“その人らしさ”を支える特養でのケア
第64回
目的を明確にした
看取りの食事ケアを行っていこう
看取り介護加算は、利用者の死亡日を基準に45日前から逆算して算定されます。この看取り介護にかかわるスタッフとして、令和3年度介護報酬改定において管理栄養士が算定要件に明記されたことは、皆さんの記憶にも新しいことでしょう。
迷いの多い看取り期の食事
当施設では、看取り介護加算要項に管理栄養士が明記される以前から、管理栄養士も看取り介護にかかわっています。そこで、ご利用者が食べたいものは何かについて考えたこと、また食事以外の看取り介護への管理栄養士のかかわり方について紹介したいと思います。
看取り介護に移行したご利用者に栄養ケア・マネジメントのプランニングを行う時、目標に掲げるのは「食べたい時に食べたいものを食べたいだけ食べてもらう」ということです。しかし、看取り期のご利用者は意思の疎通が困難なケースも多く、本当にご本人が希望する食べ物を提供できているのか、わからないこともあります。
普段からご利用者が食べているところを観察して、「あれなら食べやすそうだ」とか「これだと口の動きがいい」といった様子や、かつてのその方の食に関するエビソードから想像して対応することをしばしば経験します。
それはあるミールラウンド中のことでした。「高栄養プリンが食べにくいみたいで、いつも口の中に残ってしまう」と、Fさんの食事介助をしていた介護職員から相談を受けました。
看取り介護の対象とはいえ、Fさんは移行してから長い時間が経っています。体調によってまったく食べられない時があるものの、食事摂取量は必要量を満たすくらいには確保できていました。一方で食事中に起こるむせは弱く、しっかり喀出できません。食事中に「うう~」という唸り声を上げることもあり、このまま食事を続けていいものか、介助者が迷う場面も多くなりました。
看取り期における食事のあり方
話が前後しますが、当施設内で看取り介護の考え方が根付いてきた頃の出来事に触れたいと思います。
眠っていることが多くなり、嚥下も難しい状況のご利用者に対する食事提供の是非について、多職種で検討する機会がありました。食事は毎食提供されていましたが、口にされることなく廃棄となっています。このような状況から、食べられない食事は中止して、ゼリーなどの食べやすいものを提供するのが良いのではないかと意見がまとまり、ご家族に提案することになりました。ちょうど、そのほかの複数のケアについてもご家族に相談する事項があり、食事内容の説明もまとめて生活相談員が引き受けてくれました。詳細はわからないのですが、食事内容についてお話ししたところ、「食事を出さないなんて、早く死ねということか」と、お叱りを受けたとのことでした。
そのお叱りを重く受け止め、私たち職員は、たとえ食事量が少なくなった終末期であっても栄養補助食品を含めた食事提供を継続して、少しでも多くの栄養(エネルギー)を摂取してもらう、ということが暗黙の了解となりました。
また、この「食事内容の説明がうまくいかなかった」経験から、食事に関する家族連絡はなるべく管理栄養士が行うようにしています。やむを得ずほかの職種に依頼する場合は、必ず伝えてほしいことも合わせて申し送りし、対応してもらっています。
さて、Fさんですが、食事摂取量が少なくなってきたことをきっかけに栄養補助食品の提供を開始。看取り介護に移行したあとも引き続き栄養補助食品を付加した食事の提供を続けました。栄養補助食品を提供してからは、食べられそうなら食事も、という手順で進められていたようですが、「栄養補助食品が残ってしまって食事に辿り着かないことが増えた」と介護職員は言います。
食べにくいものを無理に食べさせるのはFさんにとって苦痛なのではないか。そう感じた私は、食事の順序を変更してもらうことにしました。これまで先に食べていた栄養補助食品を後回しにして、食事を優先的に提供してもらうことにしたのです。
それにより、Fさんは前よりもスムーズに食べられるようになり、提供していた栄養補助食品は中止することができました。その後、覚醒状態の悪化があり、現在は1日2食の提供となっていますが、食事中のむせやうなり声が減少して、以前と比べると食事の時間を安楽に過ごせているのではないかと思います。
摂取栄養量は低下しましたが、Fさんの負担が軽減していることは看取り介護の視点から見て、有益であったと感じています。
利用者にとっての良い栄養ケアを問い続ける
これまでの経験から、看取り期の多くのご利用者は次第に覚醒時間が短くなり、食事を食べる時間そのものが減っていきます。そのうえ、摂食嚥下機能の低下によってますます食事摂取量が低下してしまいます。このことから、看取り期は提供する食事と比べて多くの栄養摂取が可能な栄養補助食品を優先して提供することが、最も良いこととして施設内で浸透しています。
ご経験がある方もいらっしゃるかと思いますが、看取りケアでは飲食がまったくできない状態で1週間以上過ごされる方もいらっしゃいます。そんな場合でも当施設では基本的に給食のメニューに準じた食事を提供していることが多いです。「もったいない」と感じる職員もいますが、前述した事例もあり、できるかぎり給食の範囲内で対応しています。
たとえば、ゼリーやプリン、アイスクリーム、乳酸菌飲料などできる範囲で補助食の代わりに提供してもらうこともあり、柔軟な対応ができるよう、ご利用者ごとに委託業者と協議しています。
今回紹介したFさんのような事例をいくつか経験したことで、「食べられるものを食べられる量」と言いつつ、私自身が栄養量にこだわっていたのかもしれない、と反省しました。
栄養ケアから考えると不適切だと思われるようなことであっても、看取り期におけるご利用者にとっては有益な場合もあることを経験しました。そのご利用者にとって一番良いことは何かを考えながら、栄養ケアを行っていきたいです。(『ヘルスケア・レストラン』2023年4月号)
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る