栄養指導で”あるある!こんなこと”
第109回
家族の病気がストレスで
一時数値が悪化してしまったケース

Xさんはもう年以上クリニックに通院しています。栄養指導も2年前から2カ月に1回受けており、数値的には安定していました。Xさんの体格は身長164cm、体重67kg前後、BMIは24.9kg/㎡です。ところが最近、糖尿病の数値が悪化してしまいました。

妻に子宮頸がんが見つかり糖尿病の数値が悪化

田村:体重は大きな変化がないですね。血糖値は前回よりやや高めで食後2時間で165mg/dl、HbA1cも前回が6.4%でしたが、今回は6.7%でした。食事のほうはいかがですか?

Xさん:そうですね。気を付けてはいるんですが

田村:お仕事とか、お忙しいですか?

Xさん:そうですね、今ちょっとバタバタしていて

田村:そうなんですね。運動なんかはいかがですか?

Xさん:今は、やってる時間が取れないですね

田村:そうですか。お忙しいとなかなか難しいですかね?食事のほうはいつもどおり基本的なところはしっかり続けて様子を見ていきましょうか?

こんな会話をして、食事療法に役立つレシピを数枚お渡ししました。ところが次回……。

田村:こんにちは。ではまた体重測定からお願いします。2カ月ぶりですが、ちょっとおやせになりましたか?2kgぐらい前回より減っていますね

Xさん:ちょっと食事が不規則だったり食べられなかったりと、いろいろあって……

田村:そうですか。数値も見てみましょうね。えっと、体重は減っているんですが、数値が今回も上がってしまいましたね。血糖値は168mg/dlなのであまり前回とは変わりないですが、HbA1cが今回は7.2%でした。前回が6.7%、前々回が6.4%でしたので、ちょっと上がってますね。相変わらずお仕事のほうはお忙しいですか?

Xさん:それが、仕事っていうより、妻にがんが見つかって……

田村:それは大変ですね……

Xさん:それで最近、検査入院などでバタバタしていて……

田村:前回、お忙しいっておっしゃっていたのはその件でしたか?それで奥さまのほうは?

Xさん:子宮頸がんなんですが、大きくてすぐには手術できないって言われました。抗がん剤で小さくしてから切除するという話で、2週間ばかり検査や治療で入院したり、自宅で服薬治療したりしていました

田村:お子さんは?

Xさん:小学校3年の男の子が1人です

Xさん:だとすると入院中は大変でしたね?

Xさん:そうなんです。息子は妻が入院中から学童を利用したりして……。ただ、私が食事をつくれないので、不規則になったりして

田村:そうですか。お仕事もあるし、食事の用意もするとなると大変ですね

Xさん:そうなんです。妻の入院中は子どもと2人なら、コンビニでお弁当を買ってきたり食べに行ったりとかして2週間程度なら大丈夫だったんですが、退院して家に帰って来てからしばらく調子が悪かったので、食事面が大変でした

田村:そうですね。心労もありますね。かなり大きなストレスかと思います

Xさん:私も最初は眠れませんでした。今ではだいぶ落ち着いています

田村:奥さま手術は?

Xさん:かなり大きいと言われていてリンパを圧迫している大きさって言われていたんですが、抗がん剤のおかげでだいぶ小さくなって、手術の日程がそろそろ決まりそうです

田村:そうですか。経過はしばらく見る必要があると思いますが、お子さんや奥さまご本人の精神面とかも心配ですね

Xさん:はい。まぁ息子はまだあまりよくわかっていないので、大丈夫みたいですね。妻も最初は落ち込んでいましたが、治療を始めてある程度薬が効いてきて手術ができそうなんで、結構元気に明るくしています

田村:そうですか。奥さま偉いですね。では、この先手術で奥さまが入院された時、Xさんでも簡単に電子レンジなんかでつくれる料理のレシピを何品かお渡ししますので、ぜひ参考にしてみてください

Xさん:ありがとうございます。助かります。ストレスで食事が変化すると数値に直に響いてきますね。前回、管理栄養士さんに、「あれ?どうしました?忙しいですか?」って言われた時は正直びっくりしました。何も言わなくてもわかってしまうんだなって

田村:生活環境の変化やストレスも数値に影響するのですね

家族皆で食事づくり
健康的な生活を心がける

こんなやりとりをしてレシピをお渡しして、次回の予約を入れてこの時は終了しました。そして2カ月後……。

田村:こんにちは。体重は変わりないですね。HbA1cは前回7.2%でしたが、今回は6.8%でした。下がってきました。よかったです。奥さまはいかがですか?

Xさん:手術が無事に終わりました

田村:今はコロナ禍で面会も難しいですよね?

Xさん:そうなんです。手術は先月だったんですが、手術当日も入院中も面会はダメで、携帯のLINEとかビデオ通話でなんとか話しました

田村:そうですか。奥さまも頑張りましたね

Xさん:運よくリンパとかは大丈夫らしく、とりあえず取るものは取ったからって。もうしばらく経過観察は続くみたいですが、なんとか一安心しました

田村:それはよかった

Xさん:管理栄養士さんからもらったレシピで妻が入院する前に一緒につくってみて、今回自分にとっても、よい経験になりました。こんなことでもなければ台所に立つなんて多分しなかったので

田村:ぜひ、料理はちょこちょこ続けてください

Xさん:今回は電子レンジレシピと……そうそうホットプレートレシピもすごく助かりました。息子も手伝ってくれるようになりましたしね

田村:そんな風に考えられるって素晴らしいです。今しばらく奥さまも経過観察が必要でしょうから、ご家族皆の協力が必要ですね

その後、Xさんの血糖値は安定しHbA1cも6.2%程度で推移しています。奥さまの経過観察も安定しているようです。お勤めをされていなかった奥さまはこれまで健康診断なども受けておらず、今回のことをきっかけに定期的に健診も積極的に受けるようになったそうです。そして今は休みの日には体力をつけるためにも家族でウォーキングを楽しんだり、室内でストレッチしたり、食べ物も皆でいろいろと気を付けるようになったそうです。

今回のケースのようにご家族の突然の疾患や体調不良などで、普段の生活リズムが変わってしまったり、精神的なストレスが数値に影響する場合が多々あります。なかなかシビアなところでもありますが、できるサポートを見つけて情報提供するのは重要だと感じました。クリニックでは比較的長期的に患者さんの栄養指導ができるので、そのあたりの関係性も大きいと感じています。(『ヘルスケア・レストラン』2022年8月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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