“その人らしさ”を支える特養でのケア
第81回
自ら連携のチャンスをつかんでいこう
介護報酬、診療報酬ともに、多職種や施設間の連携が強調されています。これからやっていこうと考えている方も少なくないと思います。大切なのは、「どうやったら連携できるか」という考え方です。
施設間の連携不足を痛感
Yさんは、前の施設から「誤嚥性肺炎を繰り返す」と情報があった方です。
食事の様子を確認してみると、「自力で食事がとれるものの、食べたい気持ちが強く、かき込んでしまうため、一口量の調整が必要だと感じました。当施設に入居後から、食事の提供方法の工夫を中心に、安全に食べることとYさんの食事意欲が両立するように取り組みました。
入居後しばらくは落ち着いた体調で過ごされていたYさんでしたが、ある日体調が悪化し、誤嚥性肺炎の診断で入院。その後、3カ月の入院を経て退院し、当施設に再入所されました。
入院中、どうやら経口摂取がうまくいっていないようだ……との情報があり、退院前に食事の状況を確認したいとやんわりと生活相談員に申し入れをしていましたが、結局はそのまま再入所。再入所日はYさんの状況がわからないまま、恐る恐る、経口摂取による食事を開始しました。
しかし、退院3日後に再び誤嚥性肺炎で再入院し、その後、逝去されました。
この出来事は「入院先の医療機関と積極的に連携できていれば違う結果であったかもしれない」と悔いの残る事例となりました。これをきっかけに、生活相談員とも、医療機関との連携について、お互いの考えや想いを共有しました。
退院時カンファレンスへ同席
Yさんの訃報からしばらくして、同じように入院中だったUさんが食事を再開し、退院できそうだと連絡がありました。UさんもYさんと同じように、入院中の経口摂取に苦慮した様子がうかがえるとの情報があったため、再度、生活相談員へ、退院前に病院へ食事の様子を見に行きたいこと、Yさんのように悔いを残したくないことを伝えました。その結果、退院前にカンファレンスを実施していただけることになり、私も同席しました。
カンファレンスの目的は、Uさんの病状や現在のADLのほか、食事環境や食事動作の観察、入院前からある褥瘡についての、処置内容を含めた状況の確認です。施設を代表して参加するため、事前に他職種からも確認事項を聞き取ったうえで、カンファレンスに臨みました。
カンファレンスで情報収集を行ったあと、いよいよUさんと対面です。事前に、褥瘡の処置と食事に立ち会わせていただきたいと申し入れていたため、スムーズでした。カンファレンス中、職種を明らかにすると、タイミングよくミールラウンドを行っていた病院の管理肌の管理栄養士を紹介していただき、簡単に状況を教えてもらうことができました。
その後、Uさんは退院。入院中も提供されていた内容と同じ食形態で提供を行いましたが、食べにくそうにしています。入院中の食事を思い出すと、退院後に当施設で提供しているものより若干粘度が高かったように思われ、食形態を変更。その後は、食事摂取量にややムラがあるものの、問題なく食事を進められています。
連携の機会を待たずにつくる
Uさんのケースは、退院前カンファレンスに対する「お試し」の気持ちもあって、管理栄養士との面談については依頼していませんでしたが、今回は、運よく病棟で病院側の管理栄養士と情報交換を行えました。急なことにもかかわらず情報交換を快諾してくださったことを、うれしく思いました。
介護報酬には、介護老人福祉施設に入所していた利用者が入院し、そのあと同じ施設に再入所(二次入所)する際に算定できる「再入所時栄養連携加算」(表1)があります。今回のUさんのケースでは嚥下調整食が必要なご利用者であったことから「算定が可能かな」とも思いましたが、算定要件にある「医療機関等の管理栄養士と連携して、二次入所後の栄養ケア計画を作成」の部分が実施できていないため算定できていません。
表1 再入所時栄養連携加算の概要
- 指定介護老人福祉施設に入所中に医療機関に入院し、医師が別に厚生労働大臣が定める特別食または嚥下調整食を提供する必要性を認めた場合であって、退院したのち直ちに再度当該指定介護老人福祉施設に入所した場合を対象とする
- 厚生労働大臣が定める特別食とは、療養食加算の対象食種に高血圧のための減塩食、嚥下困難者のための流動食、嚥下調整食が必要なもの。嚥下調整食は日本摂食嚥下リハビリテーション学会の分類に基づくものであること
- 当該指定介護老人福祉施設の管理栄養士が当該者の入院する医療機関を訪問の上、当該医療機関の管理栄養士と連携して二次入所後の栄養ケア計画を作成すること
- 当該ケア計画について二次入所後に入所者またはその家族の同意を得ていること
「介護報酬早見表2024-26年版」(医学通信社)をもとに作成
当施設では栄養マネジメント強化加算を算定していることから、退所時や入院時に次の施設(医療機関を含む)に栄養情報提供書を送付しています。これまでは、情報提供を行うだけの一方的な連携が中心で、ほかについては、必要な時に電話で問い合わせを行う程度でした。
しかし、今回、退院時カンファレンスに同席してみて、紙を通した情報と実際に目の当たりにして得られる情報とでは“雲泥の差”があることを実感しました。栄養情報提供書には栄養管理情報の一環として、食形態のコード分類の記載や写真が載っているなど、食形態の差異が起こらないように工夫がなされています。ただ、食事中の姿勢や食べている様子・食事介助の方法などは、自分の目で見るのが一番わかりやすいと(当たり前ですが)感じました。
食事の観察中に気がついたことなどをその場で質問できたことも大変有意義でした。病院側のスタッフの皆さんが快く受け入れてくれたことも相まって「思い切って行ってみてよかった」というのが、正直な感想です。
医療と福祉の連携を福祉側から見ると、窓口は生活相談員であると思います。そして、医療側の窓口はソーシャルワーカーが多いように思います。これまでも、この2つの窓口を通じて必要な情報を収集してきましたが、どちらも栄養の専門職ではないため、正確な意図が伝わらないことも多く歯がゆい思いもしてきました。したがって、今回のように管理栄養士同士が直接情報交換を行うことが有益であることは、間違いないのです。ただし、そのためには「管理栄養士が能動的に動かなくてはならないな」と感じています。
「チャンスがあったら連携しよう」と思っていましたが、これからは、「連携のチャンスができるように動こう」と考えを改めなければなりません。(『ヘルスケア・レストラン』2024年9月号)
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る