“その人らしさ”を支える特養でのケア
第66回
栄養管理情報の提供で深まる地域連携

提供後どのように使われているのか、実際に必要とされているのか……。施設間でやり取りされる栄養管理情報は、提供先の反応がわかりにくく、その意義に悩むことがあるかもしれません。しかし、“シームレスな地域連携”には欠かせない重要な情報です。

特養からの栄養管理情報の提供

栄養マネジメント強化加算では、退所時に入所(入院)先等に栄養管理情報を提供するよう求められています。当施設では、ご利用者の入院先がわかった時点で栄養情報提供書を作成しています。ただし、夜間や休日の入院については対応できておらず、「入院=退所」ではないことに甘えてしまっているのが現状です。
本誌2022年11月号で、ご利用者の前施設からいただいた栄養情報提供書の活用について紹介しましたが、今号では逆に特養から栄養管理情報を提供することの意義について考えたいと思います。

「Kさんなんだけど、入院が長引いたので退所になりました」
ある日、生活相談員から入院中のKさんについて話がありました。こんな報告を聞くと、これまでは「Kさん大丈夫かな~。新規入所の方はどんな人だろう……」と緊迫感もなくのんびりしていたのですが、今回はそうではありませんでした。
なぜなら、Kさんの入院は私の休暇中の出来事で、栄養情報提供書を作成していなかったからです。入院したことを聞いてすぐに「これから作成して送ろうか、どうしようか……」と迷って、結局送らなかったケースでした。

当施設の場合、「入居者が病院または診療所に入院し、明らかに3ヵ月以内に退院できる見込みがない時、または入院後3ヵ月経過しても退院できないことが明らかになった時」は契約を終了する(つまりは退所)と、入居利用契約書に記しています。Kさんのケースでも右記の契約条項によって退所となりました。つまり生活相談員から報告があった時点で、入院から3ヵ月経過している、というわけです。
退所するなら栄養情報提供書を用意しなければと思う一方で、3ヵ月前の状態を報告されても病院側は戸惑うだろうなと思いました。結局、いまさら書類を送ってもむだではないだろうか、という気持ちが大きくなり、書類を出すことはしませんでした。

加算から見る栄養管理情報の提供

栄養マネジメント強化加算の算定要件の一部に「当該入所者が退所し、居宅での生活に移行する場合(中略)また、他の介護保険施設や医療機関に入所(入院)する場合は、入所中の栄養管理に関する情報(必要栄養量、食事摂取量、嚥下調整食の必要性〈嚥下食コード〉、食事上の留意事項等)を入所先(入院先)に提供する」1)と示されています。
特養から退所する場合、ほとんどは亡くなられた時です。入院する場合は退所とはならず、外泊と同等の扱いです。参考までに、令和4年度に当施設を退所された方のうち、ほかの介護施設や医療機関(以下、医療機関等)に入所(入院)された方は全退所者の13%でした。算定要件を見ると、退所となっていないことから入院時に特養から医療機関等へ栄養情報提供書の送付は行わなくてもいいように感じます。
しかし、自分自身が特養で栄養ケアを行うにあたって、新規入居の際に栄養情報提供書があるのは大変ありがたいと思っていることから、逆の立場であってもそうなのではないか、と思っています。新規入居の際に、特養の管理栄養士が前施設での栄養ケアの内容を知りたいと思うのと同じように、病院の管理栄養士も入院時に特養での栄養ケアの内容を知りたいと思っているのではないでしょうか。

当施設で使用している栄養情報提供書(栄養ケアマネジメントサマリー)を図1に示しました。周辺の医療機関等からいただく栄養情報提供書の内容を参考に作成しています。前述の算定要件では提供する情報について「必要栄養量、食事摂取量、嚥下調整食の必要性(嚥下食コード)、食事上の留意事項等」と示されていますので、最低限この4つの情報があればいいということでしょう。この4項目なら、介護・看護サマリーへ追加すれば済むのかな、とも考えられますが、送った先で管理栄養士に届かない可能性もあり、内容が重複しても管理栄養士宛に送ることに意義があると思い、図1を使っています。

栄養管理情報の提供は利用者のためになる

Tさんは認知症のため食事摂取量が極端に少ない方でした。食べてもらうことに苦慮していましたが、栄養補助飲料をカップに移して提供すると拒否されずに飲んでもらえるため、Tさんが入院の際、栄養情報提供書に記入し送付しました。Tさんは入院中も食事が食べられなかったため、栄養補助飲料をカップに移して提供した、と退院時にケアマネジャーを通じて知らせてもらいました。小さなことでしたが、こちらからの情報が役に立ったと感じたエピソードです。

当施設から入院の際の栄養情報提供書の送付件数はまだ数えるほどです。そのため、送付先でどのように活用されているのかはまだわかりませんが、入院中の栄養管理に少しでも役立っているといいな、と思っています。
さて、前述のKさんのようなケースはこれからもあるだろうな、ともやもやした日々を送っていると、その後も入院が長期化し退所になるケースが出てきました。これも、Kさんの時と同じように夜間や休暇中の入院で、栄養情報提供書を作成していないケースです。
これらのケースを経験して、「やっぱり郵送すれば良かった」と思っても後悔先に立たず。今後は入院の情報を聞いたら郵送になってしまっても栄養情報提供書を送ろうと思いました。余談ですが、栄養情報提供書を準備した方に限って入院に至らない、というジンクスも出来上がりつつあります。

栄養管理情報の提供は地域連携の第一歩だと思います。連携を深め、ご利用者にかかわるすべての医療・介護の担当者と栄養管理情報の共有を進めていきたいです。(『ヘルスケア・レストラン』2023年6月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る

TAGS

検索上位タグ

RANKING

人気記事ランキング