“その人らしさ”を支える特養でのケア
第53回
楽しみだけにとどまらない
自立支援としてのレクリエーション

定期的に行われるレクリエーションで、食に関連するものは”楽しみの場”として実施されることがほとんどです。しかし、多職種で連携しながらイベントを企画していると、レクリエーションには楽しみだけにとどまらない意義があることに気づきます。

理学療法士の発案による「ラーメンを食べる会」

当施設では、管理栄養士、機能訓練指導員、歯科衛生士が1つの執務室を共有しています。先般の介護報酬改定ではこの3職種の連携についても言及されていますが、当施設ではその前から同じ執務室にいましたので、ご利用者の状況や評価内容についての情報共有は「いつものこと」となっています。
また専門職といえども、一人のスタッフとしてご利用者にかかわる場面も多いため、自分の領域を超えた情報をご利用者から得ることがあります。そんな場合でもほかの専門職へのバトンタッチがスムーズです。

「Aさんがマンプクラーメン(仮名)を食べたいって言ってるけど、どうかな」
機能訓練を終えて執務室に戻った理学療法士からこんな相談を受けました。
マンプクラーメンは市内の老舗ラーメン屋さんで、行列のできる人気店。地元住民なら1回くらいは食べたことがある、なじみのお店です。
「最近は店頭に自動販売機が置かれ、冷凍のマンプクラーメンが買えるんだよね」と理学療法士が続けます。コロナ禍以前は少人数で外食ツアーに出かけることもありましたが、現状では困難です。そこで、冷凍のラーメンを買って施設内で調理したらどうか、という理学療法士からの提案でした。
その日の執務室では、Aさんと同じような身体状況のご利用者も誘って「ラーメンを食べる会」を開催するアイデアがあっという間に出来上がりました。ケアマネジャーに話すと二つ返事で了承してくれて、具体的な企画立案に入りました。

自動販売機の商品は価格が予算と合わず断念。でも近くのスーパーでマンプクラーメンブランドの生麺とスープが購入できるため、それを利用することになりました。麺のほか、チャーシューやワンタン、ばらノリ、味付け卵などの具、調理器具などの準備を行います。ラーメンの具に関してはマンプクラーメンの名物をイメージして選択します。職員それぞれがマンプクラーメンの楽しみ方にこだわりがあり、楽しい企画ミーティングとなりました。

当日はレクリエーションなどを行うホールに机を並べ、メニュー表や割りばしを準備(写真1)。調理は管理栄養士が中心となって、ホールに一番近いユニットのキッチンで行いました。
集まったご利用者と職員が同じテーブルを囲んでの会食は和気あいあいと進み、次回のリクエストもいただいて(かつ丼と焼き肉!今から頭を悩ませています)皆、満腹で終了しました(写真2)。

写真1 「ラーメンを食べる会」で使用した割りばし

写真2 ラーメンを楽しむ利用者

レクリエーションは意思決定を促す自立支援

読者の皆さんの施設では外食やユニットでの調理レクリエーションなどの際、どのようにされていますか?
食べることがかかわるレクリエーションは食形態や栄養成分、経費など考慮する内容が多岐にわたると思います。

今回のレクリエーションでは、予算は1人約500円。これは当施設の昼食料金に準じています。また、食形態については常食の方を中心にピックアップしましたので、麺を短くしたり具を一口大にしたりと手元でできる軽微な加工のみで、大きな混乱はありませんでした。また調理器具や食器については、ユニットで調理ができるようそれぞれに用意がある物品を使用しました。
栄養成分については「今日は特別!」と割り切ってしまっています。当施設では嘱託医と頻繁に食事内容の相談ができる体制となっており、日頃から「塩分制限があるけどたまにならいい」と許可がある方のみ参加していただきました。

当施設の理学療法士(「ラーメンを食べる会」の言い出しっぺです)からの受け売りですが、「今回のレクリエーションは機能訓練面で大きな効果がある」と言います。レクリエーションに参加することで、人とかかわる刺激や楽しみが形成され、その人らしく生きていくための生きがいや居場所づくりに発展していきます。「楽しむことに参加するのは機能訓練の本質だよね!」と理学療法士。また、麺や具を食べやすく切ったり、スープを冷まして食べやすくしたして、環境を整えられればその人ができることを増やせるのだそうです。

特養は「終の棲家」としての認識が大きいかもしれませんが、自立支援を行う施設でもあります。ADLの自立が困難な場合でも、ご利用者自身が意思決定を行うということは自立の1つです。「ラーメンを食べる会に参加するかどうか」からスタートしたご利用者の意思決定は、「誰と食べるのか」「どの具を選ぶのか」と続いていきます(写真3)。

食がかかわるレクリエーションは楽しみの提供に意識が向きがちですが、こうしてみると楽しい行動の裏に重要な意義があるのだと気が付きます。管理栄養士の視点から見ると、環境が変わることや仲のいい人と食べること、食べたい物が目の前にあることで食欲増進につながる効果が期待できますよね。また、和やかな雰囲気のなかでポロリとこぼれた一言にご利用者の本音を垣間見ることができ、今後の支援につながっていくように感じます。

写真3 利用者がラーメンにトッピングする具を選ぶ様子

次回のレクリエーションに向けて

さて、無事に終了した「ラーメンを食べる会」。いつもの執務室で理学療法士とプチ反省会を行っていると、次の支援につながる会話へと発展しました。食欲不振のご利用者の活動量を維持または増加させることで空腹感を増やそう、という内容です。特養のご利用者は身体活動が困難な方が多く、座っているだけより軽作業をしたほうが、黙っているより話したり笑ったりするほうが活動量が多いと聞き、小さなことの積み重ねが大切なのだと感じました。最近は栄養ケアのプランに「活動量を維持し食欲を刺激する」の項目が追加されています。

レクリエーションは自立支援の一環ととらえ、私もできるだけ参加するようにしています。自宅に戻るのが困難なケースが多い特養だからこそ、あたたかい居場所づくりに役立てたいと感じたイベントでした。(『ヘルスケア・レストラン』2022年5月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る

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