“その人らしさ”を支える特養でのケア
第56回
ミールラウンドによって築かれる多職種間の連携意識

今やミールラウンドは当たり前となり、管理栄養士がユニットにいても他職種に怪訝な顔をされることはなくなりました。ご利用者の食事を観察するミールラウンドですが、多職種間の連携強化にも一役買っています。

13年前から始めたミールラウンド

「皆さんお変わりないですか?」午前中に行っているラウンド時に、私は介護職員にこのように話しかけています。
慣れた介護職員になると、私のこの一言で察してご利用者の食事状況の変化を教えてくれ、その場で意見交換が始まることもよくあります。
私がミールラウンドを始めたのは、当施設が開所した2009年のことです。病院勤務時代の栄養サポートチームの経験から、患者(ご利用者)の状況を自分の目で確認する習慣がついていたため、「特養のご利用者はどんな人たちかな」と思いつつユニットで仕事を始めました。最初は介護職員に怪訝な顔をされましたが、何かと用事をつくって(たとえば食事摂取量を確認したいとか、職員に書類を届けるとか)こまめにユニットに行くようにしました。また、開所直後だったので新規入居が続き、栄養アセスメントを毎日行わなければならなかったこともユニットに出向く目的となり、徐々に「ユニットによく来る管理栄養士」として介護職員も慣れてくれたようでした。

食事に関する情報が管理栄養士に集まる環境へ

管理栄養士がユニットによく来ることがわかると、自然と食事に関する相談ごとが介護職員から持ち込まれるようになりました。「あの時の給食がイマイチだったようだ」などの給食に対する要望や、「家族からの差し入れをどうしたらいいか」「調理レクリエーションを手伝ってくれないか」といった栄養面やイベントについてです。
介護職員から発信される「ちょっとした困りごと」に前向きに対応していくことで、徐々に距離が縮まったように思います。
栄養アセスメントの一環として食事風景の観察も必要だったため、その後、自然とミールラウンドが始まりました。現在のミールラウンドと比べると頻度も低く、問題を抱えているご利用者中心ではありましたが、私自身が特養でのご利用者の「食べる」ことを知るいい機会になったと感じています。

ミールラウンドを繰り返していくと、ご利用者の「普段の食事風景」がわかるようになってきます。それと同時に「気になる点」が見えてくるようになりました。「ムセているな」とか「あんな姿勢で大丈
夫かな」とか「目を閉じているけど、寝ているのかな」など、見ただけでわかるような問題点だったと思います。
前職では摂食嚥下障害の患者とのかかわりが少なく、教科書的な内容がなんとなくわかる程度の知識でした。そこで勉強し直しつつ施設内の看護師や機能訓練指導員の意見を聞きながら、ご利用者の問題点に対する対応を開始しました。
ミールラウンドに慣れないうちは食形態を変更するたびに食事介助に入って、口の動きや嚥下後の残留、飲み込みまでの時間などを繰り返し観察しました。ご利用者の状況によっては食事時間が1時間を超えてしまうこともあり、「こんなに時間がかかってご利用者ご本人は疲れないだろうか」と疑問が浮かびました。このように新たな課題や問題点に気がつくたびに聞いたり調べたりしながら対応することを繰り返しました。
意思疎通が困難な認知症のご利用者も、食材によって口の開きが変わるため、「この食材・味付けがお好きなんだなあ」と感じることもでき、食事介助はご利用者とのいいコミュニケーションになっていたんだな、と当時を振り返ることがあります。

現在当施設では、ミールラウンドを通して姿勢や食事介助の方法、トロミの付け方などを多職種で検討・調整しています。その内容をもとに、ミールラウンド中に姿勢や一口量の調整、介助スピードなどを修正しているうちに、自然と介護職員から「Aさんの姿勢が崩れてきた」「Bさんのトロミは……」と、食事摂取上の問題点が管理栄養士に伝わるようになってきました。
また、対応可能な部分はユニット内だけで解決できることもあり、管理栄養士を含めてミールラウンドを行うことで食事摂取に対する他職種への意識づけにもつながっています。
管理栄養士がどんなにミールラウンドに加わっても、ご利用者の食事の場面に立ち会う機会は介護職員にはかないません。状況に応じた栄養ケアを行うためには、介護職員がいつもの食事風景に変化を感じ、それを情報共有してくれる環境が重要だと感じています。

ミールラウンドがもたらす他職種との関係性の変化

栄養マネジメント強化加算では、週3回以上のミールラウンドが求められています。当施設では8つあるユニットそれぞれに週3回以上のミールラウンドを行うべきご利用者がいらっしゃいます。したがって週3回8ユニット分のミールラウンドを実施することになり、場合によっては管理栄養士がすべてに加わるのは困難なことがあります。
加算要項上では、やむを得ない場合は他職種が実施してもいい、となっていますが、皆さんはどうしていますか?
当施設では「やむを得ない場合」がまだ数えるほどしかなく、ミールラウンドの状況を介護職員等から聞き取って、管理栄養士が記録する、というように対応しています。観察項目の提示などが必要かな、と思う反面、日常的に食事状況について他職種と話していることが功を奏して、管理栄養士が聞きたいこと以上の内容を聞き取ることもできています。
また、長い期間ミールラウンドを行っていることで、ご利用者個々の「普段の様子」が把握できているため、介護職員と同じ感覚で、いつもと違うところについて情報交換ができているように感じます。さらに、介護職員以外の職種からも「気になった」とご利用者の変化について情報提供されることもあります。この場合、その職種の専門領域の見解も添えて話してくれることも多く、こちらの学びが深まっています。

ミールラウンドはご利用者の食事状況の観察が主な目的ですが、それを通じて他職種とかかわることで管理栄養士の視点を伝えることにも役立っていると感じます。ミールラウンドは、管理栄養士がどんな仕事をしているのか、何ができる職種なのかを知ってもらう機会にもなるのではないでしょうか。(『ヘルスケア・レストラン』2022年8月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る

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