちました。
連載のきっかけは、「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」の資格取得でした。摂食嚥下リハビリテーション学会を機に、「ヘルスケア・レストラン」福集部の方にお声がけいただき、このような貴重な機会をいただくこととなりました。

01年に東京医科歯科大学医学部附属病院へ入職の後、10年には歯学部附属病院へ異動となりました。これにより、担当する患者さんも、共に働く仲間も変わると同時に、歯科領域から摂食嚥下リハビリテーションに深くかかわるようになりました。

それまで私は、患者さんの病態に応じた栄養組成、いわゆる「中身」の栄養管理を中心に業務を行っており、摂食嚥下障害のある方にかかわる機会はほとんどありませんでした。
食形態の調整についても、「きざむ」「ミキサーにかける」といった表面的な理解しかなかったことが思い出されます。
歯学部附属病院では、戸原玄先生をはじめ、摂食嚥下リハビリテーション外来の先生方に、検査や調練、ミールラウンドなどなど、さまざまなことをご指導いただきました。
また、口腔外科の先生方からは、口腔がんの術式や治療について丁家に教えていただきました。入職した当時の歯学部附属病院は、全国でも珍しい歯科単科の大学病院で、28の診療科を有し、入院患者さんの多くが歯科口腔外科の方々でした。

22年の診療報酬改定により、特定機能病院で「入院栄養管理体制加算」が新設されたことにともない病棟に管理栄養士が配置され、多職種で栄養管理を行うことに加算がつくようになりました。歯学部附属病院ではそれ以前から、管理栄養士1人が病棟に常駐したうえで、ほかのスタッフとともに入院患者さんの栄養管理を担っていました。口腔がんだけでなく、顎変形症や嚢胞、口唇口蓋裂など、聞き慣れない病名の患者さんも数多くいらっしゃり、当初は、どのような手術が行われ、術後の口腔内がどうなるのか、想像すらつきませんでした。
そうしたなかで、術前・術中・術後の写真や術式を口腔外科の先生方が丁寧にまとめてくださり、また、多くの書籍もご紹介いただいたことについては、大変ありがたく感じたことを今でもよく覚えています。

「やってみなければわからない」と痛感

先生方が積極的に栄養相談を依頼してくださるので、必要に迫られて勉強を始めました。そして、安全に食べるためにどのような食形態調整が必要なのかを説明するには、知識だけでなく調理技術も求められること、さらには、ミキサーなどの調理器具の使い方も実際にやってみなければわからないことが多いと痛感しました。今でも、当時の調理練習の経験は業務に活かされています。

10年当時、手術予定の患者さんに対しては、術前から摂食嚥下リハビリテーション外来の歯科医師が介入していました。病棟では毎日、昼食時に摂食嚥下リハビリテーション担当の歯科医師、看護師、管理栄養士がそろって回診し、適宜、嚥下機能評価や食形態の変更を行っていました。
薬剤師や摂食嚥下障害看護認定看護師も常駐していて、薬の形状や服薬方法、訓練方法についても相談できる体制が整っていたのは、非常に恵まれた環境だったと思います。

そうしたなかでも、術後の摂食嚥下障害に対する栄養ルートの検討は非常に悩ましく、特に、化学療法や放射線治療が加わるケースでは、治療の完遂を目標にしつつ、有害事象への対応も求められました。
経口摂取が困難な患者さんに対しては、毎日のミールラウンドで、訓練方法や食具、食べ方、食事の回数、ONSなど、各職種の視点から検討を重ねました。

実体験を通じて理解を深めた6年間

歯学部附属病院での経験を通じて、解剖学や生理学から摂食嚥下障害を理解し、「適切な栄養と食形態を提案できるようになりたい」と考えるようになりました。
また、「食べること」と「栄養」をつなぐための知識と技術をより深めたいとの思いから、「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」の資格取得をめざしました。
資格取得後は病院のみならず、福祉・在宅・メーカーなど多様な分野で、摂食嚥下障害にかかわるさまざまな職種の方々と接する機会に恵まれました。どの方も高い専門性と熱意をもって業務に取り組んでおられ、私自身も、大きな刺激を受けました。

病棟業務のほかにも、訪問診療への同行、院内レストランのシェフと連携したやわらか食の提供、管理栄養士スキルアップセミナーの講師、「とろみ自販機」の導入、海外からの見学受け入れなど、さまざまな経験をさせていただきました。いずれも非常にやりがいがあり、楽しい思い出として心に残っています。

この6年間では、父の闘病や叔母の生活支援を通じて、医療だけでなく介護分野にも家族としてかかわる機会がありました。在宅医療について知る貴重な経験となり、介護保険や公的サービス、ACP(人生会議)の重要性についても、実体験を通じて理解が深まりました。管理栄養士として、こうした分野でどのようにかかわっていけるかを考えるきっかけにもなりました。

連載開始から早6年が経ち、年齢や経験を重ね、立場や職場も変わりましたが、管理栄養士としての情熱は、これからもずっと変わらず持ち続けていきたいと思っています。
これまで、拙い文章をお読みくださったこと、誠にありがとうございました。いつかどこかで、皆さまとまたお会いできる機会がありましたら、とてもうれしく思います。(『ヘルスケア・レストラン』2025年7月号)

豊島瑞枝(NTT東日本関東病院栄養部 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年、東京医科歯科大学歯学部附属病院入職、24年4月よりNTT東日本関東病院勤務。摂食嚥下リハビリテーション栄養專門管理栄養士、NST専門療法士

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