栄養指導で”あるある!こんなこと”
第108回
厳格な食事療法をきっちりと守り体重が減少
食事の楽しみを感じることで明るい日々に

食事療法をなかなか継続できない患者さんがいる一方で厳格な食事療法をきっちり守るまじめな患者さんもいます。ただ、そんな患者さんほど深刻な悩みを抱えていることもあるのです。

我慢ばかりで何をどう食べてよいのか……

今回紹介するWさんは、主治医である院長先生より「とてもまじめに頑張っている患者さんです。最近体重減少が著しいため、正しい食事療法の指導をお願いします」と依頼された方です。Wさんの身長は155cm、体重は41kgでBMIは17.1kg/㎡と見た目にもかなりほっそりされていました。栄養指導依頼時の血糖値は100mg/dl前後、HbA1cは6%後半~7%前半と年齢からすると血糖自体はコントロール良好な患者さんでした。

田村:Wさんは体重が減ってきているそうですね

Wさん:はい。最近またやせてしまって。先生からも管理栄養士さんの話を聞いてみなさいって……

田村:わかりました。では、お食事について質問しますね

挨拶と簡単に疾患の確認をして、食習慣調査を行うと……。

田村:Wさん、さすがに血糖コントロールが良好なだけあって、お食事のほうもいろいろと注意されて頑張っていますね

Wさん:でも、だんだん自分ではどうしていいかわからなくなってしまって……

田村:もとから体型は細身でいらっしゃいましたか?

Wさん:そうですね。今まで太ったことってあまりなくて、最近はさらにやせてしまって娘にも心配されています
田村:最近、体重が減ってきたのはどのくらいの期間で何kgくらいですか?

Wさん:ここ3カ月ぐらいで2~3kgは減りました

田村:なるほど。食欲はいかがですか?あと病気や怪我をされたとか?

Wさん:食欲はあります。病気や怪我は最近はないです

田村:コロナウイルスの感染症なんかもありますが、精神的につらいとか、何かつらいと感じたことは?

Wさん:それも特にはないです。コロナ禍で買い物の頻度が少なくなったり、旅行に行けないことが若干のストレスではありますが、そんなに強く感じているわけではありません

田村:わかりました。血糖コントロールもしっかりできているので糖尿病からやせていることはなさそうです。問題はお食事ですかね?

Wさん:自分ではちゃんと食べているつもりなんですけど……。あっ、管理栄養士さん、実はこれ……

そう言ってWさんがカバンから取り出したものは、糖尿病の食事のとり方が記された単位表でした(写真)。

Wさん:これは最初に栄養指導を受けた時に当時の病院からいただいた資料です

田村:ちょっと拝見させていただけますか?

そこには食事のとり方が糖尿病の単位で書かれていました。

田村:これは懐かしいですね。ただ私がご指導する場合、今はあまり厳密に何単位とか何gといった話はしていないんです

Wさん:そうなんですか?

田村:はい。むしろ、お食事は楽しみや癒しにもなるものなので、あまり厳格に制限してしまうとストレスとなり、楽しくない食事になってしまいます。だから、守ってほしい食べ方なんかを主に伝えて実践してもらうようにしています。Wさんはこれを使ってきっちり管理されてきたんですね

Wさん:はい。糖尿病は怖いと思ったし……。でも、最近は我慢ばかりで、何をどう食べていいのか、わからなくなってしまって

田村:そうですね。初めは数値がよくなれば頑張れますが、長くなってくると窮屈な場合もありますね。まずはこれまでやってきたよい部分はそのままにして、少し緩めていいところは見直してみましょう

Wさん:よろしくお願いします

揚げ物もお肉も食べていいんですか?

田村:揚げ物などの油ものも決してダメではありません。腎機能などに問題はありませんのでお肉やお魚などのたんぱく質もしっかり食べるようにしてくださいね

Wさん:えっ?油って大丈夫なんですか?

田村:ダメではないですよ。もちろん、食べすぎはよくありませんが、Wさんの場合は少しとっても大丈夫です

Wさん:今まで天ぷらは衣を取って、フライなんかはなるべく食べないようにしていました。あとお肉やお魚もほんの小さな切り身でした

田村:そうでしたか。確かに昔はそのような指導をする管理栄養士がいたかもしれませんが、今は脂質もとりますし、肉や魚、大豆製品、卵、乳製品などのたんぱく源はむしろしっかりとるようにアドバイスする管理栄養士が多いですね

Wさん:これからはもう少し楽しく食事ができそうです。今日は鶏のから揚げをつくって孫と一緒に食べたいと思います

こんなやりとりで初回の栄養指導は終了しました。そして翌月の栄養指導では……

Wさん:管理栄養士さん、この前、から揚げをつくって孫と一緒に食べました。いつもは脂の多い皮のところを外して食べていましたが、全部おいしくいただきました

田村:よかったですね。その後はいかがでしたか?

Wさん:お肉やお魚も今までよりは少し多めに食べるようにしています

田村:いいですね。体重は0.5kgくらい増えています。まだ誤差の範囲かもしれませんが、これまで減り続けていたことを考えるとプラス傾向ですね。そして血糖値とHbA1cも先月と大きな変化はなく、こちらも大丈夫ですね

Wさん:よかったです

田村:野菜はこれまでどおりとってください。果物も食べて大丈夫ですからね

Wさん:はい。前回帰ったら娘にもよかったねって言われました。気づかないところで私も悩んでいたんだなって感じました

田村:では、もう少し血糖の数値と体重をみていきましょう。よろしくお願いします

Wさん:こちらこそよろしくお願いします

半年後、Wさんは体重が3~4kg増え、HbA1cは7%前半で推移しており、経過は大変良好です。今回のようにまじめな患者さんほどきっちりきっちり栄養管理を実行しようとされます。私が患者さんに何よりも伝えたいことは「食べちゃいけない物は何1つないこと。食べる量や頻度、組み合わせなどの食べ方を注意しましょう」ということです。そして、「食べる楽しみ」をいつまでももっていていただきたいと切に考えています。(『ヘルスケア・レストラン』2022年7月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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