栄養士が知っておくべき薬の知識
第137回
新規糖尿病薬も加えられた
2型糖尿病の薬物療法ガイドライン

今回は日本糖尿病学会が編集した『糖尿病治療ガイド2022-2023』について概略と『糖尿病診療ガイドライン』からの変更ポイントについて解説します。

糖尿病のガイドライン

これまで「糖尿病診療ガイドライン」が出版されてきましたが、薬物治療について明確な提言はありませんでした。体重7%減量を目標とする食事療法や週150分の運動療法を2~4ヵ月行って血糖コントロールが目標に達しない場合に薬物投与が開始されますが、その優先順位に指定はありませんでした。しかし、『糖尿病治療ガイド2022-2023』では薬の使い分けが明示されました。本稿では新規に開発された糖尿病治療薬とともに取り上げます。

2020年に「糖尿病患者の栄養食事指導」が改めて発出され、22年には「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」が発表されました。これらは欧米のガイドラインとは異なる内容になっています。
日本人は欧米人に比べてインスリン分泌量そのものが少なく、欧米人は肥満を呈した糖尿病患者が多いのに対して、日本人は肥満と非肥満患者が同数程度存在すること、また糖尿病治療では並存疾患として高血圧や脂質異常症への介人が必要なため、並存疾患の有無を確認します。最近では医療のビッグデータが取り沙汰されていますが、病名やレセプトデータが蓄積され、そのなかには処方薬データも含まれます。

本邦で汎用される糖尿病治療薬が明白になってきたことなどを受けて、今回2型糖尿病の薬物療法ガイドラインがまとめられました。その序文では、病態に応じて薬物を選択すること、安全性に配慮すること、並存疾患によって選択するべき糖尿病薬は異なること、などが挙げられています。

糖尿病治療薬の選択手順

糖尿病治療の第一歩は「インスリン」の適応があるかどうかを考慮することになっています。初めて受診した時、すでに糖尿病の罹病期間が長くインスリンによって血糖コントロールをせざるを得ない場合、あるいはやせ型で栄養状態が低下している場合、妊娠糖尿病患者の場合など、インスリンに頼らざるを得ない状態かどうかを確認します。

次に目標とするHbA1cの数値を決定します。2013年に糖尿病治療の「熊本宣言2013」が発出されましたが、患者さんの闘病意欲などさまざまな背景を勘案して目標とするHbA1cを定めます。

次に今回、明示された糖尿病治療薬の選択となります。まずは肥満か非肥満かによって選択するべき糖尿病治療薬が異なります。インスリン注射そのものやインスリン分泌を促す内服薬では体重が増えてしまいます。それはインスリンには糖質を脂質に換えて身体に溜め込む働きがあるためです。したがって、これらの薬は肥満患者には使いづらい面があります。肥満の定義はBMI25kg/㎡以上と考えますが、このほかにも内臓脂肪蓄積過剰をウエスト周囲長で捉え、男性で85cm、女性で90cm回以上の患者さんに対してはインスリン分泌促進剤が使いづらいと判断します。ただし糖尿病治療薬のうち、インクレチンといって食べた分だインスリン分泌を促進するGLP-1受容体作動薬(末尾に「〇〇「チド」と付きます)やインクレチンの分解を抑制するDPP-4阻害薬(末尾に「〇〇グリプチン」と付きます)は、食欲減退を生じさせ胃からの食物排泄を遅らせるため肥満が起こりづらい作用を有します。インスリンを分泌する作用をもつものの肥満患者にも使いやすい薬に分類されます。また、後述する新規糖尿病治療薬であるイメグリミンも食事分のインスリン分作用をもちますが、体重減少効果も期待されています。肥満例には体重増加の少ないメトホルミンやブドウ糖の尿中排泄を促進する薬の成分名の末尾に「○○フロジン」と付くエンバグリフロジン(ジャディアンス®)などのSGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、糖質の吸収を遅らせるα-GI薬(ベイスン®など)を使います。非肥満患者では以前から使われているアマリール®、グリミクロン®などのスルホニルウレア薬や食後の高血糖を改善するスターシス®、ファスティック®、グルファスト®などのグリニド薬も使われます。

安全性・並存疾患への配慮

低血糖リスクが高い高齢者には、スルホニルウレア薬やグリニド薬などは食事に関係なくインスリンを分泌するため避けるべきとされます。また腎機能障害例では、薬が腎臓から排泄されるため薬の効果が長もちする分アシドーシスや低血糖の心配があるメトホルミンやスルホニルウレア薬、グリニド薬は避けるべきです。心不全合併例では、組織の酸素化の低下が懸念されますのでメトホルミンやナトリウム排泄を阻害するアクトス®などは避けるべき、と示されています。

次に並存疾患への配慮です。慢性腎臓病を併存していればSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬は、腎疾患の進行を遅らせることが期待されますので推奨されます。

心不全では、ナトリウム排泄や脂肪代謝を亢進することなどからSGLT2阻害薬が推奨され、心血管疾患(動脈硬化)では、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬が推奨されます。

患者背景への配慮

最後に、患者背景への配慮です。
新薬は概ね薬価が高く、薬剤費が患者さんの負担となることもあります。グリニド薬は必ず食直前に用いる必要があります。α-GI薬は副作用として腹部膨満感がありますし、メトホルミンの消化器症状、GLP-1受容体作動薬は最近、内服薬も販売されていますが、早朝空腹時に服薬しなければならないなど服用方法が複雑で、多くは注射薬で使います。注射を自分で打つことも患者負担となります。このような点に配慮して、患者さんに最適と考えられる治療薬を見つけていきます。

イメグリミンについて

最近、発売になったイメグリミン(ツイミーグ®)もガイドラインに掲載されているので紹介します。
糖尿病はインスリン不足によって生じます。インスリンは膵臓のβ細胞から分泌されますが、糖尿病の末期ともなるとβ細胞機能が低下してインスリン分泌が減少し、インスリンそのものを注射する必要があります。イメグリミンはエネルギー産生を担う細胞中のミトコンドリアの機能を改善してβ細胞の温存を図る作用があるとされます。これまでの糖尿病治療薬にはこのような根本的な部分に作用する物がありませんでした。イメグリミンは細胞機能の温存作用とともに、摂取した食事量に応じてインスリン分泌を促進するほか、肝臓に働いて糖新生を抑制する作用、筋肉への糖の取り込みを促進する作用を併せもっているとされます。このような作用は一部、メトホルミン(メトグルコ®)にもありました。しかし、イメグリミンにはメトホルミンで問題となっていた重篤な副作用である乳酸アシドーシスが生じにくいと考えられていることも大きなメリットです。21年に発売されたばかりで未知な点も多い薬ですが、膵作用や肝臓への働きなど、優れた糖尿病治療薬として期待されます。

冒頭に述べた「糖尿病患者の栄養食事指導」のコンセンサスステートメントでは、重要なポイントが示されています。目標体重および総エネルギー摂取量、炭水化物・たんぱく質の摂取量と管理栄養士による栄養食事指導が重要だとしています。規則正しい食事摂取や年齢や病態・食習慣の多様性を考慮した個別化指導の重要性について明言しています。(『ヘルスケア・レストラン』2023年1月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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