食べることの希望をつなごう
第55回
多職種の講師による豪華なセミナー
5日間の集中講座でスキルアップにつなぐ

読者の皆さんは、大妻女子大学で毎年行われている夏期セミナーをご存じですか?講師として参加している筆者から見て、管理栄養士としての知識やスキルの向上をめざす方々にとって非常に有意義なセミナーだと感じています。そこで、どんな内容なのか一部紹介します。

毎年恒例の短期集中セミナーが開催

東京都にある管理栄養士養成校の1つである大妻女子大学に、「管理栄養士スキルアップセンター」が設立され、管理栄養士の実践的応用力の育成や潜在有資格者の育成を目的とした夏期セミナー(以下、スキルアップセミナー)が開講されるようになり早6年(第6期)となりました。今年は8月18~22日の日程で開催され、私も調理実習の講師として携わりました。
毎年とても内容が濃く充実したセミナーであるため、私自身の学びにもなっています。また、セミナー全体を取りまとめておられる同校の川口美喜子教授は、日頃から明るくとてもパワフルで臨機応変に活動しておられ、溢れるアイデアと熱意に圧倒されます。
スキルアップセミナーにはベーシックコースとエキスパートコースの2つのコースがあります。それぞれ5日間の日程で開催されますが、1日のみの受講も可能となっています。管理栄養士の国家資格を取得し、すぐに働くことに不安がある方もいらっしゃると思います。また、女性の多い職種であるため、結婚・出産などのライフイベントを機に退職する方もいるでしょう。それに、同じ管理栄養士であっても、医療、学校健康教育、勤労者支援、研究教育、公衆衛生、地域活動、福祉など職域はさまざまです。一度現場を離れたり、違う分野で働いていたりする方が病院やクリニック、在宅などの場での就職を希望する場合、復職や転職のハードルが高いことは容易に想像されます。そのため、このようなスキルアップセミナーは、大変意味のあるものだと思います。

人が育つスキルアップセミナー

第1期では6日間の対面でのセミナーからスタートしたスキルアップセミナーも、毎年の試行錯誤やコロナ禍を経て、第6期は5日間の対面とオンラインでのハイブリッド開催となりました。プログラムも豊富な内容で、座学だけでなく調理実習やグループワークが組み込まれているほか、身体を整えるヨガの時間もあります。
講座の内容も、おいしさを科学的な面から学んだり、食と色彩との関係を学習したりと多岐にわたります。臨床も充実していて、摂食嚥下やがん、認知症といった病態についてや、小児などライフステージ別、制度などの法規、他職種・同職種との連携についてなど、盛りだくさんです。

スキルアップセミナーには多くの講師が参加しており、管理栄養士はもちろんのこと医師、歯科医師、看護師、薬剤師などそれぞれの分野の第一線で活躍されているさまざまな職種の方で構成されています。著名な先生方の講座を少人数で受けられる機会はそうそうないでしょう(各日最大40人)。講師陣の素晴らしさもこのセミナーの魅力だと思います。
また、今年のスキルアップセミナーの特徴としては、昨年までのスキルアップセミナーの修了生が担当する講座がいくつもあったことだと思います。セミナーを修了して現場で活躍している方々が、さらに活躍できる管理栄養士を輩出すべく講師となる、人が育つということを目の当たりにしました。

例年かかわらせていただいている調理実習は、昨年まではベーシックコースでしたが、今年はエキスパートコースを担当しました。ですから、私自身も受講生と同じようにエキスパートコースに進級したような心持ちです。
ベーシックコースの調理実習では嚥下調整食を日本摂食下リハビリテーション学会嚥下調整食分類に沿って調理し、物性測定をし試食を行い、嚥下調整食の基本実習していました。エキスパートコースでは提示された症例に対して栄養ケアプロセスを立案し、その症例に合った嚥下調整食を実際に調理しました。
栄養ケアプロセスについては、栄養ケアサポートLinkのぼりとの本美奈子先生が講議をしてくださいました。大変わかりやすく、「これなら私もできるかも。明日からやってみよう!」と思える内容でした。講議のあとに行われた調理実習では、講議と同じ症例に対し、同じ食材を使って調理しました。受講生の数だけ違う料理ができ、物性もさまざまで、実際に患者さんに調理指導を行う際の伝え方のポイントを各々で振り返ることができたのではないかと思います。

学びとつながりを得た濃密な5日間

スキルアップセミナーに講師として参加し毎回思うのは、セミナーの雰囲気がとてもいいことで、これも魅力の一つであると感じています。受講生の方々はそれなりに緊張して参加していると思うのですが、5日間を通して笑顔の時間が多いのではないでしょうか。
また、5日間みっちり行われる短期集中のセミナーなので、体力は非常に大事です。このセミナーの特色として、希望者には昼食が用意されます。これも大きな魅力です。スキルアップセミナーが始まったばかりの頃は朝食も用意されていたほどです。健康な身体と心を保つには、おいしい食事が必要だなぁとしみじみ感じます。川口教授をはじめ、大妻女子大学の先生や助手の皆さん、事務局の方などたくさんの人が毎回食事の準備をしてくださるのですが、それがとても楽しそうで(実際楽しいんです!)、調理という作業でありながら、おいしい食事を皆でつくるということの大切さを感じます。

おいしい食事づくりも、患者さんやスタッフ、同僚など人とのかかわりも、自分の身体と心がちゃんとしていないと、うまくやっているつもりでもどこかでうまくいっていない。そんなことを考えながら、楽しい学びの時間を過ごしました。ひとり職場であることが多い管理栄養士ですが、人とのつながりができるのも、このセミナーの大きな魅力であると思います。

今回は、歯科衛生士も受講されており、今後他職種とのつながりもできるといいなと感じました。私は普段急性期病院に勤務していますが、スキルアップセミナーでは在宅の分野で活躍されている方が多く、その方々にとってたわいもない日々の「あるある」話を聞いているだけでも大変勉強になります。急性期病院の管理栄養士も在宅の管理栄養士もやっていることの根本は同じなのですが、より患者さんの生活に入り込んだ食支援を行っている内容を実際に聞くと、同職種同士の連携も必須だと痛感しました。そして、今回も心のこもったおいしい食事で身体にも心にも栄養補給ができました。皆さんも来年、ご興味があればぜひご参加ください!(『ヘルスケア・レストラン』2022年10月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士

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