お世話するココロ
第148回
発熱外来にかかれない

新型コロナウイルス感染症の流行以降、発熱があるとなかなか医師の診察が受けられません。話には聞いていましたが、それを実感する出来事がありました。予約がとれない発熱外来の問題。本当に深刻です。

アレルギーの熱なのに……

1月初めのある日のこと。夫が39度の熱を出しました。
熱の原因はアレルギー反応。「ああ、またか」と夫婦で声を揃えました。なぜなら今まで何度も繰り返している症状と同じだったからです。
アレルギーの原因と具体的な症状については、後ほどお話しします。
アレルギーとはいえ、今は時期が時期。念のため、家に用意しておいた医療用の抗原検査キットで陰性を確認しました。
当時の夫と私は次のような会話をしました。

「あ~、また熱が出ちゃった。39度だよ。皮膚の症状も出てきたから、間違いない。放っておいても治るかもしれないけど、ここまで熱が高いと、さすがにつらい。クリニックに行って、いつものセレスタミンを出してもらおうかな」
「それがいいよ。セレスタミン飲むとすぐによくなるもんね。でも、今は熱がある人は発熱外来に来るように、ってクリニックに貼り紙があったよね」
「ああ、そうか。念のためそうしたほうがいいかな。抗原検査は陰性だけど、それが決まりみたいだから」

夫はそう言って、診療開始時間を待ってクリニックに電話しました。
ところが、何度かけても通話中で、やっとつながった時にはすでに予約はいっぱい。明日の予約はまた明日の朝に電話をかけるようにと、つれない返事です。
ならば、発熱はアレルギーの熱であり、抗原検査も陰性なのだか通常診療ではだめかと聞くと、それもだめとのこと。ああ、これが発熱すると医者にかかれないと騒がれている事態なのだとわかりました。

新型コロナウイルス感染症に罹った知人は、何件も医療機関に電話しても予約がとれず、結局受診しないまま症状が治ったと言っていました。
夫はアレルギーからくる熱なのに。でも、それを言っても始まりません。
さてどうしたものか。夫婦で頭を抱えてしまいました。

「薬だけください」

皮肉なことにこの時期、SNSには熱が出たらまずかかりつけ医に相談するよう勧める、厚生労働省のPR動画が盛んに流れていました。
これを見ていると、かかりつけさえいれば何でも診てもらえるかのように受けとれます。
こちらはそのかかりつけ医に診てもらえず、困り果てているのに……。間が悪いとはまさにこのことです。
この日在宅勤務だった夫は、結局仕事を休み、1日寝ついてしまいました。
そして翌日も朝からクリニックに電話をしましたが、つながった時には「もういっぱいです」。いや、さすがにこれには参りました。
ほかの医療機関に行くことも考えましたが、夫はさまざまな薬に薬疹が出るため、かかりつけ医以外に薬を出されても気軽に飲めません。
やはりかかりつけ医にお願いするしかないわけで、なんとも出口のない気持ちになってしまいました。
しかし、落ち着いて考えてみれば、発熱外来にかからなければいけないのは、熱がある本人のみ。私が代わりにクリニックに行き、夫の病状を話せば薬くらいは出してくれるでしょう。
善は急げとすぐに行き、受付で事情を話しました。特に問題なくことは運び、無事にセレスタミンなどの抗アレルギー薬をゲット!
夫はすぐに内服を開始し、その日のうちに解熱したのです。

今回のアレルギーのもとは……

アレルギーと言ってもいろいろな症状があるわけですが、夫の場合はかなり変わっています。
仕事柄、さまざまな病気を目にしてきましたが、同じ症状は見たことがありません。

夫のアレルギーの原因は主に飲み薬や塗り薬。食べ物では特に問題を起こしません。
薬は抗生物質と鎮痛剤はほとんどがだめ。飲んでも大丈夫なのはアスピリンくらいでしょうか。
特徴的なのが皮膚に出る症状で、原因が何であれ足の甲が赤く腫れてしまいます。
以前、無香料のハンドクリームが合わなかった時も塗った手には症状が出ず、足の甲だけがパンパンに腫れてしまったのでした。
そして、今回の原因はなんとベビー石鹸。かかりつけ医に「今回はベビー石鹸で出てしまいました」と言うと、さすがに絶句していました。
なんで子どもがいないわが家にベビー石鹸があるかといえば、私が目の縁を洗うのに使っているから。少し前に使い切り、新しいものを買った際、いつもと違うものを買ったところ、目に沁みて使えなかったんです。
そんなわけで、もったいないからと手洗い石鹸として使い出したのですが、それがまさかこんな大変な事態を引き起こすとは。本当に驚きました。
還暦間近のおじさんがベビー石鹸で熱を出すなんて。本当に人間の身体は不思議ですね。

やはりかかりつけ医は大事

発熱外来受診が叶わなかった時は、何のためのかかりつけ医なんだろう。そんな恨みがましい気持ちが募りました。
それでも症状を話すと、医師はすぐに対応してくれます。「ああ、いつものアレルギーね。熱も出ちゃったんだね。じゃあ、セレスタミンとか出すから。今は熱があると受診が難しいことになっていてごめんね」
医師の優しい言葉を聞いて、私は「全部コロナが悪いのだ」と思うことにしました。立場が変われば、私だって、同じようなことをしているのですから。
私が働く精神科病院でも、新型コロナウイルス感染症の予防を理由に患者さんに外出許可を出せなかったり、さまざまな不自由を強いています。誰もがそんな嫌な思い、患者さんにさせたくない。でも、感染予防のためにはお願いせざるを得ません。

今回のことで、私は改めてかかりつけ医のありがたさも実感しました。私が症状を伝えるだけで内服を処方してもらえたのは、かかりつけ医だったからなのですよね。
そのクリニックには夫がこれまでどんなものでアレルギーを起こしたかという記録も残っています。処方してもらう時にはいろい相談しながら決められるので、安心して治療が受けられます。
とはいえ、多くの人が「熱を出すと、ろくろく病院にかかれない」と嘆き、心配もしています。この現状は、かかりつけ医がいればいいというものではありません。
実際、私の友人は発熱外来になかなかかかれず、肺炎(コロナではない)が悪化して即入院となりました。
新型コロナウイルス感染症が広がって以降、医療のさまざまな課題が明らかになっています。いざという時かかる医療機関がない、という問題は本当になんとかしないと、助かる命も助からないと思いました。
もちろんすべては新型コロナウイルス感染症が悪いのですよね。ああ、1日も早く終息しますように。(『ヘルスケア・レストラン』2023年1月号)

宮子あずさ(看護師・随筆家)
みやこ・あずさ●1987年、東京厚生年金看護専門学校卒業後、2009年3月まで看護師としてさまざまな診療科に勤務。13年、東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。精神科病院の訪問看護室勤務(非常勤)を経て、同院の慢性期病棟に異動。長年、医療系雑誌などに小説やエッセイを執筆。講演活動も行う。看護師が楽しみながら仕事を続けていける環境づくりに取り組んでいる。近著に『まとめないACP 整わない現場、予測しきれない死』(医学書院)がある

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