栄養士が知っておくべき薬の知識
第140回
目薬や液剤、経腸栄養剤など
汚染に注意が必要な医薬品について

今回は微生物に汚染されやすい医薬品について述べます。管理栄養士の方も食品の衛生管理や経腸栄養剤使用時の微生物汚染には日々注意されていると思います。

汚染されやすい医薬品

医薬品では、液剤やシロップ剤、含嗽剤または目薬など、いずれも水分を含む医薬品の汚染には注意します。もちろん注射薬も水分を含んでいるため汚染にはとても気を使っています。
汎用されている医薬品のうち、汚染を受けやすいものに「目薬」があります。目薬を使われる方はおわかりかと思いますが、目にうまく目薬を入れようとして、容器の先端が目やまつげ等についてしまうつけ方で汚染が始まります。目薬の正しいつけ方は、まず清潔な手で、顔を天井に向けて容器を目の真上に持ってきて容器の先端が目につかないように、目から2~3cm離して点眼します。目薬は多かれ少なかれ汚染されるため、処方期限内に使い切ることも大切です。
また、「よく振ってから使ってください」と書かれている目薬もあります。これは薬の成分が溶け切っていない懸濁した目薬です。花粉症で目がかゆい時に使われる「フルメトロン®点眼」(ジェネリック品はフルオロメトロン)などが該当します。こういった目薬以外で、目薬の中に濁りや浮遊物があれば、汚染されて成分が変化した可能性があります。このような目薬は使わないでください。

汚染を受けやすい目薬ですので、保存剤としていわゆる消毒薬の成分が入っています。逆性せっけんである塩化ベンザルコニウムなどです。ただし多くの消毒薬の薬理作用は、細菌のタンパク質を変性させて殺菌します。一方では、それが角膜の細胞にも作用してしまうため、角膜上皮障害を起こす場合があります。一般的な目薬に含まれる消毒薬の量はとても少量であるため、問題になることは少ないのですが、角膜が傷ついている方などでは、保存剤として含まれる塩化ベンザルコニウムの量でも問題になる場合があります。こういった場合は、やや高価になりますが、ユニットドーズといって一回で使い切る目薬を使ったり、ノズル部分に特殊なフィルターを組み込んだフィルター内蔵製剤を使ったりすることもあります。ただし、ユニットドーズ製剤は、開けづらく指先が不自由な方には使いづらかったり、フィルター内蔵製剤は点眼瓶が固く、高齢者には点眼しづらかったりというデメリットもあります。またソフトコンタクトレンズを使っていると、保存剤の塩化ベンザルコニウムがコンタクトレンズに吸着してしまい角膜を傷つけやすくなってしまうことも問題になります。

花粉症などのアレルギー症状に対する点眼薬のうちリボスチン®とパタノール®の添付文書には、「含水性ソフトコンタクトレンズ装用時の点眼は避けること」と書いてあります。またザジテン®の添付文書には、「ソフトコンタクトレンズを変色させることがあるのでソフトコンタクトレンズを装用している場合は、点眼前にレンズを外して、点眼して15分以上経過後に再装用すること」、パタノール®点眼薬の場合は「10分後に再装用すること」と書かれています。
ソフトコンタクトレンズでも非含水性やワンデータイプ、ハードコンタクトレンズであればこの心配はいりません。

液剤やシロップ剤の微生物污染

液剤やシロップ剤では、胃炎などに使われるアルロイド®Gや小児用によく使われるシロップ剤は微生物汚染を受けやすいため要注意の医薬品です。
アルロイドG®は、胃の生検後や逆流性食道炎でむかつきなどの改善に用いられます。ドロッとした緑の液体で、見た目から患者さんのなかには「これを飲むのか」と驚かれる方もいます。しかし飲んでみると芳香があって見た目とは裏腹にすっきりする薬です。

成分は、アルギン酸ナトリウムで海藻からつくられる食品添加物にも用いられるものです。添加物には、緑色を増すための銅クロロフィリンナトリウムや保存剤としてパラベン、エタノールを含んでいます。パラベンは化粧品、食品にもよく含まれている保存剤です。パラベンの保存効果は塩化ベンザルコニウムよりも弱いとされますが、その分人体には安全と考えられます。防腐効果に有効とされる濃度が0.08~0.1%とされるのに対して、アルロイド®Gには0.01%程度しかパラペンを含んでいません。細菌汚染を防ぐ効果が弱い分注意が必要になります。特に易感染性(compromised host)の患者では、汚染された液剤によって細菌性腸炎などといった感染症が成立する場合もあります。

液剤やシロップ剤を服用する時は、医薬品の入っている瓶で直接服用しないこと、冷所保存を徹底することなどが大切になります。管理栄養士さんが在宅でこのような光景を見かけたら注意してください。このほか、保存剤を含まないまたは含んでいても汚染を受けやすい液剤に、病院や薬局において自前でつくられるアロプリノール含嗽液やファンギゾン含嗽液などがあります。

経腸栄養剤の微生物污染

経腸栄養剤による汚染報告は数多く見られます。経腸栄養剤は文字どおり栄養が豊富でこれは微生物にとっても恰好の培地です。したがって、経腸栄養剤をバッグやボトルに移し替える場合は、8時間以内に投与を終えるようにします。稀に24時間持続的に経腸栄養剤を使うといったこともあると思います。この場合も栄養剤を一度に別時間分入れるのではなく、8時間ごとに移し替えるほうがよいと思います。バッグを切ったハサミが汚染していたり、栄養剤がこぼれてその個所が汚染されていたりして、扱った人の手を介して感染が生じてしまうといった場面も想定されます。経腸栄養剤を扱う時は汚染されやすいということを念頭に、手や調製する場所を清潔に保つ必要があります。

最近では製品のまま投与可能なRTH(ready to hang)製剤が発売されています。微生物汚染の面からRTH製剤の有用性は高いと思います。経腸栄養剤は、バッグやチューブも使い捨ての製品が発売されています。
1回ごとに使い捨てると、経済的にも負担であったり、プラスチックゴミが増えてしまったりするという社会的な懸念もあって十分に普及しているとは言えません。バッグを再使用する場合は、基本的に個人専用として、中性洗剤で洗浄して、その後0.01%次亜塩素酸ナトリウム(ミルトン、ピューラックス、市販品ではキッチンハイターなどを用いて希釈する)で浸漬するなど、清潔性を保つことが大切です。

ところで次亜塩素酸ナトリウムを「素手」で扱うと手がぬるぬるします。これは手の蛋白質が溶け出すためです。ゴム手袋をつけて扱ってください。次亜塩素酸ナトリウムの消毒効果はとても強力な半面、安全性に不安を覚える方もいます。しかし次亜塩素酸ナトリウムはNaOCIで表され、経腸栄養剤中のたんぱく質と反応すると食塩(NaCI)になり、また乾燥すれば塩素ガスとして揮発するため、食器洗いなどに適した消毒薬と言えます。このため赤ちゃんの哺乳瓶の洗浄などに汎用されています。独特の臭いがあるので、次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄後はよくすすぐことも必要だと思います。

今回は医薬品の微生物汚染について述べました。日々の業務で、雑務とも思われる洗浄、消毒作業ですが、患者の立場になって、疎かにすることなく安全で安心できる医療を提供していただけたらと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2023年4月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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