栄養指導で”あるある!こんなこと”
第106回
細かい数字が気になる糖尿病患者の娘
励ましと納得のいく説明が
食事療法の継続につながる

Uさんは80代後半の男性です。糖尿病の悪化でいったん入院されて、その後当院でフォローアップとなった患者さんです。初回栄養指導時にはUさんの娘さん2人が来院されました。

体重が増えても大丈夫?

クリニックの院長からの栄養指導依頼書に「本人は車いすのため指導時には来院できないことがあり、家族への指導をお願いします」と書かれていました。クリニックで初回検査した際の血糖値は279mg/dl、HbA1cは9.1%(これでも入院治療で下がった値のようです)、身長は約160cm、体重は44kgと記載されていました。栄養指導は予約制で対応しているため、初回栄養指導時には娘さん2人が来院されました。

田村:お父様は甘い物がお好きなんですね

娘A:そうです。よく食べます。今回は急に体重が減って来て、おかしいと思ったら血糖値がすごく悪くなっていて腰痛もあって入院になりました

田村:入院していた病院で栄養指導などは?

娘A:退院前に簡単な留意点のような指導だけでした

田村:わかりました。では糖尿病について、検査結果や食事の基本などお話しします

娘B:管理栄養士さん、糖尿病の本を少し読んでみているんです。糖質って1日何グラムまではいいんですかね?

田村:なかなかグラムでお話しても難しいので、あまり厳密なお話は避けているんですが、ちなみに糖質と炭水化物、ほぼほぼ同じです。炭水化物の中には糖質と食物繊維が含まれています。またいろいろな食べ物全般に糖質は多少含まれます。食事で気にしてほしいのは糖質を多く含む私たちの主食です。あとは、甘い飲み物や甘い食べ物となります

娘B:糖尿病なのでそこを注意するのは理解できたんですが、おおよそ糖質はどのくらいとっていいものなのかと思って

田村:確かに気になりますね。お父様の1回のご飯の量、130gで糖質は約48gほど含まれています。お父様の1日の指示エネルギー1400kcalの約50%ほどは糖質でとりたいので、1日175g~180gはとっても大丈夫なんですが、180gとしてご飯1日3回分をひくと残りは31gほど、先ほどお話したようにいろいろな食品に糖質は含まれていますので、おかずを食べたりすると丁度よい感じになりますね

娘B:すると、間食などはやっぱり難しいですかね

田村:そうですね。純粋に糖質だけ考えると難しいですが、決してダメではないのと、お父様の楽しみもあるので、いろいろ工夫していきましょう。そのあたりも今からお話ししますね

娘B:よろしくお願いします

田村:エネルギーと糖質のバランスは難しいですね。あまり細かく考えると行き詰ってしまうので、私も細かな話はしないようにしていますが、数字で知りたいこともありますよね

娘B:何がなんだか混乱してきちゃって

田村:まずは、主食の量、野菜の摂取、食べる順番をしっかり見ていてください。あと間食ですが、たまにはお好きな甘い物もOKです。ただたくさんではなく量を決めて、あまり続けないようにしましょう。人工甘味料などを上手に使ってゼリーをつくっておやつにするなどはよいと思います

娘B:本にも書いてあったので、この前、砂糖の代わりを買ってみました

田村:あと体重ですが、ちょっと身体が細めですね。以前からですか?

娘A:もともと太ってはいないほうでしたが、今回の血糖値の悪化と腰痛で半年ぐらいで5~6kgはやせたかな?

田村:確かにもともと細めのようですね。でも急にやせてしまうのはよくないので、血糖値のほうはしっかりコントロールしつつ、体重は少戻せるといいですかね

娘A:少し太ってもいいんですか?

田村:今の体重だと少し身体が細すぎるのと、急にやせてしまったので、その分くらいは戻せていけたらと思います。糖尿病があるので、確かに体重が増えるのはよくないイメージですが

娘A:よろしくお願いします。(娘Bに向かって)よかったね、具体的にいろいろ聞けて

田村:まずは基本のところを次回までにやってみてください。で、次回ですが、何回にもなると大変なのでお父様の受診の週に合わせていきましょう

娘のサポートで順調に改善

初回はこのようなやりとりをし終了しました。翌月は車いすのお父様と3人で来院されました。食事の様子を確認すると……。

田村:さん、食事のほうはいかがですか?

Uさん:少しお腹は空くけど何とか……

田村:そうですか?お腹が空いてつらい感じですか?

Uさん:そこまでではないかな

娘A:必ず10時と3時には何か出しておかないとダメみたいで、前は私が仕事に行く時に用意して置いていて、それで間食の癖がついてしまって食べ過ぎちゃったようで……

田村:お仕事の時は全部用意されていくんですか?

娘B:そうですね。今は私がほとんど自宅で仕事をしながら父を見ているんですが、外に出ることもあるので、その時はお昼やおやつを置いていくなどですね

田村:お仕事と両方で大変ですね

娘A:そうなんです、よくやってくれていて。なので余計に今回は責任感じちゃって

田村:そうでしたか。でも大丈夫です、数値、よくなってきていますよ。血糖値が179mg/dlでHbA1cは9.1%から8.9%になりました。頑張りましたね

Uさん:よかった

田村:少しお腹が空く感じはあるようですが、今の食事の感じを頑張って続けてみてください

娘B:8.9%……

田村:すごく頑張ったようですが、ここの数値は少し遅れて出て来ます。お父様の年齢もあるので、ゆっくり改善する感じです。気持ちとしてはもっと下がっていると期待しちゃいますが

娘B:わかりました

田村:大丈夫です、この調子でお願いします。ところでお野菜などはとれてますかね?

Uさん:歯がいまいちだけど前よりは出されるから食べているよ

田村:食べる順番は?

娘B:ご飯出しちゃうと先に食べてしまうので、最初に煮物とかスープとかを出してそれからほかのおかずとご飯を出すようにしてます

田村:それはいいですね

Uさんは娘さん2人の献身的な介護もあり、食事の食べ方にも慣れ、体重は44kgから4ヵ月で2kg増加し46kgに、血糖値は100mg/dl台前半、HbA1cは9.1%から8.2%になってきています。普段の栄養指導では主食の量以外あまり細かな数字を出してお話ししませんが、このように思者さん側から聞かれることも多々あります。特に本などで調べたりネット検索をされている方は数字を気にするようですが、栄養指導ではできるだけ実践可能で現実的なお話を心がけています。(『ヘルスケア・レストラン』2022年5月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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