栄養士が知っておくべき薬の知識
第136回
抗菌薬や抗がん剤などの耐性の問題や
麻薬系鎮痛剤などの依存性について

薬の耐性と依存性について述べます。薬を飲み続けると「いつかは効かなくなってしまうのではないか」「癖になってしまうのではないか」など、管理栄養士さんに限らず患者さんからもよく質問を受けます。これらはいくつかの薬に当てはまりますが、ほとんどは稀なケースです。

薬の耐性について

「いつかは効かなくなってしまう」というケースでぜひ覚えておいてほしい薬に抗菌薬や抗ウイルス薬など、微生物に対する治療薬があります。COVID-19による感染症が猛威を振るって数年が経ちました。この感染症はウイルスによるもので、治療薬がないことが問題になりました。ご存じのようにウイルス感染症にいわゆる抗菌薬は効きません。
一方でCOVID-19の患者に抗菌薬を投与すれば、抗生物質に抵抗を持つ耐性菌が増えるためむしろ「弊害」です。抗菌薬は、白血病などに対して強力な抗がん剤治療を行っていて、感染に対する抵抗力がまったくない患者さんが発熱した時に感染症と診断されないうちに使うといった例外はありますが、このような特殊な場合を除いて、やみくもに使う薬ではありません。

抗菌薬と似たケースに抗がん剤の耐性があります。現在、がん治療は急速な進歩を遂げてその成果が見られています。ただ人類が完全にがんを制圧したかというとそうでもありません。
がん治療の1つに抗がん剤治療があります。がんを制圧できない原因の1つに、がんが抗がん剤に耐性を示す場合が挙げられます。がんは正常な遺伝子に異常を起こすもので、悪性新生物とも呼ばれます。正常細胞とはまったく異なる性質をもちます。
抗がん剤治療を行っていて効き目がなくなるいわゆる「耐性」を示すのは、がん細胞が抗がん剤から身を守るため、抗がん剤が届きにくくなったり、遺伝子を変えて抗がん剤に抵抗性をもってしまったりするなどして耐性を有するようになるからです。例外もありますが、抗菌薬と抗がん剤は、耐性によって薬が効かなくなってしまう代表例です。

このほか狭心症治療薬の硝酸イソソルビドも、硝酸薬耐性と呼ばれ薬の効き目が悪くなる場合があります。硝酸薬は狭心症治療に用いられるため、効き目がないとなると狭心症発作を起こした患者にとっては命取りになるため、さまざまな対処法が行われています。硝酸薬耐性の予防として、1日の半分は硝酸薬を使わないといった「休薬時間」を設定して投与する方法も行われています。
硝酸イソソルビド(ニトロール®)の仲間には、ニトログリセリンや一硝酸イソソルビドなどがあります。剤型も注射薬から舌下錠、舌下スプレー剤、普通錠、徐放錠、テープ剤などが販売されています。硝酸薬の耐性は成分や剤型、投与量、投与方法によっても差があるため、いつもと違った感じがあったら医師や薬剤師に相談してください、と患者さんには指導しています。くれぐれも勝手に飲み方や使い方を変えないことが大切です。

これ以外では、便秘治療薬のセンナ(プルゼニド®、アローゼン®)があります。大腸刺激性下剤と言って大腸の働きを活発にして使秘を改善する薬です。
薬の添付文書には、運用すると耐性が生じて効果が減弱し、薬剤に頼りがちになることがあるため長期連用を避けること、とされています。ただ私の知るかぎり、センナを何十錠も飲まなくてはならないといった方はいませんでした。薬に頼ることなく、食物繊維をしっかりとるといった食生活を送ることへの戒めなのかもしれません。

いつかは効かなくなってしまうのではないか、だから温存しておこう、という薬は限られています。診断がついて薬による治療が始まったら、確実に薬を飲んでもらうことが大切です。

薬の依存性について

一方、「癖になってしまうのではないか」といった疑問は、言い換えると薬に頼らざるを得なくなってしまう、つまり薬への依存を心配していることになると思います。薬への依存は2つのタイプがあります。精神依存と身体依存です。
精神依存は薬物を服用したいという強い欲求があり、それと同時その物を手に入れるために行動にまで移してしまうケースを言います。簡単に言うとニコチン依存症の方が、たばこが吸えないでいるとイライラするといった場合です。患者さんのなかには薬が欲しいばかりに処方せんを違法にコピーまでして薬を手に入れようとする方もいます。また「ドクターショッピング」や救急外来を受診し薬をもらおうとする方もいます。
このような精神依存を生じる薬の多くはモルヒネに代表される麻薬系の鎮痛剤です。麻薬系の鎮痛剤については誤解が多くあります。麻薬系鎮痛剤は以前はがん性疼痛にだけ用いられましたが、最近では良性の慢性疾患にも用いられます。痛みがある場合は、依存は生じません。
一方で痛みもないのにモルヒネなどの鎮痛薬を使っていると依存を生じてしまい、前述したように薬欲しさの行動にまで進展してしまう場合があります。良性疾患に用いられるようになった麻薬系の鎮痛剤ですが、良性疾患の場合は基本的に短期間投与にとどめて用います。
がん性疼痛では、がん自体の完治は難しいため長期間投与になってしまう場合もあります。しかしだからと言って依存が生じる心配はありません。仮に手術や放射線治療、抗がん剤がよく効いて痛みがなくなってきたら、徐々に減量することも可能です。
痛みがあるのに依存を生じるからモルヒネなどの麻薬系鎮痛剤を温存しよう、というのは誤った考え方で、痛みがあれば躊躇なく麻薬系の鎮痛剤を使って、痛みを和らげ日常生活を取り戻すことが優先されます。痛みに対して使用していれば麻薬中毒になることはありません。

一方、身体依存とは、薬物の減薬や断薬後に離脱症状を起こしてしまう場合です。
睡眠薬を突然止めてしまうと反跳性不眠と言って不眠がひどくなってしまう場合や、抗不安薬を急に止めて不安感が増す場合などもあります。また離脱症状は精神症状だけに限らず、振戦や発汗などの自律神経症状、脱力や筋緊張、倦怠感、頻脈や痙攣といった身体症状を呈する場合もあり注意が必要です。
身体依存を簡単に言うとアルコール依存の方が、アルコールが抜けてくると手が震える、などといった症状です。「癖になってしまう」という質問への回答になるかわかりませんが、このように薬のなかには急に止めてはいけない薬があります。例として、ベンゾジアゼピン系と呼ばれる睡眠薬や抗不安薬、抗うつ薬でも以前に用いられている三環系抗うつ薬やバルプロ酸などの抗けいれん薬があります。これらの薬は数カ月かけて徐々に止めていく必要があります。

おわりに

今回は、薬の耐性や依存性について述べました。
急に止めることのできない薬には、このほか身体内にもある副腎皮質ホルモン(ステロイド)薬があります。これは薬としてステロイドを使うと、体内のステロイド分が低下してしまうため急に止められない薬です。少しずつ減量していきます。
患者さんのなかには、薬が癖になるからとか、効かなくなってしまうのでは、といった心配をする方もいますが、多くは誤解です。生体にとって異物である薬ですので、適切に使ってもらう必要があります。疑問があれば医師や薬剤師に相談する姿勢が大切だと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2022年12月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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