栄養指導で”あるある!こんなこと”
第138回
乳幼児健診での栄養相談は
親の不安を聞き取り、支える

私は定期的に近隣の市町村から依頼を受け、乳幼児健診で「栄養相談」を実施しています。近隣の市町村では管理栄養士が不在の地域もあるため、ご依頼をいただいた場合はそこの保健師さんと協力して「栄養相談」を行っています。

子の発育と環境に合った実現可能なアドバイスを

ある村での乳幼児健診時の栄養相談のことです。この村からは半年に1回のペースで「栄養相談」の依頼があり、乳幼児のいるお宅を保健師さんに同行して訪問し「在宅栄養相談」なども行っているため、住民の方とはある程度、顔見知りになっています。この日は村の保健センターでの乳幼児健診で、生後4カ月~3歳児まで約7組の親子が集まって順次保健指導、歯科健診、小児科医師の健診が実施されました。開始前のミーティングで来所予定の親子の名簿を渡され、お子さんについての情報共有がありました。

田村:今日もよろしくお願いします

保健師:よろしくお願いします。田村さん、今日は7組の親子がいらっしゃる予定です。こちら名簿になります。今日はこの前訪問したAちゃん親子もいらっしゃいます

田村:訪問したAちゃんですね

保健師:あの時、初めての離乳食で悩まれていて訪問したので、その後の確認なんかもお願いできればと思います

田村:了解しました

保健師:Bちゃんは第3子で、結構間食やジュース類を飲んでるようなので、確認とお話をお願いしたいです

田村:わかりました

保健師:あとCちゃんですが、3歳ですが少し発達障害があって……まだ言葉もなく食事は固形食が無理でリハビリに通っている状況です。今日いらっしゃる予定なのでお食事のところの確認やお話をお願いしたいです

田村:わかりました。本日は7組の予定なので全員に声かけするようにしますね

保健師:よろしくお願いします

この村での「栄養相談」は健診を待っている間にこちらから声をかけてお話を伺い、必要に応じて対応するスタイルで行っています。そして開始時間が近づき、親子が会場に来始めました。最初にいらしたのが在宅訪問で離乳食の指導をした親子でした。

田村:Aちゃん、こんにちは

A母:先日はありがとうございました

田村:いえいえ、Aちゃん随分しっかりしましたね~

A母:はい、もうハイハイもするようになりました

田村:そうですか!食事はその後どうですか?

A母:お陰様で順調です

田村:今はアレルギーとか食形態はいかがですか?

A母:アレルギーは大丈夫です。食形態はお粥は硬めおかずもひと口大くらいまで食べられるようになりました

田村:順調ですね

こんな会話をしてる間に会場は大半の親子が到着して保健師さんが順次問診を始めていました。その順番待ちをしている親子を見渡すと、マグカップを持ちながら待っている親子がいました。背中に貼ってあるネームを見ると保健師さんが話していたBちゃんでした。そこで……。

田村:こんにちは、管理栄養士の田村です。少しお話よろしいですか?

B母:はい

田村:お食事とか何か心配事とかはないですか?

B母:上に子どもが2人いて……お菓子とか食べて食事の時にごはんを食べない、とかあるんです

田村:そうなんですね。ちなみに今飲まれているのは?

B母:スポーツドリンクです

田村:お茶とかお水は?

B母:それだと飲んでくれなくて

田村:確かに甘い味を知ってしまうとお茶とかは飲んでくれなくなっちゃいますね~

B母:そうなんですよ

田村:上のお子さんがいらっしゃると、どうしてもね~。せめて飲み物は糖分が入ってない物にしたいですね

B母:そうしたいんですが、甘くないと投げつけたり癇癪を起こしたりして

田村:まずは少しずつ薄めていく方法でやってみませんか?1/3をお水から始めて半分をお水、さらに2/3はお水、みたいに徐々に薄くしていって

B母:やってみます

田村:あと癇癪ですが、イヤイヤ期もあるかとは思いますが、甘い物、特に甘いジュースで血糖が急激に上がったり下がったり……そういう影響もあるかもしれません。糖分を今から習慣的にとっていると将来、糖尿病のリスクも高くなるので

B母:怖いですね……わかりました、やってみます

頼れる場所があることを伝えることが大事

そしていよいよ、発育に少し遅れが見られる親子のところへ行き声をかけました。

田村:Cちゃん、こんにちは。管理栄養士の田村です

C母:こ、こんにちは

田村:Cちゃん、お食事はいかがですか?

C母:リハビリをしながらなので、まだお粥と軟らかいおかずでやってます

田村:そうですか。好き嫌いとかはいかがですか?

C母:お肉とかお野菜とかは硬いと嫌がります

田村:お野菜とかは煮たりすると大丈夫ですか?

C母:そうですね、軟らかいと大丈夫です

田村:アレルギーとかは?

C母:それはないので大丈夫です

田村:それはよかったです。お魚なんかは食べてますか?

C母:肉よりは食べますが、パサパサしているとちょっと難しいみたいで

田村:なるほど。お肉とかお魚ですが、マヨネーズで和えるとツルンとして飲み込みやすくなるので試してみてください。カロリーアップにもなるので。身体が大きくなってきてる分、エネルギーやたんぱく質はしっかりとりたいので是非。食事の回数やおやつは?

C母:食事は3回、おやつはたまに……

田村:Cちゃんはまだお粥なので、必要な栄養が足りてない可能性があるので4回食、5回食でもいいかと思います。たとえば、おやつとしてヨーグルトや果物、プリン、パン粥、卵など、栄養補給になるようなものをあげるとよいかと思います。あとエネルギーも必要なのでマヨネーズとかごま油なんかをうまく使って食べやすくてカロリーアップするといいですね

C母:難しく考えて困っていましたが、そんな感じでいいんですね

田村:はい。食べているものにちょっと栄養や油分をブラスしていく感じで……少なくても積み重なると大きいですよ

C母:なるほど~、ありがとうございます

田村:定期的にこちらには来ていますし、何かあったら訪問もできますので、保健師さんにご相談くださいね

C母:ありがとうございます

このように乳幼児健診ではさまざまな事例があります。普段の経験や知識、調理の工夫などが発揮できる機会になります。また、それぞれのお子さんの成長の具合や環境、嗜好など短時間ですがリサーチして的確にアドバイスすることも重要です。何より、何かあったら相談できるという安心感を与えることが大切です。特に過疎化が進む市町村では管理栄養士・栄養士がいない自治体も多く、それでも何か食や栄養について相談できるつながりをもつことは重要だと考えています。(『ヘルスケア・レストラン』2025年1月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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