“その人らしさ”を支える特養でのケア
第101回
食べない認知症とのかかわり方
要介護高齢者の栄養ケアでは避けて通れない認知症。者様によっても多道食事への影響もさまざまで、ご利用者様によっても多様な形で現れます。今回は、拒食のご利用者様とのエピソードを通じて「食べない認知症」の方とのかかわりについて紹介します。
「食べたくないんです」
「家に帰るから、食事は結構です」
認知症のご利用者様が入居された時、ときどき耳にする言葉です。新規入居者様の受け入れの日、入居時のアセスメントを兼ねたミールラウンドを行いますが、新規入居者様の反応はさまざまです。
平然と食事をされる方や、緊張した面持ちながらも食事を召し上がる方(摂取量はさておき)がいらっしゃる一方で、ほとんど食事を召し上がらない方もいらっしゃいます。
Oさんは、認知症が重度となり当施設に入居されました。入居前から食欲不振で、1日に1食分が食べられる程度であることが入居前のカンファレンスで共有されました。
入居日のOさんは、落ち着きがない様子です。お茶を勧めたり提供された食事を見せたりしましたが、「食べたくない」と拒否が続きました。
新規入居者様が入居後1回目の食事が食べられない(低い食事摂取量である)ことは珍しいことではなく、数回の摂取量を確認すると徐々に改善してくるのが通常です。
入居日は施設までの移動に加えて新しい場所で新しい人間関係が始まる、当事者の視点から見ると身体的にも精神的にも刺激(ストレス)の多い1日です。
要介護高齢者でなくても、初めての場所で知らない人たちに囲まれると「緊張して食事が進まなかった」というご経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。認知機能が低下しているご利用者様は「わからないうちに知らない場所に連れてこられた」と感じ、混乱や恐怖につながる方もいると推測され、食べられなくても仕方ないと考えています。
Oさんに対しても、入居時の様子から「本番は2日目から!」と思い、こまめにミールラウンドを行いました。Oさんの食事拒否は続き、食事摂取量ゼロの記録が続きます。
Oさんは排泄にも問題があり、フォーレカテーテルが挿入されています。しかし、食事に誘っても「トイレに行きたい」「ここで出ちゃうけど良いか」と排泄に関連した訴えを繰り返し、食事に意識が向きません。
食事のタイミングを外して居室で面談を行ったところ、「コーヒーやお茶を飲むのが好き」「自宅に帰るつもりだった」「おしゃべりしたい」などと穏やかに話してくださいます。
Oさんは、いつも飲んでいたインスタントコーヒーの瓶を持参されていました。そこでお茶の時間に、持参のコーヒーとドリンクタイブの経口補助食品(以下ONS)を組み合わせたカフェラテ風の飲み物を提供することにしました。
入居後も、お茶なら飲んでくださっていたOさん。最初は受け入れが良くなかったのですが、徐々に飲んでくれるようになりました。食事は取れないものの、400kcal分のONSは飲めるようになり、少ないけれども、栄養補給の道はできました。
その後は、介護職員によって盛り付け量を減らして見た目の圧迫感を減らしたり、会話ができる方と同席になるように環境を整えたり、離床のタイミングを調整したりしました。
Oさん自身も新しい環境に慣れたこともあり、今では少ないながらも食事摂取ができ、食事時間を楽しそうにすごすOさんの姿が見られるようになりました。
これまでも、いわゆる「拒食」の事例を経験してきました。今回紹介したOさんのように少しずつ食べてくださる方は良いのですが、全く食べられず、経管栄養になったり、残念ながら逝去されたりする事例もあります。
確実な栄養補給ルートをいち早く見つける
認知症ケアにおいて「拒食」は、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)のうちの食行動異常の一つです。食行動異常は表の分類がありますが、栄養ケアの視点で見ると、⑥不食と⑦拒食にはいつも悩まされます。これらの事例に出会った時には、原因の究明を行いながら、栄養摂取低下期間をできるだけ短くするための対応を考える必要があると考えています。
表 認知症の行動・心理症状による食行動の異常
②頻食:絶えず食べている、食べようとする
③過食:多食と頻食をまとめて言う
④盗食:他人の食べ物を盗んで食べる
⑤異食:食べ物でないものを口にする
⑥不食:少量しか口にしない、あるいは食べたり食べなかったりする
⑦拒食:食べまいとする
不食や拒食の原因はさまざまですが、身体疾患によるものが多いとされています。発熱や呼吸困難、嘔吐、下痢などの消化器症状があり、急に食事ができなくなる場合は、症状の軽減により食事摂取量は回復しますが、状況に合わせてご利用者様の食べやすい物を提供するといったような柔軟な対応を行います。
目立つ症状がないのに食事が摂れない場合、口腔内の異常の有無や内服薬の影響なども合わせて考慮します。口腔内の異常では、口内炎や歯のぐらつきや義歯の不具合(痛み、ゆるみ)などで食べにくくなっていることがあります。口腔内の状況や内服薬などは管理栄養士だけでは判断が難しい場合もあるので、かかわりの多い職種に協力してもらうことも大切です。
また、身体的な異常が認められないにもかかわらず不食・拒食が生じる場合は、特定は困難ですが、認知症に付随するうつ状態や、環境変化への不適応などが原因と考えられます。Oさんも、入居に伴う環境の変化によって混乱が生じていたと推測されます。
このようなケースでは、ご利用者様に「ここは安全な場所である」と認識していただくまでに時間を要することもあります。そのため、Oさんの事例のように、まずは「細くても確実な栄養補給のルート」をいち早く見つけ出すことが、その後のケアを支える重要なカギになると考えています。
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先日、Oさんが入居されているユニットにミールラウンドでお邪魔すると、ONS入りのカフェラテのカップを手に「これのお代わりある?」と介護職員に聞くOさんの姿を発見。すっかりお気に入りの飲み物になった様子をみて、ホッとしました。
認知症の症状が進んでくると、戦栄養ケアも多職種によるチームでのかかわりが重要になることを再確認した事例でもありました。(『ヘルスケア・レストラン』2026年5月号)
参考文献 1)一般社団法人日本認知症ケア学会 改訂5版・認知症ケアの実際Ⅰ:総論 株式会社ワールドプランニング 2022年
参考文献 2)一般社団法人日本認知症ケア学会 改訂6版・認知症ケアの実際Ⅱ:各論 株式会社ワールドプランニング 2022年
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る

