栄養士が知っておくべき薬の知識
第139回
栄養管理にも影響する
花粉症の治療薬について
今回は花粉症の治療薬について述べます。花粉症には患者さんばかりでなく医療従事者のなかにも、お困りの方が多いかと思います。栄養管理面では、花粉症治療薬によって唾液分泌が減り食塊形成に悪影響を及ぼす可能性もあるため注意が必要です。
花粉症について
花粉症とは、植物の花粉が原因でくしゃみなどを起こす疾病です。春先になると鼻がむずむずして「今日は花粉が多く飛んでいる」といった会話を耳にします。この原因となる花粉は、一年中飛んでいるといわれています。春はスギやヒノキなどの花粉が有名ですが、秋にはブタクサやヨモギなどの花粉も飛んでいて花粉症を起こします。花粉症を起こす植物は約60種類にも及ぶとされます。したがって花粉症の方の15%程度は、一年中花粉に悩まされています。花粉が飛ぶ季節や期間は地域によっても差があります。また、花粉症とは別に、家の埃やダニ、ペットなどでも花粉症と似たアレルギー症状が生じることがあります。
花粉を吸いこんだり、花粉が身体に付いてしまったりした時に、生体がそれを異物(アレルゲン)として捉えてマクロファージが貪食し、その情報をリンパ球に伝えます。その後、次にこれらが侵入してきた時に排除できるよう「抗体(IgE抗体)」をつくります。抗体は血液や粘膜内にある「肥満細胞」にくっつきます。再び花粉などのアレルゲンが体内に侵入すると、肥満細胞の表面でアレルゲンと抗体が結合。それが引き金となって、炎症を引き起こすアレルギー誘発物質であるヒスタミンが遊離することで鼻水やくしゃみを起こしたり、生理活性脂質のロイコトリエンが遊離されると鼻づまりの原因になったりします。このようなメカニズムに対応する薬が開発されています。
花粉症の治療薬
花粉症などのアレルギー症状は、軽症から中等症、重症に分けて考えます。一日のくしゃみや鼻汁の出る回数、鼻づまりによって口呼吸をしなければならない回数などで重症かどうかを判定します。また、風邪などによる急性の鼻炎かどうかは、鼻汁に好酸球が含まれているかどうかや、血液中のIgE量を検査することなどによって鑑別されます。
鼻炎の治療では、鼻噴霧用ステロイド薬が効果的です。コールタイジン®、フルナーゼ、ナゾネックス®、アラミスト、エリザス®などです。ステロイド薬を注射や経口薬として使った場合は全身性の副作用が心配になりますが、これらの噴霧薬は吸収されにくく、吸収されてもすぐに分解されるたその心配はありません。
また鼻づまりには、プリビナ®やトラマゾリンといった血管を収縮させて症状を抑える薬も使われます。これらの薬は使いすぎると反応が悪くなるうえに症状がひどくなる場合もあり、使いすぎに注意します。
経口薬では軽症の場合、ヒスタミンが働かないようにする抗ヒスタミン薬が使われます。たくさんのが発売されています。市販薬にも多く含まれているクロルフェニラミンやジフェンヒドラミン塩酸塩は第一世代の抗ヒスタミン薬です。痒みを止める作用が強い反面、眠気や口喝などを起こしやすく、特に閉塞隅角緑内障や前立腺肥大患者では、その症状を悪化させるため使えません。口喝を起こす薬は、唾液分泌を抑えることによって生じます。唾液は食べ物を食塊とするために必要であり、栄養管理面でも注意が必要になります。咀嚼・嚥下機能に問題のある高齢者がこのような第一世代の抗ヒスタミン薬を使っている場合、薬の変更を考えます。
その後、第二世代と言われる抗ヒスタミン薬が開発され、これは比較的眠気の副作用が少なく汎用されています。眠気の副作用は、薬が脳内に運ばれやすいかどうかで決まります。脳内の抗ヒスタミン作用が強いほど、眠気を起こしやすいため、車の運転や危険な作業に従事することに注意が必要になります。
眠気の副作用を起こさないことで有名なフェキソフェナジン(アレグラ®)は、パイロットに対する操作ミスが少ないことから、脳内の作用がないことを立証した薬です。このためアレグラ®の添付文書には車の運転に注意しなさいという注意事項は書かれていません。このほかこの類の注意書きがない薬(眠気の副作用が少ない薬)には、ロラタジン(クラリチン®)、デスロラタジン(デザレックス®)、ビラスチン(ビラノア®)があります。在宅訪問栄養食事指導で車を使うといった管理栄養士の方で花粉症の薬を要する場合、これらの抗ヒスタミン剤を処方してもらうとよいと思います。アレグラ®やクラリチン®は市販品としても販売されているため、入手しやすい抗アレルギー薬です。
このような抗アレルギー薬は、花粉が飛ぶ少し前(2週間程度前)から始めることで、症状の軽減や期間短縮が見込まれます。また症状が軽くなって薬を止めてしまう方も見られますが、花粉量が増えた場合に症状が悪化するため、花粉情報を頼りに花粉の飛んでいる季節はできるだけ服薬を継続することが大切です。
また鼻づまりに汎用される薬には、喘息治療薬であり抗ロイコトリエン作用をもつオノン®(プランルカスト)、シングレア®(モンテルカストナトリウム)、これら違う作用を持つドメナン®、ブロニカ®、バイナス®さらにアイピーディ®や漢方薬の小青竜湯なども追加して使われます。このほか重症のアレルギー性鼻炎では、分子標的薬であるオマリズマブ(ゾレア®)という注射薬が使えるようになりました。もともとは重症喘息患者に使われていた薬です。とても高価な薬ですが、ほかの治療で効果が見られない重症例では前述したIgE抗体に対して強い抑制作用を持つことから2週間という期間を限って使用されます。
このような特定の分子を対象とした注射薬は、アレルギー性の息やアトピー性皮膚炎、じん麻疹などの重症例に対して用いられるようになってきています。このほか、減感作療法といって、最初に少量のアレルゲンを注射して、少しずつ濃度を上げていって身体に免疫を付けさせる方法も行われます。花粉症の始まる3ヵ月以上前から開始し、2年以上続けます。根気のいる治療法ですが、花粉症で悩まれる方は多く、強い効果も確認されているため、どうしても花粉症を根治させたいという方には勧められる治療法です。
最近ではアレルゲンを注射する方法に変えて舌下に花粉抽出物を含ませるなどといった方法も試みられています。
おわりに
今回は、その症状に悩まされている方も多い花粉症治療薬について述べました。
花粉症のセルフケアとして、外出時は眼鏡やマスクをすることも有用です。またウール製などの服は花粉が付着しやすいので避けることや、洗濯物もよく「はたいて」取り込むなど、花粉との接触をできるだけ避ける工夫も必要になります。
今回、目薬について詳述しませんでしたが、目薬を使う時は、目薬が汚染されないように容器の先がまつ毛や皮膚に触れないようにすることや保存方法にも注意してください。
また症状軽減作用は強いのですが、ステロイドの入ったフルメトロン®点眼液などは使いすぎると眼圧亢進など思わぬ副作用があるため注意が必要です。花粉症の症状が強いと労働生産性が低下することも問題です。
花粉症なのであれば日常生活にも注意を払い、薬で十分に症状を管理して患者さんの治療にも役立ててください。(『ヘルスケア・レストラン』2023年3月号)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授