食べることの希望をつなごう
第58回
質の高い栄養管理につながる
入院支援での患者さんとのかかわり

早期栄養介入を行い、適切な食事提供および栄養管理へとつなげることが重要であることは周知のとおりです。その実現には事前の情報収集が鍵を握っています。具体的にどのような点がポイントなのか、入院支援業務をもとに紹介します。

適切な食形態の設定は事前の聞き取りが肝

現在、病棟での栄養管理や外来栄養食事指導のほか、入院支援業務も担当しています。入院支援業務では、入院前のオリエンテーション時に病院食でのアレルギーの対応や食形態の調整が必要かどうかを確認し、詳細を聞き取って他職種と情報を共有しながら入院後の食事内容を調整します。また、栄養状態が悪い場合には主治医を含めた他職種と情報共有し、簡易栄養相談を行うこともあります。
アレルギーに関しては、詳細を確認することで不必要な除去を避けることができます。インシデントの防止にもつながりますし、提供できる食品が多ければ栄養的にも偏りを減らすことができます。また、生の状態でのみアレルギー症状がある、エキスやごく少量の混入でも症状がある、など人によって程度が異なるため聞き取りには細心の注意を払います。最近では宗教上の理由で除去食品がある方も多いので、アレルギー以外にも注意が必要です。

患者さんの既往歴を確認し、治療食が必要と考えられる場合は主治医に提案をします。その際、治療食のみならず身長・体重、採血データを確認したうえで望ましい栄養量も併せて提案します。時々、患者さんから治療食や栄養相談の希望を受けることもあるので、そういった場合も他職種に情報共有します。

食道がんや口腔がん、頭頸部がんの治療目的での入院や既往がある場合は摂食嚥下障害があることも多いため、必ず食形態の確認をしています。実際、そういった患皆さんは何らかの食形態の調整が必要な場合が多いと感じます。咀嚼がつらい、食べ物が腫瘍等に当たって痛いなどの訴えがある場合には、摂食嚥下機能にかかわらず刻みやペーストなどの形態調整を行います。具体的には、現在ご自宅で召し上がっている食事内容を聞き取り、患者さんに病院食の写真を示しながらご自宅での食事と照らし合わせ、どのような形態が食べやすいのか確認します。また、口内炎でみる場合には酸味や塩分を控えたり、だしのみで調理をします。

治療内容を加味した栄養管理を検討する

治療目的ががんの術前および術後の化学療法や放射線治療の場合、化学療法の副作用と放射線治療の影響で、食事摂取量が低下する方が非常に多くいらっしゃいます。治療のために何度か入院される方もいるため、前回退院時の食形態および今回の食事調整が必要かどうかは必ず確認します。抗がん剤の副作用や放射線治療の影響の出方には個人差があります。まったく影響なく食事摂取が継続でき、体重減少もなく口内炎や皮膚症状もなく治療を終える患者さんもいらっしゃいますが、そのようなケースはごく稀です。半数以上の方が、食欲が落ち、口内炎や口腔内に生じるやけどのような皮膚のただれを経験されます。

食事摂取量が低下すると体重減少はもちろんのこと、脱水や電解質異常、創傷治癒遅延にもつながります。日本臨床栄養代謝学会の『JSPENテキストブック』(南江堂)には、「がん患者の体重減少は、化学療法による副作用の増加、化学療法の完了サイクル数の減少、化学療法や放射線治療の効果減弱、さらに最終的には生存率の低下をもたらす可能性がある。したがって、がん患者の予後改善には栄養療法が不可欠である」と記載があります。
しかし、なかには「常食」=「栄養価が高い」と思っている患者さんもいらっしゃいますし、食べられる食事と食べたい食事に乖離がある場合も珍しくありません。食べたい食事では摂取量が低下し、結果的に必要栄養量を満たせず低栄養に陥っているケースはよくあるのです。食形態の調整が低栄養につながると考えている患者さんやご家族も多いので、早期に栄養介入が必要となります。このような時には市販の介護食やONSの利用も検討し、担当医および他職種と情報共有して栄養剤の処方や宅配食・介護食の利用を勧めることもあります。

低栄養に対してこそ慎重な栄養介入を

入院前のオリエンテーションの際、顕著な体重減少や食事摂取量の低下を来していると報告が上がる場合があります。そんな時にまず配慮が必要になるのはリフィーディング症候群のリスク回避です。ご存じのとおり、リフィーディング症候群の「リフィーディング」は「再栄養」を意味し、慢性的な栄養不良状態が続いている低栄養者に積極的な栄養補給を行うことにより、水・電解質分布の異常を引き起こす一連の代謝合併症の総称です。『臨床栄養認定管理栄養士のためのガイドブック』(東京医学社)には、「高度な低栄養状態にある患者さんに、いきなり十分量の栄養療法を始めることで発症するため、慎重に栄養補給する必要がある」と記述されています。したがって、リフィーディング症候群のリスクが高いと判断された場合には、現体重1kg当たり5~10kcalと、ごく少量からの栄養投与とビタミンB1の補充、リン、マグネシウム、カリウム、血糖値のモニタリングといった、通常より慎重な栄養管理の実施が求められます(表1)。

表1 リフィーディング症候群の高リスク患者

下記の基準に1つ以上該当
①BMIが16.0kg/㎡未満
②過去3~6カ月で15%以上の意図しない体重減少
③10日間以上の絶食
④再摂食前の低カリウム血症、低リン血症、低マグネシウム血症

下記の基準に2つ以上該当
①BMIが18.5kg/㎡未満
②過去3~6ヵ月で10%以上の意図しない体重減少
③5日間以上の絶食
④アルコール依存の既往、または次の薬剤の使用歴がある:インスリン、化学療法、制酸剤、利尿薬

患者さんの状態を聞き取る際、ご家族から得られる情報とご本人の申告にしばしばずれがあるため、聞き取りには注意を要します。特に独居の場合にはご本人の申告が中心になるため、ほかの職種による聞き取り結果とも照らし合わせて、何が真実に近いのか、リスク回避のためどの情報を選択するべきかを見極めます。腫瘍そのものや治療が「食べる」機能に大きく影響を与える口腔がんや頭頸部がん、飲み込むことが難しくなる食道がんにおいても、リフィーディング症候群の高リスクに当てはまる患者さんに遭遇することがあります。「食べられていない」という状況がどのくらい長く続いているのか、低栄養の状態を把握することでリスクが高い場合には細かなモニタリングと慎重な栄養管理が必要になるということを、入院前の時点から多職種で共有することにしています。入院支援時からの患者さんとのかかわりは、入院後の栄養管理の面からも重要であると考えています。(『ヘルスケア・レストラン』2023年1月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士

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