食べることの希望をつなごう
第85回
姪としてできること・できないこと①
~一人暮らしをする叔母の話~
少子高齢化が進み、親戚のお世話もする人も増えているのではないでしょうか。かくいう私も叔母の様子を見に行ったり、介護認定調査のサポートをしたりしています。ですが、手続きなど対応に困ることもあったため、本稿でご紹介させていただきます。
知らせで想定できるアクシデントのその後
少し遅い朝食をとっていた土曜日の朝9時30分、電話が鳴りました。叔母がお世話になっているへルバーさんからです。土曜日は朝から夕方までデイサービスに行く日です。発熱かな、インフルエンザも新型コロナウイルス感染症も流行っているから仕方がないな、と以前発熱した時のことを思い出していました。
そして瞬時に「まずは新型コロナウイルスやインフルエンザに感染していないことを確認するための抗原検査をして……。陽性の場合は家族で対応しないといけないから、仕事の調整が必要かも。へルパーさんが入れないとなると、食事の準備が一番困るだろうから、叔母の家に向かう途中で買って行けばいいかな……」などいろいろなことが頭を駆け巡りました。
急いで電話に出ると「本日、デイサービスの準備のため訪問したところ、和室で倒れており、意識がないので救急車を呼んでいいか」という連絡でした。
「もちろんです!」とお願いし、とりあえず搬送先の病院に行く準備を始めます。転んでしまって万が一骨折していたら、高齢ですし、治るまでにけっこうな時間がかかるでしょう。家の中でも車いすや杖が必要になるなら、家の片付けが必須です。
手術などで入院期間が長くなれば、入院前と同程度に動けるようになるかもわからず、家に帰ること自体が難しくなるかもしれません。
2週間前に叔母の家に行った際、ちょうど今後の話をしたところでした。エアコンをつけていても寒い古い家です。それでも、1年前にヘルパーさんの介入やデイサービスの利用などのサポートを受ける前までは、電気もガスも止まり、エアコンのリモコンの電池も変えられずエアコンをつけることもできなかったので、その時よりはだいぶマシです。
新聞契約から痛感した叔母の独居生活への不安
叔母は家の中でもウインドブレーカーを着て手袋をはめ、「こうしていると暖かいのよ」とニコニコ笑っていました。見たことのないウインドブレーカーだったので「寒いから買ってきてもらったの?」と聞くと「新聞屋さんがくれた」と言います。何もしないで新聞屋さんがいろいろくれたりするはずないよね?と疑問に思い、よくよく聞くと、どうやら新聞の新規契約をした様子。
一人で家に居た時に新聞屋さんとお話しする機会があったのかもしれません。姪の私からすると、ちゃんと支払いができるのか、どうやって支払うのか、いつから契約したのか、どうやって契約したのか、など疑問が次々溢れ出すのですが、当の本人は「お米も貰ったのよ」とのんきなものです。
本当に大丈夫なのかと不安にかられ、そこで前から思っていたことを伝えます。
「ヘルパーさん、ケアマネジャーさん、デイサービスの方々、たくさんの人に支えてもらってもうすぐ1年になるけれど、正直、私は不安が大きい。一人で過ごす時間も多いし、家は古くて階段や段差もある。ベッドも古くてお布団を干すのも大変だし、何かあった時に、距離的に一番近くにいる私が駆け付けるにしても、家からも職場からも1時間くらいかかる。冬は暖かくて夏は涼しくて快適で、食事や掃除、洗濯など身の回りのことを心配しないで過ごしてもらえると私はとても安心できるんだけど」と話しました。
叔母は「そういうのはありがたいけど、でもこの家があるし」と、あまり乗り気ではありません。もともと1年前までは一人で生活できていましたし、自由にやってきた叔母のことです、周りが思っているほど本人は不便に感じていないようでした。
叔母の施設入所は以前から考えており、できれば早く安心して、なんの不安もなく快適に過ごしてほしかったのですが、ヘルパーさんのサポートのおかげで、お買い物はお願いでき、電子レンジを使った簡単な調理なども一緒にしていただき、好きなものを食べられていました。デイサービスではお風呂に入れていただき、希望があればヘアカットなど身ぎれいにしていただけて清潔に過ごすことができました。ケアマネジャーさんが手配してくださった宅配弁当もあり、なんとなく一人で生活できてしまっていました。
持病もなく元気で、会話も普通に成立していましたが、家の中も伝い歩きになり、年齢を考えるとそろそろ一人暮らしは厳しいのではと思っていたところ、今回の新聞契約事件があり、安全確保と身辺整理の必要性を痛感し、すぐにケアマネジャーさんに今後についてのご相談をさせていただきたいと、日程調整をお願いしたのでした。
また、私は姪で、叔母の子どもではないことも、今後起き得ることで困ることが想定されました。たとえば、銀行の手続きなど子どもならできることも姪ではできず困ったことがありました。成年後見制度なども検討が必要かもしれない、それにはどんな準備や手続きが必要なのか、などもご相談させていただけたらと思っていました。
一人暮らしを支えたのはなんでも食べられた口
ありがたいことに叔母は持病がなく、20年以上前に足の手術をした以外は元気で、かかりつけ医もないままもうすぐ90歳です。
1年前に介護認定調査を受けるために主治医意見書が必要となり受診しました。その後も定期的な受診は不要で、1年間医療機関を受診していませんでした。前回の認定調査から1年が経過し、介護保険の認定期間が切れるため再度受診することに。往診の日程が決まり、受診の際は定期健康診断もお願いすることになりました。
また、叔母は歯がとても丈夫だったのかケアがよかったのか、すべて自歯で、抜けてしまった歯も抜いた歯もなく、部分入れ歯もありませんでした。揺れている歯もなく痛みもなく、なんでもおいしく食べられていたので、そこも元気に過ごせていた要因だったのかもしれません。
なんでも食べられるので、ヘルバーさんも何でも買ってきてくださいました。食形態の調整が不要でしたし食欲もあったので、私が叔母の家に行く時は、デイサービスや宅配弁当では提供が難しく、人がいないと消費期限の管理も難しいであろう生ものを使用したお寿司や、硬めのバン、生野菜のサラダなど一緒に食べていました。
いつも1人前はしっかり食べていたところもよかったのでしょう。また好き嫌いも私が知る限りありませんでした。食べることもつくることも好きでしたし、デイサービスでもいつも完食していたとのことだったので、栄養状態もよかったのだと思います。
そうそう、思い出しましたが、デイサービスで食事をし、宅配弁当を利用するようになってから、明らかに頭がはっきりした印象があります。栄養って大切なんだなと実感した出来事でした。(『ヘルスケア・レストラン』2025年4月号)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年、東京医科歯科大学歯学部附属病院入職、24年4月よりNTT東日本関東病院勤務。摂食嚥下リハビリテーション栄養專門管理栄養士、NST専門療法士