栄養指導で”あるある!こんなこと”
第106回
コロナ禍で仕事が減り希望退職
ちょっとした生活の変化で状況が好転

コロナ禍は若い人の就業状況にも大きな影響を及ぼしています。仕事が少なくなり、希望退職で家にこもる日々のVさんもそんなコロナ禍の影響で病態が悪化した1人です。

会社を希望退職して家でゲーム三昧の日々

Vさんは、身長175cm、もともとの体重92kg、BMIは30.0kg/㎡と体格のいい方でした。1年ほど前からクリニックに糖尿病治療のため通院を開始。栄養指導開始後、体重は徐々に減り5kgほど減量。当初、血糖値が200mg/dl台、HbA1cは9%ほどありましたが、現在は血糖値100mg/dl前半、HbA1cは7%中盤~前半まで改善していました。
アパレル関係の会社に勤めていた方です。

田村:こんにちは。今日も体重測定からお願いします

Vさん:こんにちは。よろしくお願いします

田村:先月より2kg増えましたね。食事はいかがですか?野菜はとれていますか?

Vさん:食事のほうは特に変わりなく、野菜もとるようには心がけています

田村:それはいいですね。ところで先月お話しました運動はいかがですか?

Vさん:それがまだ……

田村:そうですか。コロナ禍で現在週3日お休みとうかがっていましたが、運動はなかなか難しいですかね?

Vさん:実は先月末で会社を辞めました。仕事が減っていて希望退職の話が出ていたので……

田村:それは大変でしたね。コロナ禍の影響は大きいですね。それで今は?

Vさん:仕事を探しながら失業手当をもらっています。でも、こんな時期でなかなか転職先が見つからなくて、家でついついゲームばかりしている毎日です

田村:それで体重も少し増えましたかね?

Vさん:そうだと思います。仕事に行かなくなって3週間になるので

田村:それで今回は血糖値もやや高めだったんですね。このままだと来月HbA1cも少し上がってくるかもしれません。先月もお願いしました運動をこの機会に始めてみませんか

Vさん:わかりました。考えてみます

こんな会話をして運動の資料を渡し、次回の予約を入れて栄養指導を終了しました。
そして翌月……。

田村:こんにちは。体重がまた1kgほど増加し、HbA1cがやはり7.3%から7.8%へと上がってしまいましたね。運動はいかがですかね?

Vさん:いやぁ、なかなか難しいです

田村:家ではテレビを見ていらっしゃる時間が長いですか?

Vさん:仕事を探す以外は暇なので、ゲームが多いですね

田村:最近はスマホでもいろいろな運動ができるアプリがありますよね

Vさん:確かにありますね

田村:外に出るのが難しいようでしたら、ゲーム感覚でできる室内運動でもいいですよ。ストレッチ、筋トレ、ダンスなど、いろいろと方法はありますね

Vさん:外に出なくてもいいならやれるかも……

田村:ぜひ、やってみてください。あと、体重が増えてきているので、ご自身でもしっかり体重測定して、最近増えてしまった分は減量していきましょう

Vさん:少し頑張ってみます

田村:HbA1cも7.3%まで順調でした。あと一息、頑張りましょう

Vさん:わかりました

お腹が空いたら運動 間食がなくなり減量へ

そして翌月……。

田村:こんにちは。あれ?ちょっとスッキリしたような感じですね。体重を量ってみましょう。

体重を量ると先月より2kg減っていました。

田村:すごい。減りましたね

Vさん:はい(笑顔)

田村:どうされたんですか?

Vさん:管理栄養士さんに言われたように、家でゲームをしていてお腹が空いたタイミングで運動をやっていました。そして3回の食事だけきちんと食べていました

田村:そうですか。お腹が空いたら運動?

Vさん:はい。そこですぐに食べないで動いて気をまぎらわせて、時間になったら食事はきちんと食べるようにしてみたら、間食をしなくなりました

田村:それ、いいアイデアですね。3kg増えた体重が2kg減って、HbA1cも前回よりはやや下がって7.5%でした。この調子で頑張りましょうね

Vさん:よかった、数値に出るとうれしいですね

田村:ところでお仕事はいかがですか?

Vさん:それがなかなかないのですが、夜間の警備の仕事を見つけたので、面接を受けてみようかと……

田村:そうですか。昼夜逆転になりますが、大丈夫ですか?

Vさん:もともとゲームをやっていると夜遅くまで起きていて午前中は寝ていたりしていたので、そこは大丈夫だと思います

田村:確かに患者さんでも夜勤の方が結構いらっしゃいますね。まだお若いのでいろいろとやってみるのもいいですね

Vさん:それ以前にこうやっていつまでも遊んでばかりもいられないので

田村:そうですね。コロナ禍で大変な時代ですが、お仕事があるだけまだいいと思わないといけないですね

病態改善で仕事も性格も前向きに

そして翌月は予約が入っていましたが、都合が悪くて来られなかった>Vさん。2ヵ月ぶりに朝一番でやって来た際には、制服らしき服装でした。

田村:こんにちは。あら、お仕事を始められたんですか?

Vさん:はい。この前話していた夜間の警備の仕事です

田村:お仕事はいかがですか?

Vさん:はい。思ったより待遇もよく、1週間に2日は連休をもらえるし、夜勤が明けて2連休なんで実質3日休みみたいな感じです

田村:そうですか? 生活サイクルはいかがですか?

Vさん:慣れるまで大変かなと思いましたが大丈夫でした。むしろ、夜中、見回り以外は眠くなったら運動のアプリを見ながら運動をちょっとやって眠気を覚ましています(苦笑)

田村:それは一石二鳥ですね

Vさんは働きだしてから体重がさらに2~3kg減り、HbA1cも71%まで下がって目標だった6%台が目前となりました。何より仕事にも前向きになり性格も以前より明るくなったようです。会話も朗らかになり、とてもうれしく感じる事例でした。

何かにトライしてうまくいきだすと、いろいろな面で好転する。Vさん以外にもこのような事例がよくあります。
もし悪循環に陥っていたら、何か好転するきっかけのようなものを一緒に見つけられるといいなと思っています。(『ヘルスケア・レストラン』2022年6月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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