栄養指導で”あるある!こんなこと”
第139回
自分を厳しく律する患者さん
継続できる秘訣から学ぶ栄養指導

Aさんは私の栄養相談を約5年、継続して受けてくださっています。自炊をしながら運動も継続しているAさん。その秘訣について話を伺いました

真面目な性格ゆえにやり過ぎてしまうことも

Aさんは栄養相談を開始した頃から、とにかく「真面目な方」という印象でした。栄養指導室へ入る際も必ず姿勢を正し、お辞儀をされてから入ってこられます。
やや小柄な体格のAさんは身長160cm、体重55kg、BMI21.5kg/㎡で体重もほぼ一定しており、食事面、運動面も自己管理がしっかりできている方です。しかし、一人暮らしで男手の調理となると、やや食事の修正が必要なこともこれまでに何度かあり、現在に至っています。
今回は修正が必要だった食事の内容と、逆にこのAさんから聞いた自己管理のポイントをお伝えしたいと思います。

田村:おはようございます。Aさん、今日も体重に変わりなく、いいですね

Aさん:おはようございます、数値も大丈夫でしたか?

田村:大丈夫ですよ。血糖値が食後2時間で120mg/dl台、HbA1cは6.6%でした。Aさんのご年齢なら6%台をキープできればOK、素晴らしいです

Aさん:これまで何度となく、田村さんに教えてもらったボイントを守っているだけなんで

田村:それがすごいですよ。Aさんは疑問点を聞いてくださるし、ちゃんと守ってくださるので、私としてもやりがいがあります

Aさん:食事は一人暮らしをするようになってから自炊してるけど、栄養のことは難しいよね

田村:一人暮らしになって何年になるんですか?

Aさん:もう30年になるかな?家内が難病で亡くなってからだから

田村:そうだったんですか

Aさん:保育士をしてたんだけどね。我々に子どもはできなくて、そうこうしてるうちに訳のわからない病気になってね。当時、東京の病院を転々としたな

田村:ご苦労されたんですね

Aさん:その時は大変だったかな

田村:Aさんは確か卓球もずっとされていたじゃないですか

Aさん:そうそう、家内とも卓球で知り合ってね。戻ってからもクラブみたいなところで卓球は続けてて。そのおかげで友達もできてよかったよ

田村:今でも卓球の素振りはされているんですよね?

Aさん:卓球のクラブは23歳で辞めたけど、自宅で素振りは両腕100回ずつはやってるよ

田村:100回?両腕??Aさんって右利きですよね

Aさん:そーだよ、でも素振りは両腕均等にやってるんだ。体のバランスにも関係するからね。左右なるべく同じに使ったほうがいいんだよね

田村:確かに。左手でもご飯を食べるようにすると脳にもよいって聞いたことあります

Aさん:そうそう、偏っちゃいけないんだよね

田村:あっ、それは栄養と同じですね

Aさん:そうだね、同じだね(笑)。前に果物は大丈夫だと思って毎食食べていて、血糖が上がっちゃったことがあったね。それも田村さんから1日の目安量を手のひら1杯程度って修正してもらったことがあったけど、何でも度が過ぎるとダメなんだね

田村:乳製品もありましたね

Aさん:あったね~。朝昼晩と牛乳にヨーグルト、チーズ、毎食食べてて

田村:3食食べてもいいけど、どれか1つにしましょうってお話した記憶があります

Aさん:いいって聞くと何でもやり過ぎちゃうところがあってダメだね

田村:いえいえ、真面目に取り組むところがAさんのよさですから

Aさん:田村さんに聞くといつも「ダメではないけど、食べ過ぎない、偏らないように」ってちゃんと目安を教えてもらえて助かったよ

田村:食物は何でもそれなりに栄養があるので。あとは食べ方、組み合わせ方ですからね。でも、それをちゃんとお伝えするのが栄養士のお仕事なので。Aさんのようにちゃんと聞いてもらえるとありがたいです

Aさん:あと、数値を見て当てられることもよくあって……びっくりしていたよ。ちゃんと見てくれてるっていうか、わかっちゃうんだな~と感心してたんだよね

田村:それはAさんが普段からきちんとお食事や運動で自己管理ができているので。数値が変化するってことは何かあったってことなので、突発的なご病気やメンタルも含め日常の食事なんかもお尋ねして……原因がわかれば安心なんで

Aさん:数値にちゃんと出ちゃうのもびっくりだけどね

田村:ちゃんと月1回検査しておくって大切ですね。経過を見ているので変化に気付けるし。引き続きちゃんと見ていきましょうね

Aさん:そうだな

亡き奥さんへの思いを生きる活力につなぐ

田村:ところでAさん、素振りのほかにも軽い筋トレや1日7000歩のウオーキングも欠かさないじゃないですか。「嫌だな~、今日はやりたくないな」って思って休むことはないですか?

Aさん:そうだね、もう何十年も欠かさずやってるかな

田村:その続ける秘訣って?

Aさん:それはね……自分は敵なんだよ

田村:敵?

Aさん:そう敵。嫌だな~、やりたくないな~って思うこともあるけど、そんな自分は敵だから、負けないように頑張る。「負けてたまるか!」って頑張るんだよ

田村:なるほど~、すごいです

Aさん:私の座右の銘は「唯一のライバルは自分」「努力は裏切らない」なんだよ

田村:かっこいいですね

Aさん:いやいや。でも本当に嫌な時もあるけど、この言葉を思い出して頑張ってみる、すると結果もついてくるって思っていて

田村:Aさんの頑張りはどこから来るのかなって不思議に思っていたんです。真面目な性格なのはわかってましたけど、それだけじゃないよな~って思っていて。お聞きできてよかったです

Aさん:家内を若くに亡くしてしまって……やっぱり家内は無念だったろうな~って思うと、自分がその分、頑張らないといけないって思ったんだよね

田村:食事もちゃんと自炊されて、運動やご自分の管理もきちんとされていて、本当に素晴らしいです。引き続きよろしくお願いします

Aさん:こちらこそ、田村さんに食事の話をちゃんと聞いてなかったら、いろいろな情報に惑わされてどうなっていたかわからないからね。こちらこそ本当によかったよ

とても真面目なAさん、過去には大変なご苦労があって現在に至っています。
徹底した自己管理ができているのもこれまでの人生の経験があってだと知りました。
管理栄養士として伝えられることは「食事」「栄養」の部分ですが、それがこれからも患者さん一人ひとりのためになればと思うのと同時に、こうやって患者さんから学ぶことも本当に多く、患者さんそれぞれにいろいろな考えや生き方、人生があります。
うわべだけではなく、患者さん個々と向き合い、それぞれに応じた栄養指導を引き続き心がけていきたいと思いました。(『ヘルスケア・レストラン』2025年2月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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