栄養指導で”あるある!こんなこと”
第110回
話題の食事療法についつい飛びつく
患者さんへの対応

テレビなどで「〇〇でやせる」などと放送されるとたちまち店頭からその食材が消える……。今日はそんな話題の食事療法に思わず飛びついてしまう患者さんのケースを紹介します。

もやしを1kg食べる

Yさんの職業は美容師です。ご自身でお店を構え、30年以上1人で美容院を切り盛りしてきました。
クリニックへ来たのは1年ほど前で、市の健康診断で肥満と糖尿を指摘されたのがきっかけでした。来院時の身長は155cm、体重は65kg、BMIは27.1kg/㎡で、やはり体重はやや重めでした。血糖値は空腹時120mg/dl前後、食後だと140mg/dl前後、HbA1cは8.2%でした。いつもどおり食習慣の聞き取りを実施したところ、Yさんの職業柄いくつかの問題点がありました。それは、①お客さん相手の仕事のため、どうしても食事が不規則になりやすい、②お客さんとついついお茶のみをして間食している、③お客さんから菓子などの手土産をもらうことが多い、④料理好きで煮物や漬物、炊き込みごはんなどをたっぷりつくりお客さんなどによく配る、⑤なかなか運動などをするための自分の時間をつくることが難しい、⑥月に1回、趣味のパンづくり教室に通っていて、休みの日はよくパンをつくるといった感じでした。

田村:お客さんが相手なので食事も不規則になりやすいようですが、朝食と夕食は規則的に、また野菜もたっぷりとるようにしてみましょう。あと、煮物などですが、砂糖などの使用量について、少し気を付けてみましょう

Yさん:でも、私の煮物は田舎風で味がしっかりこってりしているのがおいしいって皆喜んでくれるんです

田村:いきなり薄味だと物足りないと思うので、少し塩分も減らしていきましょう

Yさん:ところで管理栄養士さん、私、青汁を飲んでいるんですが、それはいいですか?

田村:甘さはいかがですか?

Yさん:甘くはないです。粉を溶かして飲んでいます。野菜不足にはいいかなと思って

田村:野菜はできれば噛んで食べてほしいですが、あくまで補助としてなら大丈夫です。ただ、青汁を飲んでいても野菜をとれているわけではないので、その点は注意してください

Yさん:わかりました。飲んでも大丈夫ならよかった

この時は青汁の話だけでしたが、Yさんはいろいろ取り組む思者さんだったのです。初回栄養指導から3ヵ月目、3回目の栄養指導では……。

田村:こんにちは。ではまた体重測定からお願いします……。少し減ってきましたね?血液検査数値は、血糖値が食後で132mg/dl、HbA1cが前回は横ばいでしたが今回は7.9%でした。下がりましたね

Yさん:野菜は頑張って食べています。最近、野菜が高いので、もやしを1kg買ってゆでてナムルをつくり置きして、たっぷり食べるようにしています

田村:飽きないように味を変えたきのこを足したり工夫されるといいですね。大事なのは無理なく、ずっと続けられることなので、野菜もあの手この手で飽きないよううまく工夫していきましょうね

Yさん:ありがとうございます。あと管理栄養士さん、お客さんに舞茸がいいって言われました。血糖値を下げるって。私は見ていないのですが、テレビでやっていたそうです

田村:確かに食物繊維が豊富なので、最初に食べるといいですね。きのこなら何でもいいかと思います

Yさん:いや、舞茸がいいらしいんですよ

田村:それは別に悪くはないのでやってみては?あまり味を濃くしたりしなければいいと思います。

Yさん:みそ汁に入れたり、さっと炒めるらしいです。

田村:大丈夫ですよ。やってみてください

Yさん:あと、乳酸菌もいいって。今、感染も心配なので

田村:腸内環境と免疫ってすごく関係があるので、よい菌を補って腸内環境を整えると免疫も上がり、花粉の時期や感染症が流行っている時期にはいいってお話ですね

Yさん:私は接客業なので感染が怖くて、でも店を閉めるわけにもいかないし

田村:そうですね。腸内の免疫アップ、最近では腸活と言われていますがとっても大切です。ただ、どの菌が自分に合っているかがはっきと解明されていないんですよ。なのでいろいろな菌をローテーションで補菌して、あとはオリゴ糖や食物繊維など腸内細菌の餌になるものをとるのがいいとされています。野菜や海藻、きのこなんかをしっかりとることは腸内環境にも糖尿病にもいいですね

Yさん:そうなんですね。聞いてよかったです

極端な考え方も否定しない

このような感じでYさんは毎回、いろいろ新たな取り組みに関してお客さんから聞いた話をもち出してきました。そして冬場は野菜をとるため鍋料理に凝ったり、それでも治療に関して前向きに一生懸命取り組んでいました。HbA1cは6.7%まで下がり、あとは横ばい状態でした。体重も65kgから63kgと2kgは減ったものの横ばい状態でした。そして先月……。

田村:おはようございます。今月はどうですかね?……体重は63.5kgでした。HbA1cですが、今月は8.1%でした。少し上がりましたね

Yさん:たぶん、感染状況がちょっと落ち着いていた時に主人と温泉旅行に何回か行って、その時、普段あまり食べないご飯を結構食べちゃったからだと思います

田村:息抜きは大事です。ご飯は今、どんな感じですか?

Yさん:普段はほとんど口にしていません。ここ2、3カ月、朝はパンとサラダ、昼はおかずだけ、夜も基本的におかずだけで白米はとってないです

田村:それでは時々、無性にご飯を食べたくなりませんか?

Yさん:なりますなります!で、旅行先では朝も昼も夜もおいしくって2膳ずつ食べてました

田村:確かにご飯は血糖値を上げるんですが、これに含まれる糖質は脳に必要不可欠な栄養素なんです。ある程度は必要なので量を決めて食べて、血糖上昇を抑えるために野菜などを最初に食べることが基本なんですね

Yさん:わかりました。でも、またもやしの時期なので……

田村:もやし1kg……

Yさん:はい。冬場は鍋物で夏場はもやしです

田村:それも悪くはないのですが、大事なのは苦痛なく続けられる方法を身に付けることです。朝のパンはいいとして、昼か夜はある程度の糖質をとりましょう。野菜はもやしもいいのですが、そのほかの野菜もいろいろとるようにしましょう

Yさん:わかりました

この後、Yさんの体重は若干減少傾向となりましたが、大きくは変化していません。HbA1cは現在、7.6%。今後は7.5%未満、できれば6%台後半を目標にして、食事の工夫だけでなく、運動なども取り入れるようお話していく予定です。Yさんもさまざまな情報を得て、よいものは取り入れようとします。基本的には否定するのではなく何がよいのか?それをどう取り入れていくのか?そこをきちんとアドバイスするように心がけています。(『ヘルスケア・レストラン』2022年9月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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