栄養指導で”あるある!こんなこと”
第115回
食事摂取量が少ない在宅高齢者
エネルギーだけでなくそこに意外なリスクも

今回は認知症で食欲不振の在宅高齢者のDさんへの訪問事例を紹介します。食欲不振というと食事摂取量のみに目がいきがちですが、エネルギーだけが不足するのではなく、水分不足にも注意が必要です。

油脂や缶詰を利用して栄養価アップ

コロナ禍でもあり、在宅訪問栄養食事指導の依頼がしばらく停止していましたが、契約しているクリニックの院長から久しぶりに依頼がありました。
依頼先のDさんは認知症があり、夏頃から食欲低下と体重減少がある方です。院長からはDさんの住所と簡単な病状の連絡と訪問看護師と担当ケアマネジャー、そしてご家族が同席するとの連絡がありました。
そこでまず訪問看護師へ連絡を入れ、3人で訪問する手配をしてもらいました。

看護師:Dさん、こんにちは。今日は、管理栄養士さんと一緒に来ました

長女:はい、どうぞお入りください

門をくぐるととても広いお庭がありました。立派なご自宅のリビングへ通されると、ちょこんといすに座って微笑む高齢のご婦人と2人の娘さんがいらっしゃいました。そして、担当のケアマネさんもいらしてました。私は、「本日はよろしくお願いします」と挨拶して、皆さんに名刺をお渡ししました。

長女:どうぞお座りください

田村:それでは失礼します

ケアマネ:早速ですが、こちらがDさんの基本情報になります

そう言ってケアマネは7~8枚のケアプランと服薬情報、家族構成、簡単なこれまでの経過などが記された資料を皆に手渡しました。私はざっと目を通して、気になる体重の変化や病名などを読み上げながら確認していきました。

田村:院長先生から最近、食欲の低下があると聞いていますが、夏頃から一気に10kgぐらい落ちていますね

次女:はい。本当に食べてくれなくて、声がけしても数口で「もういい」って……

Dさんに「お好きなものは何ですか?」とたずねても、ご本人はニコニコ微笑むばかりでした。

長女:好きなものっていうか、特に嫌いなものもないのですが、とにかく最近は数口しか食べてくれません

次女:一応先生からいただいた栄養剤は1日1、2本飲んでくれてはいるんですが……

田村:その栄養剤、見せてもらっていいですか?

次女:これです。あと、こんなのも買って試そうと用意していました

そう言って栄養剤に加え、ドラッグストアで売られている少量高エネルギーの栄養補助食品も何点か見せてくれました。

田村:素晴らしいですね。あとは食べてくれればいいのですが。プリンとかアイスクリームとかはどうですか?

長女:そうですね。カロリー高いですよね、そのあたりはちょくちょくあげています。あと、卵焼きや豆腐も出しています。それなりに介護しているのですが、今回は急に体重が減って食もすっかり細くなってしまったので心配です

田村:そうですね。ムセや咀嚼の問題はいかがですか?

長女:そこは大丈夫です。ムセもないし、今のところ食べにくいこともないようです。先生に検査をしてもらっていますが、どこも問題はないそうです。おそらく認知症が原因かもしれないって言われました。

田村:わかりました。そうなると食べていただける範囲でエネルギーやたんぱく質をアップしましょう

長女:思いつくものはいろいろとやってはいるんですが……

田村:先ほどお豆腐のお話がありましたが、たとえばそこにちょっとごま油を垂らしてみてはどうでしょう。あるいはみそ汁にごま油やオリーブ油を加えてもエネルギーアップになります。

次女:あっさりしたものがいいのかと思っていました

田村:大丈夫です。食べてもらえるものにちょい足ししてエネルギーアップしましょう。あと、お浸しにマヨネーズを付けるなどもいいですね

次女:そこは、あまり気づきませんでした。

田村:たんぱく質アップのためには、卵や豆腐はもちろん、ツナ缶やサバ缶などの缶詰を利用してもいいですね。ツナ缶はエネルギー価が高いし、そこにマヨネーズを追加してご飯に載せたりしてはどうでしょう

長女:なるほど。お母さん、ツナ缶は好きです。マヨネーズも大丈夫だね

田村:デザートであればアイスのほか、カステラや玉子蒸しパンが高エネルギーです。市販のホイップクリームなんかを添えるともっとエネルギーアップが可能です。市販のカップスープもいいですね

食事量だけではなく水分不足にも要注意

帰る間際、私は「ちょっといいですか?」と言って、Dさんの皮膚と爪に触らせてもらいました。

田村:水分はしっかりとれていますか?

次女:はい。そこは心配なのでしっかりとっていると思います

田村:若干ですが、脱水っぽい兆候はありますね。極端ではないのですが、食事量が減っているので、食事からの水分が十分にとれていない可能性があります。本来ちゃんと食事をとっていれば、だいたい800mlとれるのですが、食事量が減るとその分減ってしまいます

長女:なるほど……

田村:食事が減った分、水分摂取を追加しましょう。慢性的な脱水は食欲低下を招くこともあります

次女:そこまでは気が付きませんでした

田村:食事量が減っているので、亜鉛不足による味覚減退なども考えられます。食事量が減っている間はあまり薄味にせず、しっかり味付けして大丈夫です。塩分もそうとれていないはずですので、薄味が食欲低下を招くことがあります

次女:ありがとうございます。よくわかりました

田村:今日お話した内容のちょい足しエネルギーアップ、ちょい足したんぱく質アップ、あとお勧めの簡単レシピ、水分補給などのポイントを資料にまとめて送りますね

長女:助かります。ヘルパーさんにも見てもらい、つくってもらうようにします

姉妹お二人で頑張っていましたが、ちょい足しや缶詰の活用、間食はどんなものがいいかなど、娘さんたちが気づいていなかった食材や栄養アップで役立つことができたようです。また、水分や亜鉛不足、それが原因となる味覚異常や食欲低下の恐れなど、お伝えできてよかったと思います。とはいえご本人にどこまで食べてもらえるかがまだ気がかりですが、今後も引き続き様子をみていきたいと思ったケースでした。
在宅訪問栄養食事指導の舞台であるご家庭は、環境がさまざまなので、こちらの力量が試されるような本当に難しい場面もあり、その分やり甲斐もある分野だと感じています。
久しぶりの訪問で私自身も話しながら勘を取り戻した感じがしました。(『ヘルスケア・レストラン』2023年2月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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