栄養士が知っておくべき薬の知識
第130回
COVID-19の治療薬について
その種類と機序を知りましょう

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大がまだ予断を許さない状況です。そこで今回は、COVID-19の治療薬として発売されている薬について解説します。

COVID-19について

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大がまだ予断を許さない状況です。インフルエンザウイルスの治療薬は、タミフル®をはじめ吸入薬や注射薬も発売されていて、一定の効果が得られています。COVID-19の治療薬もいくつか発売されるようになってきています。これが広く使われるようになれば、感染力が強く病原性の高いCOVID-19に図らずも罹患してしまった場合も安心できるようになると思います。

ウイルスが細菌と異なっているのは、ウイルスは自分で蛋白を合成できないため、必ず生体の一部に入り込んで増殖するという性質をもつ点です。新型コロナウイルスは、喉の痛みや肺炎などを起こしますが、そういった部位にウイルスが吸着したあとに細胞内にウイルスが侵入し、ウイルスを合成・増殖していきます。
その後、ウイルスは細胞外に飛び出して、さらにほかの細胞に吸着、侵入といった増殖過程をとります。
ウイルスは正常な細胞に侵入し増殖するので、治療薬をつくるのは難しいと言えます。治療薬によって正常な細胞も傷つけてしまう可能性が考えられるためです。抗ウイルス薬はウイルスが増殖する過程を阻害したり、増殖して外に飛び出していく部分に作用したりして、それ以上ウイルスを増やさないといった作用をもつものが開発されています。これは細菌感染症に用いられる抗菌薬などのように細菌そのものを壊してしまうといった発想とは異なるものです。これまでヘルペスやエイズ、サイトメガロ、肝炎ウイルスなどの治療薬が開発されています。

抗ウイルス薬などの対象と投薬開始のタイミング

COVID-19では、発症後数日でウイルスの増殖が起こります。発症して7日前後経つと生体免疫反応によって侵入した部位に炎症反応が生じてしまいます。したがって発症早期であればウイルスを増殖させないか、中和させてしまうような抗ウイルス薬が有効です。
炎症反応によって生体が傷ついてしまった場合には抗ウイルス薬はほぼ無効で、炎症を抑えるよう薬を使ったり、生体を維持するといった治療が行われます。後者では、酸素投与や肺機能を保つために人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ExtraCorporeal Membrane Oxygenation:ECMO)といった特殊な機械を使って肺機能の改善を期待する治療を行います。
世界的に問題になっているCOVID-19ですので、精力的に抗ウイルス薬の開発が行われています。しかし通常、新薬の開発は10年単位で行われます。したがって短期間で開発はしたけれども、多くの人に使えるほど薬が製造できなかったり、妊婦を含めてさまざまな対象に使うことには問題があるといったことも考えられます。

COVID-19「軽症例」の治療薬

COVID-19の治療薬は軽症かどうかによって使い分けられます。「軽症」とは、症状が咳くらいで呼吸困難のない状態です。指先に付けて酸素飽和度を測るパルスオキシメーターで96%以上に相当します。病状が進んだ中等症Iは、呼吸困難とともに肺炎所見があり、酸素飽和度が93~96%。中等症IIは、酸素投与が必要なほどの呼吸不全があって酸素飽和度が93%以下。重症では、ICUへの入室が必要で、人工呼吸器が必要な状態を言います。
軽症例に用いるため開発されたばかりの薬は、十分量が製造できているという状況ではありません。そこで、今は軽症だけれども重症化してしまう可能性のある思者さんが投与対象となっています。
薬によって少しずつ条件が異なりますが、重症化リスクの高い方として、65歳以上、がん、慢性閉塞性肺疾患、心疾患、腎疾患、糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満(BMI30kg/㎡以上)、喫煙歴、免疫不全、妊娠後期などが挙げられています。

現在、軽症例に使用できる抗ウイルス薬として、モルヌピラビル(ラゲブリオ®)、ニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッド®パック)があります。これらの薬は、いずれもウイルスの増殖を阻止する経口薬です。経口薬であればさまざまな医療施設で使用できる可能性があり、大きなメリットと考えられます。ラゲブリオ®は症状発現から5日以内に投与した場合、重症化防止が約半数の症例で得られたことが報告されています。ただし、ワクチンを接種した患者のデータは得られていません。パキロビッド®パックは2つの成分を含有しており、リトナビルは抗ウイルス作用を長もちさせるために加えられています。この薬も発症後5日以内に投与を開始します。パキロビッド®パックの注意点として、ほかの薬との飲み合わせが問題になるということです。肝臓の代謝酵素を阻害する作用があるため、この薬を使う時には併用している薬がないかを必ず確認します。また腎機能障害例では減量も必要です。

次に紹介するのはウイルスを中和させる作用をもつ薬です。カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ™)とソトロビマブ(ゼビュディ)です。ロナプリーブ™は新型コロナウイルスを中和する2種類の抗体を含む注射薬です。症状発現から7日以内に投与を開始します。この薬の投与群では、入院または死亡例を有意に低下させたことが明らかになっています。また感染症の発症抑制効果もあるため、濃厚接触者や無症状でもウイルス感染のあった方で前述した重症化リスク因子のある方には、点滴静注または皮下注射で使うこともできます。ただし、オミクロン株への有効性は減弱している可能性のあることが報告されています。ゼビュディも中和抗体薬で、1回の点滴静注を行います。この薬も症状発現から5日以内に投与します。ゼビュディはオミクロン株にも有効と考えられています。これらの4種類の薬は、まだ流通量が十分でないため、一部の医療機関や入院患者のみが使用対象となっていたりします。今後、十分量が確保できれば、こういった「縛り」は解除となるかもしれません。また次々と新型コロナウイルスの亜型が流行するため、それらに対しても有効であるかは注意しなければならないと思います。

最後に紹介するのはレムデシビル(ベクルリー®)です。最初に登場したCOVID-19の治療薬です。もともとは中等症から重症の患者に使われていた注射薬です。生存率の改善とまではいかないものの、臨床的改善が得られる抗ウイルス薬です。また最近になって、発症7日以内の軽症・中等症Iの患者にベクルリー®を3日間投与して入院や死亡を減少させたことが明らかとなり、軽症例にも使われるようになってきました。ベクルリー®については、一般に流通するようになってきています。
今回、紹介した薬以外にも多くの製薬メーカーがしのぎを削って抗ウイルス薬の開発に取り組んでいて治験が行われています。

おわりに

今回はCOVID-19の治療薬を取りあげました。最初に述べたようにまだ流通量が十分でなく、現状では誰もがどこでも使える状況にはありません。また、症状発現から日が経ってしまった場合や重症化例での効果はまだ十分ではありません。ワクチン接種をはじめ、正しくマスクを着用することや十分な換気、手指消毒といった日常の感染対策はまだ手を抜けない状況に変わりないところです。(『ヘルスケア・レストラン』2022年6月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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