栄養士が知っておくべき薬の知識
第132回
栄養管理が治療の重要なポイントとなる
COPDの薬物療法を知る

今回はCOVID-19において重症化するリスク因子である慢性閉塞性肺疾患(COPD)の薬物治療について述べます。

COPDの病態

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は栄養管理上の重要疾患だと思います。COPDの患者さんは、BMIが低い人ほど予後が悪いと言われています。薬物治療は補助的な役割にしか過ぎませんが、COPD用の薬として主に吸入薬で、たくさんの種類が発売されているので、今回はこれらを紹介したいと思います。
COPDの原因は主に喫煙です。副流煙や電子タバコもリスク因子とされ、男性よりも女性のほうが喫煙のリスクが高いとされます。
喫煙者は減っている印象がありますが、厚生労働省の統計によると、2018年に1995年以降でCOPDによる死亡者が最高値であったとしています。

COPDはタバコの煙で炎症が起こり、気道が厚くなって空気の出入りが阻害される疾患です。肺胞では体内に溜まった二酸化炭素と吸引した空気中の酸素とを交換しなければなりませんが、COPDでは肺胞が破壊されているため、十分な酸素を取り込めないためガス交換ができず、少しの動作でも呼吸困難を感じてしまいます。
COPDは労作時に息切れを感じるかどうかで診断されます。栄養療法はこの初期の段階から介入することが必要とされます。しかし、患者さんのなかには労作時の息切れを感じないように階段を上ることを避けたり、荷物を持って歩かなかったりと、息切れを自覚しないような生活を送っていることもあり、初めて病院にかかった
時にはかなり症状が進んでいた、といった場合も多く見られます。喫煙者で若い頃から痰がからんでいたり、高齢喫煙者が息切れや痰が詰まるなどと訴えたら、COPDを疑って受診を勧める必要があると思います。COPD治療の根本は禁煙です。

COPDの栄養療法

COPDは、安定期においても安静時エネルギー消費量(REE)が増大しています。これは酸素と二酸化炭素をうまく交換できないために、呼吸筋を多く使用して栄養代謝が亢進状態になっているためです。つまりマラスムスタイプの栄養障害を生じます。REEの1.5倍程度のエネルギー摂取が必要とされ、それが摂取できないとやせてしまって悪循環を辿ります。COPDの約30%でBMIが20kg/㎡未満とされ、重症になるほどこの割合は増えていきます。COPDの予後を決める因子は、6分間でどのくらい歩けるか、1秒間でどのくらい息が吐けるか(FEV1%)、呼吸困難感の程度とともに「体重減少」もその1つに数えられています。COPD患者の栄養管理ですが、基本は高エネルギーで高たんぱく質食とされます。ただし、食事を召し上がっている間にも息苦しくなったり、肺が胃を圧迫するくらいに大きくなっていたりするために1回の食事で多くの量を食べるのが難しい場合がほとんどです。脂質は呼吸商が低く、高エネルギーが得られるためCOPDに推奨される栄養素です。食事でとれない分を高濃度で脂質含有量の多い栄養剤で補ったり、呼吸筋疲労を改善する目的で筋合成に働く分岐鎖アミノ酸を多く含む栄養剤を使ったりすることもあると思います。いずれにしても食事摂取量とこれらの栄
養剤の摂取量を合算して、十分なエネルギーを確保することが大切になります。

薬物療法

COPDの薬物療法としてまず挙げられるのがワクチン接種です。インフルエンザウイルスのワクチン接種は必須で、これはCOPDの予後を改善したことが報告されています。肺炎球菌やCOVID-19のワクチンも禁忌でないかぎり接種してもらったほうがよいと思います。このほかは、COPD患者の呼吸を楽にする薬が使われます。COPDによく似た病態に喘息があります。喘息では初めから副腎皮質ステロイドの吸入薬を使いますが、COPDでまず使われるのは抗コリン作用を持つ吸入薬です。スピリーバ®やシーブリ®、エンクラッセ®は1日1回タイプの吸入薬で、エクリラ®は1日2回タイプとなります。吸入薬といっても体内以外にも若干吸収されるため閉塞隅角緑内障や前立腺肥大症には禁忌になります。

喘息の吸入薬も同様に考えますが、吸入薬には大きく2種類のタイプがあります。押して噴霧するタイプと口にくわえて吸い込むタイプです。押して噴霧するタイプは上手に扱えない人も多く、できれば口にくわえて吸い込むタイプが肺胞に薬がいきわたりやすいと思います。ただし、口にくわえて吸い込むタイプは息を吸い込むスピードが遅いと十分に薬が吸えません。お蕎麦をすすって食べられるなら口にくわえて吸い込むタイプが使えますが、うまくできない場合は噴霧するタイプを使います。いずれも経口薬に比べて全身性の副作用が少ないといった大きな利点があります。ただし、吸入手技がうまくできないと薬の効果が得られないので、吸入薬がうまく吸い込めないなどの訴えがあったら、主治医や薬剤師に相談して薬を変えてもらったほうがよいと思います。

抗コリン薬の次に使われるのがβ刺激薬です。気管支拡張作用をもち、短時間作用型と長時間作用型があります。喘息の発作で息が苦しいといった救急時には、短時間作用型のβ刺激薬を用います。ベロテック®やサルタノール®などがあります。以前、喘息患者をこれだけで管理していて死亡率が増えたことが問題になりました。喘息は炎症ですので、必ず副腎皮質ステロイドを含む吸入薬を使います。長時間作用型のβ刺激薬にはホクナリン®、セレベント®、オンブレス®があります。早く効くうえに効果が長もちするタイプにオーキシスがあります。COPDでは喘息患者に多くみられるアレルギー素因をもった患者もいます。血液中の好酸球数が多い患者には、副腎皮質ステロイドを含有した吸入薬が使われます。キュバール™、フルタイド®、パルミコート®、オルベスコ®、アズマネックス®、アニュイティ®などです。それぞれ吸入する器具が異なっていて患者さんごとに吸い込みやすいとか、残量表示がわかりやすいなどの違いで使い分けられます。副腎皮質ステロイドの吸入薬を使っている患者さんで大切なのは、吸入後に「うがい」をしてもらうことです。カンジダなどの感染症が口腔内で生じてしまうためです。反対に言えば口内炎で食事がとれないといった場合は、副腎皮質ステロイド吸入薬を使った後にうがいをしていない可能性があると思います。

喘息もCOPDも吸入薬が安全で効果的ですが、何回も吸入してもらうのは難しい面があります。そこで抗コリン薬とβ刺激薬が同時に吸入できるものが発売されています。ウルティブロ®、アノーロ®、スピオルト®、ビベスピ®などです。また、アドエア®やシムビコート®、レルベア®は副腎皮質ステロイドとβ刺激薬の2つの成分が同時に吸入できるタイプです。これらも吸入後のうがいは必須です。さらに最近では、副腎皮質ステロイド、抗コリン薬、β刺激薬と3つの成分が同時に吸入できるタイプも発売されています。テリルジー®、ビレーズトリ®です。これも吸入後はうがいをしてもらいます。

今回は栄養管理がとても大切な疾患であるCOPDに用いられる薬を紹介しました。COPDは身体活動に制限があり、息切れといった症状から、さらに不動となってサルコペニアに陥りやすい疾患です。このため在宅酸素療法も適応になります。薬だけではなかなか改善を得ることが難しい疾患です。運動療法とともに日頃の栄養管理がとても大切です。(『ヘルスケア・レストラン』2022年8月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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