栄養指導で”あるある!こんなこと”
第112回
野菜をたくさんとっているつもりなのに
なぜ体重が減らないの?

今回は血圧上昇があり減量目的で来院された方です。「野菜を多めに」の助言からちょっと困ったことになって……。

なかなか減らないAさんの体重

Aさんは70代半ばの男性で、身長160cm、体重は90kg、BMIは35.2kg/㎡と肥満を認める患者さんでした。クリニックへの来院は数年前。血圧の上昇があり服薬処方を受けています。最近また体重が増加傾向にあるので減量目的で栄養食事指導となった患者さんです。栄養食事指導には奥様も同席しました。

田村:今回は減量のための食事の話をさせていただきますね。血圧は降圧剤で管理されているのですね

Aさん:はい。朝1回飲んでます

田村:体重が落ちてくると血圧が管理しやすいと思いますので頑張りましょうね。それでは食事についていくつか教えてください

準備してある「食習慣の問診票」を使って、一つひとつ質問をしてお話をうかがっていきます。問診自体はあまり深掘りせず5分前後で済ませ、気になる部分を見つけるようにしています。Aさんの場合、主食の量が朝、昼が2膳、夜は晩酌のあと1膳とやや食べすぎでした。さらに定年退職して家にいるようになってから間食をちょくちょくするようになった点が気になりました。晩酌の量はビール500mlを1本、焼酎の水割りを1杯とほぼ適量でした。野菜などは奥様が気を付けて食べるようにメニューを考えていますし、食事時間などは特に問題はないようでした。また運動の習慣については、降圧剤の処方を受ける際、医師に「体重を少し減らすように」と言われ、ほぼ毎日30分ほどのウォーキングを実施しているそうです。

奥様:でも何でやせないんでしょうね

田村:年齢的に代謝は確実に落ちています。筋力維持のためにウォーキングを始められたのはとてもよいと思います。あと今回のお話で、ご飯の量がやや多いように感じました。まずは主食の量から気を付けてみましょう。具体的には、毎食ご飯は普通の茶碗で1膳、だいたいそれで150g前後になりますが、もし秤で計れるようならおおよその量をつかんでみてください

奥様:わかりました

田村:そうするとそれだけで400kcal前後は減らせることになりますので、1カ月で1.5kgほどは減量できる計算になります

奥様:あとは今までどおりで大丈夫ですか?

田村:そうですね。ご飯が減った分、野菜から先にしっかり食べてもらいましょう。晩酌は今の量なら特に問題はないですね

奥様:お父さん、ご飯食べすぎていたのよ。できそうね?

Aさん:もっといろいろ大変なのかと思った

田村:バリバリ働いていらした頃はいいのですが、家にいらっしゃる時間が増えた場合、運動量に合わせてご飯の量を調整しましょう。栄養食事指導の指導せんには、①主食の量に気を付ける、②野菜はしっかり食べる、③野菜から食べる、④晩酌は今の量でOK、と箇条書きにしてAさんへお渡しします。ちなみに体重はどのくらい増えましたか?

奥様:退職して家にいるようになって10kg増えました

田村:そうですか。でしたら10kgの減量が目標ですね

以降、1ヵ月に1回のペースで栄養食事指導を実施しています。体重の推移ですが、初回90kg、2回目88kg、3回目87kg、4回目86kg、5回目85.5kg、6回目86kgと前半はしっかり減量ができていましたが、半年後には停滞期に入りつつある状況になりました。さらにここで……。

いもとかぼちゃがやせない原因

田村:今日も体重を量ってみましょう……86kgですね

奥様:先月と同じですね

田村:実は私たちの身体には恒常性といって現状を維持しようとする力があります。これは今の環境に適応しようとする重要な働きですが、体重も同様で、ある程度の量が供給されると身体はその量でまかなおうとします。これが俗にいう停滞期になります。誰にでも必ず停滞期は起こります

奥様:その時はどうしたら?

田村:現状、間食を少し見直して、気持ち運動のほうを増やすことですね。確か間食は午前と午後、時々甘い物、あとは果物やおせんべいでしたね。量的には多くはないのですが、体重をも少し減らしたいので、間食は午後だけにして、できれば果物を1日分、てのひら1杯程度、このぐらいの量は必要なビタミン類の補給になるのでとりましょう。お菓子も絶対ダメではありませんが、なるべく控えてみましょう。あと、運動ですが、現在30分のウォーキングでしたね?もし余裕があれば10分プラスして、できるだけ早歩きしてみましょう

奥様:あのぉ、野菜なんですが、ご飯を減らしているので、かぼちゃとか、じゃがいもがもともと好きで、野菜だしこれは大丈夫じゃないかって結構食べさせてしまっていたんですが……。大丈夫でしたか?

田村:そうなんですね

奥様:はい。特にポテトサラダは本当に好きなので、晩に食べて、次の朝と昼にも食べます。かぼちゃもですが、二人暮らしなので、どうしても余っちゃうとそうなってしまって……

田村:ポテトサラダはマヨネーズを使っていて、確かにおいしいですが、食べすぎると力ロリーオーバーですね。かぼちゃも量によっては……

奥様:ですよね。最近、不安だったんです

田村:私も野菜はしっかりってお伝えしてましたね。お二人でなるべく食べきれる量にすることが大事です。かぼちゃを少量煮るのは大変ですが、ポテトサラダとかは量を減らしてつくってはどうでしょう?

奥様:今は二人暮らしになりましたが、子どもを4人育ててきて、今でもつくる量を加減するのがなかなかできないのです。毎回、また残っちゃったから食べなきゃ、みたいになってしまって。ポテトサラダ、かぼちゃは主人も好きなので

田村:お子さん4人でにぎやかだったんですね?

奥様:男の子3人、女の子1人で食べ盛りはすごかったですね

田村:そうなると、なかなか2人分って言っても量をイメージするの難しいですよね

奥様:そうなんです。どうしても多くなっちゃって……

田村:私も説明不足でしたね。すみません。野菜でもかぼちゃやいも類は炭水化物が多いので、主食として考えるべきで、1回に食べる量には注意が必要なんです。葉物とかきのことかこんにゃくとか、海藻をしっかり食べて、いも類やかぼちゃは1回に小鉢1杯程度、重ならないように食べましょう

奥様:わかりました

結果、Aさんは1年で8kgの減量に成功しました。あと2kg落としたいと今も栄養食事指導に通っています。最近は間食がほとんどなくなり、ウォーキングも天候を見ながら、日によっては朝晩2回実施していてとても前向きに頑張っています。長年にわたる食事づくりの習慣は変更が難しく、家族は出された料理を食べてしまいます。意外なところに盲点がありました。野菜は大丈夫と話す際も、いも類には注意が必要です。(『ヘルスケア・レストラン』2022年11月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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