栄養指導で”あるある!こんなこと”
第135回
視力低下でもマイペース
できることを無理せず取り組む

今回は急な視力低下によるストレスから血糖コントロール不良になったXさんを紹介します。よく見えないながらも、ゆっくりマイペースで頑張る姿に毎回、元気をいただきます。

急な視力低下に不安…

Xさんは、当クリニックで3年ほど糖尿病の栄養食事指導を受けている女性です。身長170cm、体重62kg、BMI21.5kg/㎡とスラリとした体型です。仕事は量販店の販売員をされていて、職場までは徒歩とバスで通っています。
仕事柄1日1万歩以上は歩くようで、通勤と職場での運動量は多めです。

通院初回でもHbA1cが7%台とそう高くはありませんでした。栄養食事指導を開始して、べジタブルファーストや主食を適量にする、ゆっくりよく噛んで食べるなど、基本的な食べ方を実践してもらうと数値は改善し、服薬なしでHbA1cが5.8~6.3%にまで改善していました。ところがある日、いつもどおり体重測定のあとで血液検査結果を見ると……。

田村:少し数値が高いですね

Xさん:いくつですか?

田村:先月まで5%後半でしたが、今日は6.5%ですね、何かストレスのようなものがありましたか?

Xさん:はい。ありました……

田村:差し支えなければお聞かせいただけますか?

Xさん:急に先月から目が見えにくくなって先週、紹介状をもって大学病院へ行ったんです。そしたら眼圧が高くなっていると言われ、今週末から入院することになったんです

田村:そうですか。入院治療をするとよくなるんですか?

Xさん:それは現段階ではわからないと……。とりあえず入院して原因を一応調べて、眼圧を下げる注射とかをするようです。でも、原因がわからない可能性のほうが高いらしいのですが、眼圧は下げないとどんどん見えなくなるらしくて……

田村:それは心配ですね

Xさん:はい……。とりあえず2週間程度の予定で治療で入院することになりました

田村:まずはよく調べてもらって治療をしないといけませんね。現在はどんな感じで見えにくいのですか?

Xさん:今、管理栄養士さんと1~2m離れていますが、この距離で管理栄養士さんの顔がぼんやりとしか見えない感じです

田村:それはつらいし危ないですね。職場はお休みされているんですか?

Xさん:場所や仕事内容は慣れているし、この先入院もあるので、とりあえず職場に話をして続けてはいます

気持ちもまぎれ田村:そのほうが気持ちもまぎれますか?

Xさん:そうなんです。最初は怖かったし悩みましたが、今は悩んでいてもどうしようもないし、大学病院で治療しようって気持ちを切り替えました

田村:そうですね。前向きに考えたほうがいいですね。今回、次回の予約は入れないでおきます。落ち着きましたらご連絡ください

Xさん:ありがとうございます。いろいろ聞いていただいてちょっと安心しました

このあと、Xさんは大学病院での入院治療を経て3ヵ月後に来院されました。

できることをマイペースで!

田村:治療はいかがでしたか?

Xさん:結局、原因はわかりませんでした。とりあえず眼圧を下げて、これ以上進行しないように定期的に受診しながら対処していくしかないみたいなんです

田村:そうですか。お仕事は?

Xさん:まぁ、今ぐらいの視力でもなんとか続けられそうなので、職場にも理解してもらって続けています

田村:もう復帰されたんですか?

Xさん:はい。家にいてもよくないことしか考えないし、暇なので。大学病院の先生からOKが出た段階で復帰しました

田村:通勤は?

Xさん:ゆっくりですが、今までどおり徒歩とバスで通っています。冬場は暗くなるのが早いので段差とかが危ないため、主人に迎えに来てもらっています

田村:くれぐれもお気をつけてくださいね

Xさん:大学病院でも測ってもらっていましたが、今回の血糖はどうですか?

田村:空腹時血糖値が120mg/dl台、HbA1cは6.8%ですね

Xさん:ちょっと高いですね

田村:でも、入院や心労などがあったことを思えばよい数値ですよ

Xさん:大学病院でも糖尿病食を出してもらっていました

田村:いかがでしたか

Xさん:家での味付けが塩辛いのか、薄く感じました。あれぐらいでいいんでしょうね?

田村:まぁ、日本人は塩分をとり過ぎているので……。その後、体調や生活は変わりましたか?

Xさん:お弁当を自分で詰めて出勤するようになりました。もちろん、調理は難しいので冷凍食品を利用したり、夕飯は主人が協力してくれるので、その残り物なんかを適当に詰めていくだけなんですけどね

田村:それはいいですね

Xさん:病院食を食べ慣れたので、外食やスーパーのお弁当は味が濃くてご飯が多いし、野菜が少ないと感じたので自分でつくろうと。そのお弁当なんですが、おかずを詰める時にお弁当箱の仕切りを入れるんですが、細かくて見えにくく、困っているんです。何か良い方法ってありますか?

田村:仕切りが細かいと見えにくいですよね

Xさん:手元近くに顔を近づけると全体がわからなくて困っているんです。お弁当まで主人につくらせるのも気が引けるし……

田村:私がよくやるのが、“のっけ弁”です

Xさん:それ何ですか?

田村:お弁当箱にご飯を敷き詰めて、おかずはその上に載せるだけのお弁当です

Xさん:なるほど、のり弁みたいな?それならできそうです

田村:あとは程よいサイズの密封容器です。3個で100円とかでも売っています。それにご飯、おかず2品、野菜みたいに1個の小さなタッパーにそれぞれ入れてしまうのも簡単です

Xさん:それもいいですね

田村:その方法だと、ご飯は事前に詰めて冷凍にしておき、食べる時にレンジで温めればOKです。おかずも加熱したものや煮物なんかはまとめてつくって冷凍しておいてもいいですね

Xさん:やる気が出てきました。お弁当を詰めにくくなったことでがっかりしていたんです

田村:頑張ってらしてすごいです。何より仕事も続けながら、お弁当を用意しようと思うところが素晴らしいです。でも、仕事も家事も無理はしないでくださいね

Xさん:もともとスローな性格なんですが、視力が弱くなってもっともっとスローになっちゃいました(苦笑)。でも、それもいいかなって思えるようになりました

Xさんは今でも毎月来院され、栄養食事指導も毎回受けています。大学病院の受診は月1回から半年に1回になり、相変わらずバスと徒歩で通勤しながら、仕事も頑張っています。手づくり弁当も工夫して毎日朝5時に起きて準備しているそうです。「見えない分、時間はかかるけどゆっくりやっています」と笑う姿がとっても印象的な患者さんです。
数値も現在は、HbAlcが6.0%前後と安定しています。栄養食事指導をさせていただいていますが、毎回私のほうがXさんから学ぶ機会となっています。(『ヘルスケア・レストラン』2024年10月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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