食べることの希望をつなごう
第79回
退院後の食事を考える
~食事そのものから視野を広げよう~
調理が煩雑な食形態であっても、病院でなら専門家の手により安全かつ、調理負担の心配もなく食べることができます。しかし、在宅はそうもいきません。だからこそ、最適な食支援をめざし、可能性を探っていきましょう。
ONSの特徴を捉え
うまく活用しよう
今年の夏は大変暑く、「なんとなく食欲が落ちてきて『食べたくないな』と思っていたら体重が減っていた」という何人かの患者さんにお会いしました。なかには、少し様子を見ていたら食欲が出てきそうだと思っていたのに、脱水と電解質異常、腎障害で入院になってしまった方もいらっしゃいました。
食べたくない時に食べろというのはなかなか難しいものですが、「ちょっと変だぞ」と思った時に、何か打つ手を知っているのと知らないのとでは、大きな差があります。
たとえば、食事摂取量が減っていて栄養素全体を底上げしたい場合、ONS(経口栄養補助食品)をお勧めすることがあります。入院中、食事はとりにくくても「ジュースなら飲める」とか「甘いものが好き」とか、何か口に入れてくれそうな雰囲気があればしめたものです。
ONSには処方可能な「薬剤」だけでなく、ドラッグストアなどに置いてある「食品」もあるので、患者さんご自身で用意することも可能ですし、特に「食品」タイプは、味だけでなく形態の種類が豊富なところも魅力でしょう。
なんと言っても、液体でむせや誤嚥が見られる場合に、ゼリー状やとろみのついた形状のONSを選択することが可能な点が大きなポイントです。
液体タイプのONSにとろみ調整食品を加えて“とろみ付け”することも可能ですが、適切なとろみに調整することが難しいことが多いだろうと感じています。いろいろと試してみましたが、とろみ調整食品の種類や必要な濃度によっては、とろみ付けをすると粘度が増し、付着性が高くなってしまうことがあります。
また、とろみが付き形態が安定するのに時間がかかることもあるため、もともとゼリー状やとろみ付きの形状となっている製品を使用できる場合はそちらを使ってしまったほうが、安全、かつ患者さんの食事の準備負担も軽減できます。
患者さんのなかには、口腔内でつぶせなかったり送り込めなかったり、ばらけて散ってしまったりと、固形物だと食べづらい方もいらっしゃいます。日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021のコード2-2の物性が食べられるのであれば、ミキサーの使用法を覚えていただき、無加水調理や油脂の使用によりコンパクトに栄養補給することが可能ではあるものの、それは、あくまでも調理ができることが前提になります。調理が難しい場合には市販品や宅配食の利用が一番ですが、経済的な面から導入が難しく、効率よく栄養補給するのにも一苦労だという場面に遭遇することは、管理栄養士にとって“あるある”なのではないかと思います。
こうしたことを考えると、加齢や筋力低下などによる摂食嚥下障害の場合は、「ちょっと食べづらいな」とか「少しむせるな」といった時期からの介入が非常に大事だと考えさせられます。
患者さんの状況を見て最適な食形態を選択する
摂食嚥下障害のある患者さんが安心してご自宅に戻るためにはいくつもハードルが待ち構えていることがあります。家族や地域などのサポートのほか、ご本人の認知機能やADL、経済的状況などさまざまな要因を考慮した栄養管理が必要であることは当たり前ですが、退院することがゴールではなく、退院され、ご自宅に戻ったあとのフォローが必須であると考えます。
退院後の食事について不安をできるかぎり少なくするため、入院中に食事形態やONSをいろいろと試してみることが大切です。液体がとろみなしで飲めるのか、おかずはひと口大にすれば食べられるのではないか、お粥または粥ゼリーにおかずを混ぜれば食べられるのではないか、ペースト状がいいのかそれともムース状がいいのか――など、多種多様な食形態を組み合わせてチャレンジすることで、「主食だけは普通のお粥で大丈夫」とか、「おかず単品だと口腔内でばらけるけれど、お粥に混ぜれば大丈夫」など、その結果から食事準備の手間に関する要因を検討することができます。
患者さんご自身から「パンが食べたい」「麺が食べたい」と食べたいものが出てきた時は、まさに絶好のチャンスです。食べたいものは、意外に問題なく食べられることが多いという印象があります。退院後の食生活を、食事摂取だけではなくて食事の準備、またはそれ以れ以前のお買い物の段階から想像して毎日の食事を調整すると、よりスムーズに退院につなげられます。
暮らしから栄養サポートを考える
入院中に摂食嚥下障害と診断された場合は、適切なリハビリテーションや栄養介入により、安全に食事摂取および栄養量確保ができることが多いのですが、これが老化によるものだった場合、どこで、誰が介入すればいいのか悩みます。これは、以前本連載(2024年5月号、6月号)でも紹介した、叔母の例をきっかけに深く考えるようになったことです。
叔母のケースでは、特に持病もないため定期的な受診をせず、衰えはあるもののなんとなく日常生活が送れていたのでサービスの介入もありませんでした。しかし、低空飛行ながら毎日が過ごせてしまっていると、ある日突然、日常生活が立ちいかなくなることがあることを目の当たりにしました。
振り返れば、転倒することがあったり調理ができなくなりコンビニに食事を調達に行って過ごすようになったり、買い物の頻度が減ったりという些細な変化はありました。それをどこで気づいて、早期介入をどのように行うか、いい方法はないかなと考えながら、スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどの、一見、医療や介護領域とは関係のないような場所からでも、地域サポートへつなげる方法を考えていくことが必要かなと考えています。(『ヘルスケア・レストラン』2024年10月号)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年、東京医科歯科大学歯学部附属病院入職、24年4月よりNTT東日本関東病院勤務。摂食嚥下リハビリテーション栄養專門管理栄養士、NST専門療法士