栄養士が知っておくべき薬の知識
第141回
塩分制限における栄養管理の落とし穴
薬に含まれるナトリウム(食塩)について

今回は、薬にナトリウム(食塩)が含まれる場合について述べます。心不全患者さんの食事は塩分を控えるなどいろいろと工夫されていると思います。一方、薬の中には成分を安定させるためや水に溶けやすくするために薬の成分にナトリウム(食塩)を含んでいるものがあり、思わぬ塩分負荷がかかる場合があります。

抗生物質のナトリウム量

病院で抗生物質を点滴で使う場合、生理食塩液に溶かすことが多いと思います。生理食塩液は0.9%食塩液なので、100mlに溶かして使うとそれだけで0.9gの食塩を投与していることになります。抗生物質の種類によっては、1日4回などに分けて投与することが有効な場合があります。つまり3.6gの食塩を投与してしまうことになります。心不全患者さんでは病態が増悪しかねませんし、浮腫や腹水のある患者さんの症状悪化を招きかねません。このような場合、抗生物質の溶解には、5%ブドウ糖液100ml(20lcal)で溶解したり、生理食塩液を50mlに減量して投与したりします。

また、抗生物質そのものにナトリウムが含まれている場合があります。ホスミシン®という抗生物質は、1g中にナトリウムを14.5mEq含んでいて、0.9gの食塩量になります。1回2gを1日2回使うと、3.6gの塩分負荷になります。
なぜホスミシンにナトリウムが含まれているかというと、薬を壊れにくくしたり、水に溶けやすくしたりするためです。これほどナトリウムを含む抗生物質は少ないのですが、タソバクタム/ピペラシリン(タソピペ®)は4.5gを1日3回ほど使いますが、この場合も1日1.7gほどの食塩負荷となり、アンピシリンNa/スルバクタムNa(ユナシン®)では1.5gを1日4回使うと食塩量として1.172gの負荷となります。

高カリウム血症治療薬

最近発売された高カリウム血症治療薬のロケルマ®(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)は、従来の高カリウム血症治療薬と比べて改善効果の高い薬として期待されています。その名が示すとおりナトリウムを含んでいる治療薬です。薬理作用としてナトリウムとカリウムを腸管で交換して、カリウムの吸収を抑えて高カリウム血症を改善する働きがあります。これは腎不全患者さんに用いることの多い高カリウム血症治療薬です。

腎不全が進行した患者さんには野菜に含まれるカリウムの摂取制限などの食事指導をされると思います。これはアルカリ成分である重炭酸イオンが腎機能低下に伴って減少するため身体が酸性(アシドーシス)に傾いてしまい、細胞内のカリウムが血液中に漏れ出してくるためです。
高カリウム血症は、心臓の興奮性が低下し、最悪心停止に至るためとても危険な状態です。緊急時は、カルシウムを注射で用いたりインスリンを使ってカリウムを細胞内に移行させたりしますが、緊急を要さない場合は、ロケルマ®などの経口薬でカリウムの吸収を抑える薬を使います。ロケルマ®はナトリウムとして5g中に0.4g、15gでは1.2g含有します。つまり食塩相当量とすると、ロケルマ®を15g服用すると3gの塩分負荷となります。

高カリウム血症治療薬にはこのほか、カリメート®(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)やケイキサレート®(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)があります。塩分負荷をかけたくない場合は、ナトリウム含有量の少ないカリメート®が有利と言えます。

ナトリウムを含む胃薬

胃薬には胃酸を中和する目的で炭酸水素ナトリウム(重曹)を含むものがあります。炭酸水素ナトリウムは胃薬のほか、前述したアシドーシスの改善目的、痛風や高尿酸血症時に酸性尿を改善する目的で使う場合があります。
炭酸水素ナトリウムもその名のとおり、ナトリウムを含むため塩分負荷となります。炭酸水素ナトリウムを胃酸中和剤として病院で処方されることは少ないと思いますが、市販の胃薬ではよく使われています。太田胃散やパンシロン®、キャベジンやスクラートといった商品名を聞いたことがあると思います。これら市販の胃薬は、ほとんど炭酸水素ナトリウムを含んでいます。1日量の食塩量としては、太田胃散で1.27g、パンシロン®で1.35g、キャベジンコーワaで0.5g、スクラートで0.4gほどの塩分負荷となります。比較的安全性の高い薬なため、習慣として服用していたり胃がもたれた時に大量に服用したりする方もいますので要注意です。
このほか、健胃薬として食欲不振、胃部不快感、胃もたれに使われるKM散にも炭酸水素ナトリウムが含まれています。炭酸水素ナトリウムを食塩量として計算する場合、炭酸水素ナトリウム量(g)×0.7=食塩相当量(g)となります。つまり2gの炭酸水素ナトリウムは、およそ1.4gの食塩に相当すると算出されます。
また、薬の成分名に「ナトリウム」とあるものはすべてナトリウムを含む薬です。汎用される薬では、クエン酸第一鉄ナトリウム錠は、鉄を補給する薬ですが、50mgを2錠服用すると食塩量は0.4gに相当し、市販品としても入手できる、ロキソプロフェンナトリウムは3錠で0.039gといった具合に、それぞれ塩分負荷となります。

うま味成分としての塩分について

管理栄養士の方はよくご存じのことかと思いますが、ナトリウムは、塩、しょうゆ、みそなどの食塩(塩化ナトリウム)を含む調味料やハム・ウインナーなどの加工肉、練り製品、即席ラーメンなどの加工食品、漬け物などにも多く含まれています。
患者さんのなかには、病院食を薄味でおいしくない、食事が進まないと言う方もいます。これは満更ではなくて、最近になって舌には塩分をうま味と感じる受容体があることがわかってきました。
味覚は、甘味・酸味・塩味・苦味・うま味の5味ですが、これらは舌にある味蕾で感知されます。味蕾にはそれぞれの味を感じる受容体があってそれを脳に伝えます。

酸味と塩味については十分な理解が進んでいなかった面もありましたが、最近になって塩味の受容体が完全ではないにしても明らかになってきました。CAHM1/3というタンパク質です。つまり、この部分に作用する物質が明らかにされれば、ナトリウム(食塩)を含まなくても塩味を脳に伝えて、塩分制限のある方でもうま味として食事を楽しむことができるかもしれない、ということに言い換えられると思います。

おわりに

今回は薬に含まれるナトリウム(食塩)について述べました。アセトアミノフェン(カロナール®)は、小児やインフルエンザ時の解熱などにも用いられる比較的安全な薬です。
本邦で用いられることはありませんが、国外ではアセトアミノフェンの発泡錠が売られていて1錠当たり1gほどに該当する食塩が含まれているものがあります。先日、これによる健康被害を生じたケースが報道されました。食事のうま味と違って、薬にうま味は必要がないのに、いわば強制的に塩分負荷となるため注意したい事項かと思います。
患者さんの浮腫や腹水の悪化、心不全の増悪といった症状の原因の1つに薬に含まれるナトリウム(食塩)が関係しているかもしれません。気になる場合は、近くの薬剤師におたずねください。(『ヘルスケア・レストラン』2023年5月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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