栄養指導で”あるある!こんなこと”
第117回
血糖値がなかなか改善しない
その原因は職場環境にあった!?

今回は血糖値がなかなか改善せず、栄養指導でもどうも反応が薄いFさんを紹介します。4カ月にわたる栄養指導でもなかなか血糖値が下がらず、職場環境や口渴、ストレスなどさまざまな要因がからみあった症例でした。

栄養指導をしても反応が薄く意思疎通が難しい……

Fさんは、職場の健康診断で高血糖が指摘され受診となりました。かなりの高血糖状態でしたが、健康診断は毎年きちんと受けており、これまでは境界型程度だったようです。初診時、身長164cm、体重64kg、BMI23.8kg/㎡と「肥満もありませんでしたが、血糖値は506mg/dl、HbA1cは14.8%とかなり高値でした。初回の栄養指導で気になったところは、「主食がやや多め」「早食い」「外食が週に3~4回」「甘い清涼飲料水をよく飲む」といった点でした。

田村:高血糖と言っても食べていけないものはないのですが、甘い飲み物はかなり糖分が含まれています。水分補給は甘くないお茶や水、ブラックコーヒーや無糖の紅茶などではいかがでしょうか?

Fさん:う~ん、そうですね……

田村:難しければ炭酸水やノンシュガーの飲料なら大丈夫です

Fさん:それなら我慢できます

田村:血糖値が今の状況だと本来なら即入院レベルです。まずは一番の原因と思われるところから少し頑張ってみましょう。お若いのでそれだけでも血糖値が改善してくると思います

その後、毎月定期的に栄養指導を実施し、数値や初回指導後の食事の様子、飲み物の確認などをしながら、野菜の摂取量や外食時の留意点などをお話ししました。Fさんはとても静かで、反応はいつも「はい」と返事が返ってくる程度で、なかなか意思疎通が難しいと感じていました。
血糖値は4カ月目で520mg/dl、HbA1cも13.7%とあまり改善が見られず、私も困惑していました。そして5回目の栄養指導のことです。いつもどおり体重を測定し、検査結果を見ながら話し始めました。

口渴と咀嚼、食環境多様な要素が複合要因?

田村:体重は特に変わりはないようです。空腹時血糖値は277mg/dl、HbA1cは12.7%ですね。少しずつですが改善傾向です。下がったとはいってもまだまだ高いので頑張っていきましょう。今日は食物繊維についてお話ししますね。野菜や海藻、きのこをしっかり食べてほしいのはこの食物繊維をしっかりとってほしいからです。あとはよく噛んで食べることも意識してください

Fさん:食物繊維ですか。噛むことと唾液の分泌って関係ありますか?

田村:はい。関係があります

Fさん:実は口が渇くっていうか唾液が少なくなって悩んでいます

田村:いつぐらいからですか?

Fさん:ここ1年くらいかな。それでどうしても食べにくかったり、食事も楽しくなかったりして……

田村:Fさんの場合、高血糖が原因で口が渇くこともあると思います。また、コロナ禍でマスク生活が長引き口呼吸になってしまったり会話がぐっと減っていたりすると、口の周りの刺激が減り、唾液量が減少することも原因になります

Fさん:なるほど

田村:実は唾液を分泌する腺は、耳の下の耳下腺、あごの下の顎下腺、ベロの下の舌下腺の3つあって、食物繊維を含むやや硬めのものをよく噛んだり、会話をしたりすることで唾液が分泌されます

Fさん:1年くらい前に職場で部署が変更になり、それまでは同僚とよく話もする部署だったんですが、今はあまりしゃべることがなくなったのです。全部つながりますね

田村:健康と環境は関係が深いです

Fさん:最近は唾液も減って食べづらいから食事も楽しくなくて、ついついさっと食べられる軟らかいものばかり選ぶようになっていました

田村:なるほど。血糖値が上がったのも最近急にでしたよね。職場の環境、コロナ禍、会話の減少、高血糖、唾液の減少、食事がストレス……。悪循環でしたね

Fさん:そうですね。全部つながりました

田村:それでなかなか血糖値が改善しなかったんですね。少しずつ硬いものをゆっくり噛むようにしていくと血糖値が改善してくるかもしれません。血糖が改善してくれば口渴もだんだん治まってくると思います

Fさん:はい

血糖値がよくなり唾液の分泌も改善

田村:あと食事の前に唾液腺の辺りをマッサージしてください。たとえばあごの下を刺激してみてください

Fさん:確かに唾液が少し出てきました

田村:決して唾液が出ないわけではなく、刺激が減っていたことも口渇の原因かもしれません

Fさん:いろいろとストレスが重なったのかもしれないと、今日話を聞いていて思いました。若干ですが数値も下がってきたので希望がもてました

田村:そうですね。まだ高いのは変わらないですが改善傾向ですし、何より本来楽しみのはずの食事が口渇によって苦痛だったことがわかってよかったです

Fさん:私もどこに相談したらいいかずっと悩んでいました。少しでも改善する方法が見つかれば何よりです。糖尿病になるし、食事が楽しくなくなるし、本当にストレスばかりでした

田村:私も今日はしっかりとお話ができてよかったです。正直これまで、お話しした内容がちゃんと伝わっているかどうか不安でした

Fさん:少し数値も下がってきて、職場の環境も以前よりは慣れてきたところです。異動した頃が最もストレスが酷かったです

田村:今回の気づきがきっと好転するきっかけになると思うので頑張りましょう

Fさん:はい。唾液腺のマッサージなんかもやってみます

Fさんはこの栄養指導をきっかけに状況が好転していきました。服薬しているものの血糖値もどんどん改善して、半年後には150mg/dl台、HbA1cは7%台まで改善しました。もちろん、まだ少し高めなので、栄養指導を継続していますが、最近では職場の話などもよくしてくれるようになりました。血糖値の改善とともに口渇も治まり、唾液の分泌もよくなったようです。また、苦痛だった友人との会食も最近は楽しめるようになったそうです。はじめは口数が極端に少なく、なかなかうまくコミュニケーションがとれなかったFさんでしたが、ちょっとした話のきっかけで距離がグンと縮まり、それが患者さんのやる気や数値の改善につながってよかったです。(『ヘルスケア・レストラン』2023年4月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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