栄養指導で”あるある!こんなこと”
第114回
特定保健指導で訪問栄養指導へ
一人暮らしの高齢者の不安を支える
私は大学の講師やクリニックの非常勤管理栄養士として勤務するほか、地域の保健師さんと一緒に「特定保健指導」の訪問栄養指導も行っています。今回はそこでの事例を紹介します。
朝の低血糖が心配な在宅高齢者
インスリン注入時間を検討する
「田村さん、今日は午前3人。午後2人、訪問予定でお願いします」保健師にそう言われて渡された書類を見ると、町の健康診断の結果と保健師さんが事前に電話などで聞き取りをした情報などが明記されていました。このように当日、訪問者の情報をもらい、内容を確認。事務所にある指導用の媒体から必要なものをピックアップして保健師さんと車に乗り、訪問先へと向かって行く流れで訪問栄養指導を行っています。
今回紹介するのはこの日の午後にうかがった方で、1年前から訪問を開始して今回で3回目となります。70代後半の女性で一人暮らし。糖尿病(治療中)と高血圧、重症筋無力症がある方です。もともとは役場職員であり、とても意識がしっかりした方です。
保健師:こんにちは。お電話した保健師のAです
Cさん:どうぞ、上がってください
田村:管理栄養士の田村です。本日はよろしくお願いします
保健師:お久しぶりでした。お変わなかったですか?
Cさん:まぁ何とか、一人でもやれることを頑張ってます
田村:お食事はいかがですか?
Cさん:自分なりに気を付けているんですが……。あっ、コレ、今年の健康診断の結果ね
田村:ありがとうございます。拝見させてもらいますね
保健師:2022年の3月だったかな?インスリンの注射が始まったんだ
田村:慣れましたか?
Cさん:慣れるには慣れたんだけどね。心配になることもあって……
そう言って自己血糖測定の数値を記録する手帳を見せてくれました。
田村:注射は1日何回ですか?いつ打ってます?
Cさん:1日1回です。いつでもいいって先生に言われたので、今は夜打つようにしてます
田村:手帳を見ると、朝の空腹時血糖が70mg/dl台や60mg/dl台のことが時々ありますね
Cさん:私もそこが気になって……
田村:インスリンは現在何単位なんですか?
Cさん:スタート時は10単位だったんですが、2カ月前から8単位に減ってます
田村:それはコントロールが付いてきているから減ったんですね
Cさん:先生もそう言ってました
田村:朝、血糖値を測定して、その後食事はどのくらい間隔を置いてとってますか?
Cさん:食事の準備をして血糖値を計り、すぐに食べてます
田村:それならいいのですが、血糖値が60mg/dl台はちょっと低血糖気味なので、できればすぐに食事をするか、場合によっては飴などを舐めたほうがいいですね
Cさん:そのあたりがよくわからなくて……
田村:これまで低血糖の症状みたいなものは起きたことはありますか?
Cさん:それもよくわからなくて……
田村:たとえば冷汗が出るとか、めまいがするとか、動悸がするとか……。あとはふわっとする感じがするって方もいます。個人差もありますが
Cさん:はっきりとはわからないですが、ちょっとおかしいって感じたことはあります
田村:もしかすると血糖値が低い時かもしれませんね
Cさん:どうしたらいいですか?
田村:血糖測定をしていますので、低いような時は無理をせずすぐに食事をするか、おかしいなと感じた時はなどを舐めてください
Cさん:飴をもち歩いたほうがいいですか
田村:そうですね。散歩や買い物などお出かけする際は持参してください。あと枕元などの手の届くところに置いて寝るようにしてください
Cさん:なるほど……
田村:血糖値が60mg/dl台や70mg/dl台の数値になることが多くなった場合には、先生と直接話してみてください。インスリンの量を調節してくださるかもしれませんので
Cさん:わかりました
田村:インスリンの注射を打つ時間帯について、夜のままでいいかもちょっと確認してみてください
Cさん:寝てる間に低血糖になるってことですか?
田村:万が一、夜中に低血糖が起こるのがちょっと心配です
Cさん:わかりました。いろいろと教えてもらえてよかったです
田村:ちゃんと血糖測定して記録していてくださるので、こちらも助かります。
毎日の生活がリハビリ
無理せず継続が大切
田村:ほかに何か心配なことはありますか?
Cさん:筋無力症について、いつまで自分でいろいろできるのかが不安かな
保健師:拝見したかぎりでは前回お会いした時と全然お変わりないように感じますが
Cさん:そうですか?自分では、少し力が入らなくなってきたなとか、何をやるにも時間がかかるなって感じてます
田村:そうですか。日常のことをゆっくり無理なく続けることもリハビリです。それでも筋力の維持にはなります
Cさん:私もそう思って、やれるうちは頑張ろうと思ってます。子どもたちにもあまり迷惑はかけないで、一人でやれるうちはね
こんな会話をして、自己血糖測定をした場合の留意点を記したメモをお渡しして、次回、クリニックで診察してもらう際に先生に確認することやお伝えすることも書いておきました。
保健師:Cさん、私はまた近いうちに顔を出しますね
Cさん:ありがとうございます。近くを通った時にはいつでも寄ってちょうだい
やはり、疾患を抱えての一人暮らしは不安や寂しさもあるのだなと患者さんと保健師さんとのやりとりで感じました。核家族化が増えてきている現状で、高齢者の独居も増えています。地域で見守りを行える体制も十分ではありません。
今後このような高齢者は増える一方です。地域で安心して暮らせる、お互いに支え合えるような体制づくりが急務と感じました。Cさんからかけられた次の言葉が耳に残っています。
「管理栄養士さんまで、わざわざありがとうね。自分でどこでも行けるならいいんだけど、運転免許証も返納したし、動ける範囲も狭くなって。自分でできることがだんだん減ってきてね。こうやって来てもらえるだけでありがたいし、今日は心配していたことの解消法も教えてもらえてよかった」
こんなサポートを可能なかぎり続けていきたいと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2023年1月号)
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士
たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている