“その人らしさ”を支える特養でのケア
第97回
食に対する希望の傾聴と
希望に向けた提供の検討について

私がつくる栄養ケアブランの一つに「食に対する希望の傾聴と提供の検討」というものがあります。これは、認知機能の低下が少ないご利用者のブランとして立案することが多いです。

健康管理とQOLとのバランスを調整する難しさ

当施設の栄養ケアにおける主な特徴は、認知症と低栄養リスクが高いことがあげられます。そのため、低栄養の予防を目的に、食欲不振や食事摂取量の低下に合わせた食事提供内容(嚥下調整食を含む)の工夫などを多く経験しています。

一方で、認知機能の低下が少なく生活習慣病の治療が必要なご利用者さんもいらっしゃいます。糖尿病や脂質異常症等でエネルギーや脂質を調整した食事が必要な方もいらっしゃいますが、多くの場合、施設内の管理された食事になることによって、特別な栄養量の制限が不要になるという傾向にあります。

なかでも、比較的若年のご利用者のなかには、計算上の必要量を満たしているにもかかわらず、基準の栄養量の食事ではもの足りずに、主食の増量を行う方がいらっしゃいます。
健康を考えたならば、計算した必要量に準じた内容の食事を継続することが重要なのですが、毎日「腹が減った」「ご飯が足りない」と介護職員に訴えなければならないような生活は、本来のあるべき姿ではないと感じます。ご利用者ご本人だけでなく、介護職員の心も蝕むでしょう。
特に、既往に生活習慣病があったり体重の多い方については、健康管理とQOLとのバランスをどのように調整していったらいいのか、悩ましく思っているのも事実です。

好きな時に好きなものを食べられないのは監獄?

Uさんは、脳血管疾患の後遺症で半身麻痺のご利用者です。認知機能は年相応でちょっぴり頑固な面もありますが、社交的な性格です。難聴があるために職員からの説明が十分に伝わらないこともあります。
「好きな時に好きなものを食べられないなんて、監獄ではないか」入所日にご挨拶にうかがった際にUさんはこう言って入院中の不満を話し、特養では「自由に間食したい」とご希望されました。
これまでの経験から、自分の意に沿わない食事制限を実行するように説得するのは得策ではないと感じたため、管理栄養士が一緒に買物をすることを条件に、自由に間食できるように環境を整えることになりました。

Uさんの買い物支援については、当施設で契約している高齢者施設向けの通信販売を利用しました。
Uさん専用のカタログを手渡し、あらかじめ購入したい商品を選んでいただきます。管理栄養士は注文日の前日までにUさんを訪問し、購入したい商品について数や内容をUさんと調整しながら実際の購人品を決めています。
また、間食の取り方についても、食べる時間や一回の量、一日の間食の上限などを繰り返し伝えます。
Uさんは、他のご利用者と交流したいのですが、お相手の認知機能や自身の聴力の低下があってうまくいかないご様子でした。
買い物支援は、好きなお菓子を自分で選んで買うことに加えて、管理栄養士とゆっくりおしゃべりできることもQOLの向上につながっているように感じました。

しかしUさんはその後、体重増加があり間食を制限することになりました。Uさんの納得できる理由がなければ制限はできないと考え、脳血管疾患の再発予防を目的に栄養指導を行いました。
脳血管疾患の再発についての情報や具体的な生活上の行動、施設の給食を食べていれば食事のバランスは取れていること、今食べている間食が余分になっている可能性があることなどを説明しています。また、メディアで情報を得たのでしょう、水分摂取が過剰気味であったので水分摂取と塩分と熱中症の関係についても説明を行いました。

買い物支援のたびに栄養指導を繰り返すことで、体重変化に気を配るようになりました。残念ながら体重が減ることはありませんでしたが、健康について意識するようになったようでした。健康に意識が向いたのはいいのですがメディアからの情報を鵜呑みにしてしまい、その修正に何度も説明を重ねることになってしまいました。

自己評価できることも栄養指導の確かな効果

私がつくる栄養ケアプランの一つに「食に対する希望の傾聴と提供の検討」という内容があります。これは、認知機能の低下が少ないご利用者のプランとして立案することが多いものです。Uさんのケアプランでも立案しています。

介護職員を中心にいろいろと工夫はしているものの、どうしても特養での生活は単調なものになってしまいがちです。食べることが唯一の楽しみとなることが多いなかで、特に認知機能の低下が少ないご利用者様については、テレビや雑誌などの情報から食べたいものが日々変わってくることを多く経験します。
特に、食に対する欲求が強いご利用者には、誕生日などその方にとっての特別な日に「好きなものを食べるという日」を設定して対応することが多いです。

在宅とは違って希望してもすぐには提供できず、準備の期間をいただくことが多くはなりますが、事前に介護職員が中心となってご利用者様からのご希望を聞き、ご家族に金銭面での相談をして対応しています。購入は最寄りの食品スーパーを利用し、なるべくその店舗で準備ができるものから選んでいただけるように説明しています。また、こうした対応は食欲不振のご利用者にも活用しています。多くのご利用者様では、この対応が食欲の維持に役立っていると感じています。しかし稀に、「『食べたくない』といえば好きなものを準備してもらえる」ととらえられてしまったなと感じたケースもあり、ご利用者のお人柄を見極めて実施することが重要だと感じています。

特養での栄養ケアは、病気にならない、悪化させないことをめざす“体調管理”と“生活の楽しみとしての食”とのバランス調整が難しいと感じます。
低栄養予防では体調管理と楽しみを同じ方向で進めていけますが、生活習慣病予防や悪化防止を目的とした時には、体調管理と楽しみは逆方向になってしまいます。
管理栄養士の一方的な考えではなく、ご利用者と二人三脚でちょうどよい塩梅のバランスを見つけることが必要だと思っています。また、それが医学的には最善ではない状況であっても、ご利用者の選択を支援し、医師や看護師とも協働してくことが重要と考えています。

私を呼び止めて「今月、体重增えちゃったんだ」と残念そうに報告してくださったUさん。自身の身体の変化について感じ取り自己評価できることも、栄養指導の確かな効果だと感じています。(『ヘルスケア・レストラン』2026年1月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る

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