食べることの希望をつなごう
第54回
栄養指導の情報収集手段に思うこと
~オンラインを取り入れてみて~

外来での栄養指導と言えば対面で行い、食事内容は患者からの聞き取りで得ることが当たり前でした。コロナ禍となりオンラインを用いた結果、視覚からたくさんの情報を得られることに気づきます。

術後の影響で咀嚼困難なHさん

新型コロナウイルス感染症により、感染予防対策を日常的に行う生活が当たり前になっています。読者の皆さんもマスク着用や手指消毒、体温測定など、日々体調管理に努めておられると思います。濃厚接触者になったり、自身が感染してしまったりすると、行動制限がかかるため受診ができない場合もあります。

87歳のHさんは、以前左下顎歯肉がんの手術を受けており、手術の影響で摂食嚥下障害がありました。今回は右側頸部リンパ節転移に対し、右側頸部郭清術目的で入院されましたが、過去に左側頸部郭清術を施行されていたため、健側の右側を頸部郭清すると摂食嚥下障害が悪化するのではないかという懸念がありました。
前回退院時よりHさんに体重変化はないものの、BMIは17.3kg/㎡と依然として低体重。口腔内の状況は、左側の顎骨を切除しているため左右非対称となっており、左側の口唇閉鎖が不良で食事の際にこぼれが見られました。また、手術の影響で左側には歯がなく、噛み合っているところは1カ所のみ。義歯を作製していましたが、入院中は使用しておらず咀嚼は困難と考えられました。
右側頸部郭清術後1日目の下機能評価では右反回神経麻痺を認めたため、直接訓練を開始。術後11日目に再度評価し、日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021(以下、学会分類)のコード2-2、薄いとろみの食形態で経口摂取を再開しました。Hさんは順調に食事摂取することができ、CRP値の上昇や発熱、痰の増加など誤嚥を疑う所見および体重減少はなかったため、栄養指導を実施し退院となりました。

当院では、退院後は摂食嚥下リハビリテーション外来でフォローすることになっており、退院から2週間後が1回目の外来受診でした。その際の問診では体重変化はなく、自宅では学会分類のコード2-2(ユニバーサルデザインフード〈UDF〉「かまなくてよい」)相当のレトルト食品を召し上がっており、お粥1パックと、おかず1~2バックを目安に自分で準備しているとのことでした。そのほかに、野菜や揚げ物などを刻んでお粥に混ぜたり、ヨーグルトを食べているとの申告でした。
水分はお茶や牛乳にとろみをつけずに摂取したいという希望がありましたが、退院時口唇からのこほれが多かったため、とろみ付けは自宅でも継続することになりました。推定摂取エネルギー量は1200kcal/日で標準体重当たり25kcalとなり、現状の食事内容では充足困難と判断し、エネルギーアップのために日清MCTオイル(日清オイリオグループ)と栄養補助ゼリーの利用をHさんに提案しました。

聞き取り内容と乖離する実際の食事

その後、新型コロナウイルス感染症の感染予防対策のため、Hさんはオンライン診療(オンライン栄養指導)を取り入れることとなりました。Hさんは独居でしたので、昼食時に次男の妻がスマートフォンで撮影してくれることになりました。歯科医師と管理栄養士で食事中の食べ方を観察し、栄養指導を実施しようというわけです。
Hさんにうかがうと体重は退院時より0.2kg増加したとのことでした。退院時は学会分類コード2-2の食形態が妥当であり、前回の受診ではUDFの「かまなくてよい」のレトルト食品と同じような形態の調理品を食べているという申告でしたが、実際の食事場面を拝見するとほぼ常食の食形態で、ご自身で調理したものを召し上がっていました。
主食、主菜、副菜が揃っており、その日は主食、みそ汁、ハム、ゆで卵、ブリ、煮物に加えてプチトマトや浅漬けなど野菜料理4品で計10品ありました。主食は粥ではなく軟飯から米飯で、1食で500~550kcalは摂取できていると推定されました。一方で、水分のとろみ付けは継続されており、日清MCTオイルと栄養補助ゼリーも使用していました。食事中のむせや嗄声はないものの、義歯を使用していても咀嚼ができているかどうかについては不安があったため、歯科医師により口腔内に残留がないことを確認しました。退院時に確認した食形態ではなかったものの、発熱や痰の増加はなかったため、このままで経過観察となりました。

オンラインで食事場面を観察してみて

さらに5週後、再度オンライン診療(栄養指導)を行いました。Hさんのお宅の体重計が壊れてしまったため、体重の確認はできませんでしたが、以前と比べふっくらとした印象を受けました。聞くと、たんぱく源はブリやシラスといった魚が主体のよう。野菜料理の品数が多いのは変わらずで今回は9品あり、そのうちの1品は退院後初回外来受診時に申告していた学会分類のコード2-2(UDFの「かまなくてよい」)相当のレトルト食品でした。
ご自身で調理した料理は、野菜の切り方がだいぶ大きくなっており、刻んでいないものも見られました。使用している野菜は、ごぼうや葉物、プチトマトなど咀嚼が難しいものばかりです。
Hさんはもともと難聴がありましたが、こちらの声かけが耳に入らないほど食事に集中し、次から次へと料理を口に運んでいました。食具はスプーンと箸を使い分けており、大きいものは箸で口の奥に入れているようでした。食形態の変化からか、口唇からのこぼれはだいぶ減っており、発熱および痰の増加は認められませんでした。ただ、食べるスピードが速く次から次へと口へ運ぶため、歯科医師よりゆっくり食べること、適宜咳払いを心がけることについて説明がありました。

オンラインで患者の食事場面を確認することで、食事内容以外にも外来の栄養指導だけではわからない情報が得られました。Hさんがご自身で用意した料理は食材数も品数も多く、器や盛り付けにも凝っていました。ご自身で調理しているため、食形態はほぼ常食となっていましたが、食事中のむせや嗄声、発熱や痰の増加は見られませんでした。
また、退院時に推奨した栄養補助食品の使用も継続していました。食事に関すること以外では、身なりはいつもきちんとしており、キッチンもきれいに片付けられていることから、身の回りのことは自分でできているということも確認できました。

オンライン診療(栄養指導)を実施するにあたり、Hさんの場合、次男の妻がスマートフォンで撮影してくださいました。しかし、必ずしもオンライン診療(栄養指導)がうまくいくとはかぎりません。患者本人が機器の取り扱いに慣れていない場合もありますし、協力者がいない場合、自分で食事中の様子を撮影するのは難しく、また、こちらが観察したいところが的確に撮影されるかどうかという問題もあります。
ただし、今回オンライン診療(栄養指導)を実施してみて、患者の食事場面の確認は可能であり、食形態や姿勢、代償法の実施状況、口腔内の残留などの情報を得ることができるため、入院中のミールラウンドとほぼ同等の情報が得られ、多職種による介入がしやすいと感じました。また、自宅での日常生活動作の確認ができるというメリットもありました。スマートフォンなどでの食事場面の観察は、訪問診療などとの組み合わせにより、摂食嚥下障害患者さんへの栄養指導にはとてもよい情報収集手段だと感じました。(『ヘルスケア・レストラン』2022年9月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士

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