栄養指導で”あるある!こんなこと”
第132回
意外にボリュームがあって濃い味付け
社員食堂の上手な利用法をアドバイス

社員食堂で食べていれば大丈夫だと思いがちな方が多いようですが、意外と主食の量が多く、濃い味付けのメニューも多いことがあります。でも、食堂のメニューを把握し、選び方をアドバイスすれば栄養食事指導の強い味方になってくれます。

約20年間で30kg以上增加
「糖と脂質と肝機能悪化で来院

Uさんは、身長170cm、体重94.6kgでBMIは32.7kg/㎡とかなりがっちりした体格の方でした。健康診断結果が届いてからしばらく経過して来院されました。

田村:Uさんは会社の健康診断で引っかかったんですね

Uさん:はい

田村:いくつかの項目で引っかかっていますが、昨年はどうでしたか?

Uさん:はい。実はここ3年くらいで徐々に引っかかる項目が増えてきた感じです

田村:そうなんですね

Uさん:はい。それで会社の健康保険組合からも受診するようには言われていたんですが、なかなか来る時間がとれなくて……

田村:どこか痛かったりすると皆さん受診するんですが、血糖値や脂質などは自覚症状がないので放置されることも多いんですよね

Uさん:はい……

田村:今回は血糖値と脂質異常症、肝機能についての数値が高くなっています。今日は糖尿病の食事療法を中心にお話しさせていただきます。これを実践して少し体重が落ちると、脂質や肝機能も少しよくなるかと思いますので頑張りましょうね

Uさん:わかりました

田村:今回は初めてなので、まずはお食事についていくつか質問させてくださいね

栄養指導の初回に必ずどの患者さんにも実施している「食習慣の聞き取り」を行いました。Uさんは、①結構たっぷり食事をとる、②早食い、③野菜の摂取は普通程度、④間食は菓子類をちょくちょく食べる、⑤甘いジュース類も時々飲む、⑥アルコールは週に5日程度ウイスキーダブルの水割り、⑦昼食は会社の社員食堂を毎日利用、⑧運動の習慣はなし、ということがわかりました。

田村:20代の頃の体重はどのくらいでしたか?

Uさん:だいたい60kgほどでした

田村:運動の習慣はあまりないようですが、お仕事ではあまり動かないのですか?

Uさん:はい。事務仕事なので、ほとんど動きません

田村:なるほど。わかりました

食習慣の聞き取りといくつか補足の質問をすることで、患者さんのライフスタイルや食習慣の問題点を見つけていきます。初回では糖尿病の食事療法の基本について説明し、次回以降から数値や身体状況を確認しながら説明を補足していきます。今回は「主食の量を一定にする」「野菜をしっかり毎食食べる」「ベジタブルファーストを実践する」「ゆっくりよく噛んで食べる」の4つをお話ししました。

Uさん:管理栄養士さん、それで大丈夫なんですか?

田村:はい。まずはこの4つの基本をしっかり実践して習慣化しましょう。これでどのくらい変化が出てくるか拝見しながら、追加のアドバイスをしていきますね

Uさん:わかりました

田村:毎月、血糖値を検査しながら経過をみていきましょう。脂質などは数カ月後に採血になるかと思いますので、その際に血糖値の変化と併せて確認しましょう

Uさん:わかりました

田村:あとアルコールですが、休肝日もとっていますし適量ですので、今のままで大丈夫です。ただ、甘い飲み物は少し控えたほうがいいですね

Uさん:わかりました

社員食堂での上手な選び方で検査数値が改善へ

そして1ヵ月後、Uさんは再び栄養食事指導で来院しました。

田村:こんにちは。今日はこちらでも体重を量らせてください。……92.5kgですね。前回から2kgの減量です。今日の血糖値は170mg/dlで前回が210mg/dlです。こちらも下がりましたし、HbA1cは前回が6.8%で今回が6.7%。うん、いいですね。HbA1cは少し遅れて結果が反映されるので、いい傾向だと思います

Uさん:よかった

田村:食事はその後、問題ありませんか?

Uさん:はい。朝晩はしっかり野菜を食べて、主食の量も茶碗1杯と決めています。そして、できるだけゆっくりと食べるようにしています

田村:頑張っていますね。そういえば、お昼は社員食堂でしたね。社員食堂だとご飯は丼ですか?メニューは定食とか麺などですか?

Uさん:そうですね。定食が2種類、丼物が2種類、麺類が4種類ですね

田村:主食の量は選べますか?

Uさん:はい。選べます

田村:お昼も主食はできるだけ一定の量にしてほしいんですが、可能ですか?

Uさん:そうすると、大中小の小かな、中かな?ある程度調整してもらえるのでお願いしてみます

田村:それはすごくありがたいですね。普通の茶碗1杯強ぐらい、170g程度でお願いできますか?それと、麺類とご飯を一緒にとるのは避けましょう。丼物もご飯の量が多いので、定食を選ぶのがおすすめです。小鉢とかサラダなどは選べますか?

Uさん:サラダと小鉢が5種類くらいあります

田村:それは素晴らしい。でしたら野菜不足にならないように選べますね

Uさん:はい。会社のほうでも野菜類を食べることを推奨していて、1品60円で食べられるんです

田村:それはありがたいですね

Uさん:そう言えば、あまり自分では選ばないんですがヘルシー定食もあります

田村:そんなメニューがあるんですね。やはりそれだと物足りないですか?

Uさん:そうですね、ちょっと……。女性には人気ですが

田村:なるほど。たとえばそこに小鉢を追加してはどうですか?

Uさん:それならまぁいいかな。今度試してみます

田村:ぜひ、今度写真も撮って来てください

このような感じで数カ月、月に1回のペースで栄養食事指導を実施していきました。体重は7ヵ月で5kg減量となり、血糖値は210mg/dlから120mg/dl前後、HbA1cは6.8%から6.0%前後へ、そして中性脂肪は393mg/dlから180mg/dl、DLコレステロールは142mg/dlから110mg/dlと基準値内になりました。

田村:Uさん、血糖値や脂質の値が改善し、体重も減少しました。頑張っていますね

Uさん:食事でここまで下がるとはびっくりです

田村:今後は少し運動もできると、まだ少し高めの中性脂肪が下がってくると思います。食事だけだと限界がありますので

Uさん:最近、妻とも休日には歩くようにしようって話しています

田村:素晴らしい。ぜひ一緒に頑張ってみてください。脂質異常症改善は運動が効果的です。

Uさん:さんわかりました。今年の健康診断は恐怖じゃなくなりました

田村:よかったです

社員食堂の食事なら大丈夫と安心しがちですが、意外にボリュームや塩分が多い場合があるので注意が必要です。社員食堂のメニューを把握して、選び方のポイントや組み合わせのアドバイスが栄養食事指導で重要になります。(『ヘルスケア・レストラン』2024年7月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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