栄養士が知っておくべき薬の知識
第129回
栄養管理が重要な
肝性脳症の治療薬について

今回は栄養管理が治療の重要なポイントになる肝硬変に伴う肝性脳症の治療薬を紹介します。病態を理解し、適切な栄養管理につなげましょう。

肝硬変の重症度

肝硬変の重症度は、Child-Pughで分類されます。その項目には、肝臓で合成されるアルブミンやプロトロンビンなどの合成低下を示し低値をとること、肝臓で処理されるべきビリルビンが高値になること、また毒性をもつアンモニアが蓄積して生じる脳症の程度、腹水の程度によって示されます。
アルブミンは栄養状態の指標として汎用されますが、肝疾患の場合は合成能が低下しているため、栄養状態の指標としては正確性に欠けることになります。

肝性脳症の原因と症状

脳症を起こす疾患にウェルニッケ脳症や糖尿病昏睡などがありますが、肝性脳症の原因は、主に血中にアンモニアが蓄積してアンモニアの神経毒によって脳症が生じます。
このほかの原因としては便秘や感染、消化管出血、低血糖、利尿薬の使い過ぎによる低カリウム血症などによっても生じます。肝性脳症の症状は、ナンバー・コネクション・テストと言って、1からいくつかの数字を書いてそれを順に結ぶという簡単なテストで診断できます。
時間がかかったり、手が震えてうまく線がつながらなかったりすることでわかります。

肝性脳症の重症度は、軽度では「だらしがなくなった」程度ですが、それ以上になると異常行動が目立つようになり、傾眠傾向も出現します。さらに脳症が悪化するとほとんど眠っているとか、指示に従えなくなってきます。
肝性脳症はこのように人格変化、意識障害、神経筋活動の変化をもたらし、患者QOLは大きく低下してしまいます。

肝性脳症時の栄養療法

アンモニアは栄養素のうちでも、唯一窒素を有するたんぱく質の産物です。
低アルブミン血症となっている肝硬変の患者さんではたんぱく質投与が必要と考えられますが、過剰なたんぱく質投与は脳症の原因にもなるため、栄養管理上のジレンマがあります。
以前には、肝性脳症時はたんぱく質制限を行ったほうがよいとされた時期もありましたが、これでは骨格筋肉が減少するサルコペニアの原因にもなるため、現在ではヨーロッパの栄養ガイドラインなどでも過剰な投与でなければ、たんぱく質制限は推奨されていません。

肝硬変ではたんぱく質の質も大事です。アンモニアを処理するには肝臓の尿素回路でアンモニアを尿素に変えなければなりませんが、その機能が低下しているため、過剰となったアンモニアをどこかで処理しなければなりません。その処理は主に骨格筋などで行われ、その際にBCAAが消費されます。
肝機能の悪化の目安にFischer比が使われますが、芳香族アミノ酸は肝臓で代謝を受けるため蓄積してきます。芳香族アミノ酸とBCAAの比をFischer比といいます。
分母が芳香族アミノ酸のため、肝硬変患者のFischer比は低下してきます。また、Fischer比よりも簡便な指標として、BTR検査があります。
これらの検査で肝硬変患者の身体内のアミノ酸バランスを考慮したんぱく質投与を行います。

現在、BCAAを含む医薬品には、BCAA顆粒(リーバクト®)と肝不全用経腸栄養剤(アミノレバン®ENとへパンED®)があります。
肝不全用経腸栄養剤は、主に肝性脳症の覚醒後やその既往のある方に用います。
それぞれ1日600kcal前後となりますので、その分、エネルギー制限などの管理が必要です。肝硬変患者さんが肥満になると、肝がんが生じやすくなることが明らかとなっているためです。また、BCAA顆粒は、食事摂取が十分でも低アルブミン血症を示す方に用います。

肝性脳症の治療薬

肝性脳症の治療薬には、まずラクツロースやラクチトールなどの合成二糖類を用います。これらは身体内で分解されないため、その浸透圧で便秘を改善します。便秘になると便中のアンモニアが身体内に吸収されてしまうためです。
また、これらの薬は腸内を酸性に傾けてアンモニアの身体内への吸収を妨げます。脳症がひどい場合は浣腸として投与する場合もあります。

亜鉛やカルニチンの必要性

前述したとおり、肝臓には尿素回路があり、アンモニアを尿素に変換して無毒化する経路を有します。この経路には多くのエネルギーを要しますが、尿素回路を適切に回すには、オルニチントランスカルバミラーゼという酵素を活性化する必要があります。その際に必要なのが亜鉛です。
一方で、肝硬変患者は低アルブミン血症となっている場合が多く、亜鉛の尿中への排泄が増加し低亜鉛血症となっている場合も多くみられます。合成二糖類を投与しても脳症が改善しないという場合は亜鉛投与を考慮します。また、尿素回路を回すためには脂肪酸代謝によって得られるN-アセチルグルタミン酸が必要になります。脂肪酸も適切に燃焼する必要があるため、症例によっては脂肪代謝に必要なカルニチン投与が有効な場合もあります。

難吸収性抗菌剤

最近になって抗菌剤であるリファキシミン(リフキシマ®)という薬が、肝性脳症における高アンモニア血症の改善という適応で用いられています。
リファキシミンは、身体内にほとんど吸収されないため腸管内の掃除をするといった抗菌剤になります。

肝性脳症は、腸管内のアンモニアを抑えることが必要になります。腸管内にはウレアーゼ産生菌といって、尿素を加水分解してアンモニアと二酸化炭素をつくり出す酵素をもつ細菌があります。
胃潰瘍を起こすヘリコバクターピロリ菌やプロテウス、クレブシエラ、バクテロイドなどですが、これらの細菌が糞便中に増えることで高アンモニア血症を生じ、肝性脳症の原因になります。

リファキシミンは肝性脳症用に開発された唯一の抗菌剤ですが、アンモニアを産生する腸内細菌に作用してアンモニア低下作用とともに細菌の出す毒素であるエンドトキシンも低下させる作用を有します。
肝性脳症の原因となるエンドトキシンを不活化することも大切で、生体内でその作用を最も有するのがアルブミンですので、アルブミンが低下しないような栄養管理が求められます。

おわりに

肝硬変の患者さんでは、太らせないことが大切ですが、同時に炭水化物をグリコーゲンとして蓄える機能も低下しているため低血糖も生じます。
このためLES(Late Evening Snack)として夜食をとってもらったり、食事回数を増やしたりすることも行われています。

BCAA製剤を病期に応じて上手に使うことも大切ですし、なによりこのような食事管理の重要性を患者さんが理解し、継続してもらうことが大切になります。肝硬変は、管理栄養士さんの出番の多い疾患だと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2022年5月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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