栄養士が知っておくべき薬の知識
第143回
視覚障害を伴うこともある緑内障
治療薬を知って栄養食事指導に役立てる

今回は緑内障の治療薬について述べます。緑内障は本邦において失明に至る原因として重要視される疾患です。失明ともなれば食事をつくることや摂取することにも苦労するようになります。栄養食事指導にも影響する疾患なのでその治療薬を確認しておきましょう。

緑内障とは

緑内障は、眼圧が上昇することなどによって視神経が障害され視野が狭くなり、ひいては失明にも至る疾患です。高齢者に多く見られますが、40歳以上の20人に1人の割合で発症しているとされます。
緑内障は眼圧が高くなる疾病と考えがちですが、日本人の緑内障患者では眼圧が正常であるにもかかわらず視野が狭くなる「正常眼圧緑内障」患者が多く、症状に気づかず、気が付いた時には高度の視野狭窄となり、生活に支障を来すケースが見られます。こうなると回復が見込めないため、緑内障は早期発見、早期治療が重要になります。

一般に緑内障は、眼圧の上昇が原因の1つと言われています。正常値は10~21mmHg程度です。目の中には栄養を運んだり、老廃物を処理したりするための房水という液体が循環しています。しかし、房水が多くなり過ぎると目の中の視神経を圧迫し、視神経が壊れて視野に障害を生じます。視神経が構造的に壊れやすいためです。正常であれば房水は目の縁の隅角にあるシュレム管から排泄されますが、房水が増え過ぎたり、隅角が狭くなって房水が十分に排泄されずに溜まってしまったりすると眼圧が上昇します。

正常眼圧緑内障は房水によって眼圧が高くなるというよりも、通常なら耐えられる眼圧であっても視神経に問題があって視神経が障害されやすいために緑内障を発症する場合です。はっきりとした原因はわかっていませんが、視神経自体の血流の悪いことなども一因ではないかと言われています。低血圧の方や冷え性、ストレスや慢性頭痛、パソコンをよく見る方などは、正常眼圧緑内障の危険因子とされます。

緑内障がほかの疾患の影響で起こる場合を続発性緑内障、原因がはっきりわからない場合を原発性緑内障と言います。また、前述した隅角が閉塞してしまって房水が溜まる場合を閉塞隅角緑内障といい、緑内障患者の10%程度に見られます。これが急激に起こると眼痛や頭痛、吐き気や嘔吐を伴う場合もあり、隅角が完全にふさがってしまうと1日で失明してしまう場合もあります。電灯に虹のような輪が見えてこれらの症状がある場合はすぐ受診する必要があります。
これ以外の緑内障は、開放隅角緑内障でゆっくりと進行するタイプです。初期には自覚症状はほとんどなく、典型的な症状として、視野が徐々に狭くなる視野狭窄や視野の一部が見えなくなる暗点、またある1点だけがかすんで見える状態などがあります。さらに症状が進むと、パソコンの画面が見えづらいとか、新聞の文字がかすむといったことが生じます。

緑内障の治療

視野障害は非可逆性なため、隅角が閉塞していればレーザーを当てたり、手術が必要になったりします。そうでなければ眼圧を下げる点眼剤が使われます。点眼剤は房水の産生を抑えるタイプと、房水の排泄を促進させたりする作用をもつものに分かれます。まず使われるのがプロスタグランジンという成分の入ったPG点眼剤です。房水の排出を促進する作用があります。主に1日1回の点眼で作用も強力です。現在、キサラタン®(ラタノプロスト)、タプロス®(タフルプロスト)、トラバタンズ®(トラボプロスト)、ルミガン®(ビマトプロスト)の4種類があります。
一方、PG製剤は充血したり、目の周りに色素沈着を起こしたり、また「まつ毛」が伸びやすくなるといった副作用があります。色素沈着の場合は入浴前の点眼が勧められます。また「まつ毛」が伸びやすいことから皮膚やまつ毛についた点眼剤はよく拭き取ることが大切です。さらにまゆげの下のくぼみが目立ってきたといわれる方もいます。こうした場合はPG製剤問で薬を変更したりして副作用の軽減化を図れないかが検討されます。

PG薬でも十分な眼圧低下が得られない場合は、房水の産生を抑えるβ遮断薬という点眼剤が使われます。PG薬は回数を増やしても効果が得られにくいためです。チモプトール®(チモロール)、ミケラン®(カルテオロール)、ベタキソロールなどです。以前はこれらの薬が中心に使われましたが、喘息発作を誘発したり、徐脈が起こりやすかったりするため、全身性の副作用の少ないPG製剤に第一選択薬の座を譲っています。

点眼剤といってもわずかながら身体に吸収されるため、全身性の副作用が生じることに注意します。特にほかの疾患をもつ方には、その疾患を悪化させたりしないよう患者ごとに目薬が選択されます。最近ではPGとβ遮断薬が1つの点眼剤に含まれている合剤もあります。ミケルナ®、ザラカム®、タプコム®、デュオトラバ®、コソプト®、アゾルガ®、アイベータ®など多数の合剤が発売されていて、患者さんの効き目などに応じて使い分けられています。このほか、房水産生抑制作用のある炭酸脱水素酵素阻害剤のトルソプト®(ドルゾラミド)、エイゾプト®(ブリンゾラミド)、房水の産生を抑制し房水流出促進作用を併せもつα2刺激薬であるアイファガン®(ブリモニジン)なども使われます。

これらの点眼剤でも十分な効果が得られない場合があるとして、Rho(ロー)キナーゼ阻害剤のグラナテック®(リバスジル)という薬が発売されました。この薬はシュレム管に直接働いて、房水の排泄を促進する作用があります。またPG製剤でも、EP2受容体という作用点に特異的に結合して房水の排泄を促すエイベリス®(オミデネバグ)という薬も発売されています。飲み薬の緑内障治療薬はほとんど用いられませんが、炭酸脱水素酵素阻害剤であるアセタゾラミドという薬が短期間に限って使われることがあります。

おわりに

患者数の多い緑内障です。どういった食事をとったらよいかという相談を受けることもあるかと思います。緑内障を栄養によって改善させるということは難しいと思いますが、偏食によって緑内障に罹りやすくなる可能性も考えられます。日頃からバランスのよい食事をとることが必要でしょう。困るのは視覚障害患者さんの食事だと思います。管理栄養士さんも「箸でつかみやすいものにしてください」と言われたことがあるかもしれません。視覚障害患者さんの食事介助では、おかずを説明したり食器の感触を確かめたり、時計の文字盤にたとえて順番に献立の説明をしたりします。食べ物の位置がわかることで、その人らしく食事を召し上がってもらうためです。極端に熱いものや冷たいものを避けたり、魚の小骨を取り除いたりしてあげるといった注意も必要かと思います。

視覚障害患者さんにとって食事をとるのは大変な作業です。このほかにも転落、転倒のリスクが増え、患者QOLが大きく損なわれます。その一方、緑内障は病状がゆっくり進行するため点眼を忘れたり、受診することを止めてしまったりする方も多く見られます。緑内障の患者さんを見かけたら、食事場面を思い浮かべて、楽しい食事が続けられるように注意してほしいと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2023年7月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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