栄養指導で”あるある!こんなこと”
第134回
無理なく実行可能な食事療法を提案
結果をほめてやる気アップで血糖値改善へ

今回は心療内科に通院していたWさんの事例を紹介します。毎回、ご飯を1.5合以上しっかり食べないと落ち着かない状態でした。高血糖が指摘されたWさんに、炊飯時の工夫を紹介してみました。

ご飯を食べないと落ち着かない

Wさんは40代の男性です。心療内科で高血糖が見つかり、当クリニックに紹介となりました。
受診時はお姉さんに付き添われて来ます。来院時の血糖値は400mg/dl台、HbA1cは14.7%と高値でした。身長171cm、体重65.2kgでBMI22.3kg/㎡と体重に問題はない状態でした。

田村:はじめましてWさん、管理栄養士の田村と申します

Wさん:……

姉:よろしくお願いします

田村:お食事はどうしていますか?

姉:今は一人暮らしで、自炊しています

田村:わかりました。食事の様子について教えてくださいね

Wさん:(小さくうなずく)

聞き取りを進めていくと、食事は1日2食(日中は飲み物程度でほとんど食べない)、間食(+)、ポテトチップスなどを時々食べる。飲酒(1)、食べるスピード(速い)、野菜(+)自分で料理して結構食べている。運動の習慣(-)、甘い飲み物(±)エネルギーオフ炭酸飲料を飲む、という感じでした。

姉:弟はご飯が大好きで結構食べます。今は少し減らしていますが……

田村:わかりました。ありがとうございます。ちなみにこれまで健康診断とかは?

姉:それがまったく受けたことがなくて、心療内科で今回念のために一度血液検査をしましょうと言われ、採血したら血糖値が高くてすぐにこちらに紹介となりました

田村:そうでしたか。確かに結構数値は高いのでお薬も出ているとは思いますが、お食事のほうも併せて少し頑張りましょうね

Wさん:はい

田村:お食事のポイントをお話しします。まず、糖質の多いご飯を適量にしましょう。でも、Wさんはご飯が好きなんですよね?

Wさん:はい。ご飯を食べないと落ち着かなくて……

田村:もちろん、食べていいのですが、その量を調整しましょう。今は1食当たり何合ぐらい炊いていますか?

姉:1回に6合炊いて、2日で食べ切っているようです

田村:ざっと計算すると、1日3合。それを2食で食べるとすると、1回当たり約500g程度は食べている計算になりますね。お米の量で1.5合分です。結構召し上がっていましたね

姉:そうなんです。なぜかお米が本当に好きで、そこに執着しているんです

田村:わかりました。Wさんの場合、本当は1膳当たり180g程度が理想だと思いますが、それだと現状の約3分の1ということになるので難しいですよね

姉:一気に減らすのはストレスかな?

田村:そうですね。そこは工夫しながら徐々に調整していきましょう。その前にほかで気を付けたいところをお話しします。野菜や海藻、きのこなど食物繊維が多いものはできるだけ毎食とってください。自炊はされているんですよね?お買い物はどなたが?

姉:1週間に1回、私と行きます

田村:そうですか。では、そこで野菜やきのこなどを買うようにお願いします

姉:わかりました

田村:あとは食べる順番です。できるだけ野菜から食べて、ご飯は最後。あとはゆっくり食べるようにしましょう

Wさん:わかりました

田村:主食のご飯ですが、これからはまず1回4合炊いて2日で食べてはどうでしょう?1日2合、2食で食べるとすると1回1合。それでも約330gなので丼ぶり山盛り1杯にはなります

姉:わかりました

雑穀を入れて炊いては?

そして、翌月の栄養食事指導になりました。

田村:こんにちは

Wさん:……

田村:その後、お食事のほうはいかがですか?

姉:1日2合でやれているみたいです

田村:それはよかった。数値ですが頑張っている結果が出ていますよ。空腹時血糖値が130mg/dl台、HbA1cも14.7%ありましたが、11.4%まで改善しました。素晴らしいです

姉:よかったです

田村:とは言ってもまだ高いので頑張りましょうね。お野菜はいかがですか?食べられていますか?

Wさん:はい。食べています

田村:そうですか。ありがとうございます。今は暑いので自炊も大変ですが、ご自分で準備されて素晴らしいですね。どんなものをつくるんですか?

Wさん:野菜炒めとか……

田村:それはいいですね。引き続きよろしくお願いします

姉:ご飯なんですが……

田村:今の量でいかがですか?

姉:1日3合から2合は大丈夫みたいなんですが、これ以上減らすのはまだ難しいようです。たぶん、間食が増えてしまう気がします

田村:白いご飯じゃないとダメですか?

姉:いいえ。混ぜご飯とかも好きです

田村:たとえば雑穀なんかをプラスするのはいかがですか?

姉:大丈夫だと思います

田村:では、少し雑穀類を混ぜて食物繊維をさらにしっかりとるようにしていきましょうか?

姉:今日、これから帰りに買い出しをするので、一緒に買って使い方も説明してみます

このあと、Wさんの血糖はどんどん改善し、10mg/dl前後、HbA1cも8.0%台になりました。

田村:先生からの目標まであと一歩ですね。HbA1c7.0%未満が目標なので、あと少しです

姉:最近、2合炊いたご飯を3回に分けて食べているようなんです

田村:それは素晴らしい。どうされたんですか?

Wさん:あまりお腹が空かなくて……

田村:そうですか?雑穀は?

姉:続けています

田村:たぶん、雑穀入りだと白米よりはよく噛むと思うので、それで満腹感が得られているんですね。野菜も最初に食べていますか?

姉:はい。しっかり守っているようです

田村:ありがとうございます。とてもいいですね。次回の結果も楽しみです

姉:以前は病院とかはストレスだったようなんですが、最近は数値を見るのが楽しみみたいです

田村:よかった。数値は毎回しっかり下がっているので素晴らしいですよ

姉:管理栄養士さんからほめられるのも実はうれしかったみたいです

田村:あら、そうなんですね。でも本当にしっかり頑張っているので、それをほめているだけなのです。ダメな時は逆にしっかり叱りますからね

姉・Wさん:(笑)

Wさんは8ヵ月ほどでHbA1cが6.9%になりました。もちろん、食事だけではなく服薬の効果もあったとは思いますが、主食の量の調整や食べる順番などでしっかり血糖コントロールができました。また雑穀を混ぜたことで、食物繊維の摂取が良好になり、よく噛む習慣につながったようです。(『ヘルスケア・レストラン』2024年9月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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