食べることの希望をつなごう
第52回
患者を知るうえで欠かせないミールラウンド

今や当たり前のように行われているミールラウンドですが、どんなところに注意して患者さんを観察すればよいか整理できていますか?
この春に入職してきた新人管理栄養士も職場の雰囲気に慣れてきた頃かと思います。ぜひこの機会に確認してみてください。

ミールラウンドは情報の宝庫確認すべき点を整理しよう

患者さんの食事摂取状況を把握するためには、ミールラウンドが一番わかりやすいでしょう。当院の歯科病棟では、摂食嚥下障害患者に対し、平日の昼食時に摂食嚥下リハビリテーション担当の歯科医師と病棟看護師によるミールラウンドを行っています。管理栄養士も週に1回一緒にラウンドしますが、やはり正確な食事摂取状況を知るためには、食べているところを見るのが一番です。また、多職種でラウンドすることで、情報共有や方針の確認ができるのもメリットのひとつです。

ミールラウンドでは、主に摂取量や食べ方、食事時間、嗜好などを確認します。食事の前には、口が開くか、歯があるか、咀嚼が可能か、舌が動くか、痛みがないか、口の中が汚れていないかについて確認しておきます。それに加え、口腔がん患者の場合、術後特有の再建方法についても確認します。なぜなら、再建方法によっては舌の可動域がかなり狭まっていたり、開口量に制限が生じていたりする場合があるからです。食事中には、むせていないか、口からこぼれていないか、咀嚼できているか、飲み込めているか、口の中に残っていないか、食べたあとにがらがら声になっていないか、食事にかかった時間はどのくらいか、摂取量はどのくらいか、疲労感はあるかなど、確認していきます。
むせがある場合は、どんなものを食べている時にむせがあるのかを確認します。液体でむせるのか、ペースト状の食事でむせるのか、お粥のような粒があるものでむせるのかによって対応が変わってきます。液体でむせる場合にはとろみ付けをすることもありますし、ペースト状の食事でむせる場合には口の中に食べた物が残っていないか確認します。残留が多い場合はしっかり喀出してもらってから、次のひと口を召し上がっていただきます。こぼれがある場合には、とろみ付けの濃度を調整したり唇を押さえて食べてもらったりすることで対応します。噛めない、飲み込めない場合には食形態やひと口量の調整が必要です。

もし、口の中に残る場合にはどこにどんな形で残っているか確認しましょう。口の前方に残る場合は、送り込みが悪い可能性が考えられますので、口の奥に食べ物を置くことで改善することがあります。一方、口の奥に残る場合は、水で流せるかどうか交互嚥下などを試してみてもいいでしょう。食べたあとにがらがら声になっている場合には、咽頭に食べ物が残っていることが考えられるので、咳払いしてもらい声がクリアになるかを確認します。
また、食べ物を飲み込むために複数回嚥下をしてもらうこともあります。ただし、食事に1時間以上かかる場合は満腹感や疲労感につながってしまいます。その場合には食事のボリュームを落とし、栄養補助食品や補食で調整することがあります。

食事の様子から適切な下調整食を選択する

摂食嚥下障害の方への食事は、基本的に安全に食べられる状態に形を調整しています。その時、嚥下しやすく咽頭残留しにくい形であり、適度な粘度があり、また、食塊形成しやすく口腔に残りにくいこと、べたつかず、密度が均一であることがポイントになります。
食事の場面を見ていると、どのような料理で食が進み、どのよう料理でむせがあるのかなど、「主食5割、副食3割」などといった記録からだけでは読み取れない情報を手に入れることができます。どんなものが食べやすくて、どんなものが食べにくいのか、それを知るためだけでもミールラウンドは有用だと考えています。

当院の歯科病棟での嚥下機能評価では、どんな形状のものを、どんな食具で、どのような姿勢で、どのくらい口に入れれば安全に食べられるかを評価します。液体に関しては、とろみの濃度を0.5%、1%、1.5%、2%と微調整しながら確認します。なお、濃厚流動食のとろみ付けは、とろみが不安定になりがちで付着性が増すように感じられるため、原則行っていません。そのため、基本的には液体摂取可の患者さんのみ濃厚流動食の摂取を「可」としています。ただし、0.5%のとろみが飲めるというのは非常に微妙なラインであるため、後述の検査で評価をお願いすることがあります。

2人の患者さんの例を紹介します。当院に入院中のAさんから牛乳が飲みたいと希望がありました。嚥下機能評価では液体は不可、0.5%のとろみは許可されています。0.5%のとろみと牛乳を比較すると、牛乳のとろみは若干薄いため、再度検査となりました。一方でBさんは、経口摂取が進まないものの咽頭痛から経鼻胃管抜去となったため、経口濃厚流動食の開始が検討されました。Aさんと同じく0.5%のとろみの指示だったため、Bさんも再度、嚥下機能評価を実施し、お二人とも摂取可となったため牛乳や経口濃厚流動食を開始しました。

ミールラウンドを通し患者貢献につなげていく

嚥下機能の評価(検査)にはいろいろなツールが使われます。当院では嚥下造影検査と嚥下内視鏡検査が最も多く用いられています。
嚥下造影検査はX線透視により、口腔や咽頭の動きを観察します。この検査ではバリウムなどの造影剤を使います。外からは見えない嚥下運動や食物の動きを観察できますが、造影剤による合併症として、イレウスや腸閉塞のリスクがあります。
嚥下内視鏡検査は、内視鏡を鼻から挿入し、咽頭や喉頭を観察する検査です。嚥下内視鏡は嚥下造影と違い、被爆がなく長時間の検査ができ、持ち運びができることがメリットです。食上げの際、ベッドサイドで行うことも多く、実際の食事で評価し、食上げに役立てています。

ラウンドをすると、食形態の調整が必要な患者さんの退院後の生活をイメージしながら、食事の準備や食事摂取についてサポートしていけることが実感できると思います。輸液や栄養剤のみでの栄養摂取の時からラウンドをしていると、間接訓練や直接訓練を経て口からの食事摂取へ移行していく患者さんに立ち会うことがあります。そして、数週間ぶりの食事の場面で「味がわかる」「ちゃんと食べられる」と喜び涙する患者さんや、「食べるのがこんなに大変だと思わなかった」「とても疲れる」「思ったより食べられない」と落ち込む患者さんに遭遇することもあります。しかし、やはり経口摂取が始まることで元気が出てくる患者さんたちが多くなります。

ミールラウンドで食事に関するさまざまな情報を得て患者さんが安心して退院できるようサポートしていくことはもちろんですが、日々患者さんがよくなっていく姿を見ることができるのは、管理栄養士としてのモチベーションアップにつながっています。(『ヘルスケア・レストラン』2022年7月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士

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