栄養士が知っておくべき薬の知識
第127回
集中治療病棟で使われる薬について

今回は、栄養治療に関連があると思われる集中治療病棟で汎用される薬について述べたいと思います。

はじめに

管理栄養士が集中治療病棟に配置され診療報酬が得られることになって2年が経過しようとしています。これは重症の患者さんにおいても、栄養状態を評価して、早期経腸栄養投与を念頭においた適切な栄養管理を行うことで、感染症などの合併症を起こすことなく、患者さんの回復が早く得られるとの認識によるものだと思います。

管理栄養士を集中治療病棟に配置するための条件はいろいろありますが、マンパワーを考えると人員配置は難しいでしょう。しかし、診療報酬という経済的な裏付けが得られたことは、それだけ栄養管理の重要性が認識されたという点で、とても意義深いものだと思います。一方、管理栄養士にとっては、集中治療の現場においてさまざまな混乱もあると思います。

集中治療病棟における栄養管理方法

集中治療の栄養ガイドラインは、ESPENやA.S.P.E.Nをはじめ、本邦では日本臨床栄養代謝学会の静脈経腸栄養ガイドライン第3版で重症病態として、また日本集中治療医学会は日本版重症患者の栄養療法ガイドラインとして発刊されています。集中治療病棟に収容される患者さんは、意識状態が悪いことや嚥下機能自体が障害されていたりするため食事は難しく、経腸栄養や栄養といった強制栄養が行われている場合がほとんどです。

集中治療で使われることの多い鎮静剤であるプロポフォールは1.0ml当たり約0.1gの脂質を含有している立派な脂肪乳です。ディプリバン®は長鎖脂肪酸が、プロポフォールには市販の脂乳には混合されていない中鎖脂肪酸が、長鎖脂肪酸とともに量含有されています。どちらも100ml投与すれば100kcal程度の熱量を得ることができます。これらの鎮静剤は、時間ごとに与度や量が異なることもあり、総投与量の計算は煩雑ですが、ぜひ投与熱量に加えていただけたらと思います。このほか、鎮静剤にはベンゾジアゼピン系という睡眠導入剤の仲間であるミダゾラムやせん妄が少ないといったメリットがあるとされるデクスメデトミジンなどがあります。またEGDTといって、敗血症性ショックを起こした患者さんに対して、より早期循環動態を改善させるプログラムが使われます。その際、乳酸濃度が大切になります。これは管理栄養士にとっても馴染みのあるマーカーだと思います。組織の虚血や薬剤使用などによって糖質の嫌気的代謝物である乳酸濃度の増加での死亡率が高いことがわかっています。

【昇圧剤】

SSCGという敗血症のガイドラインがあります。前述したEGDTをめざすために、どういったことをしなければならないのか、あるいはどういった薬剤使用がよいのか、といったことが書かれたガイドラインです。ショック状態の患者さんには、ただ1つのことを行っていれば病態が改善するわけではないので、バンドル(=束ねる)と呼んで、いくつかの医療行為が同時に行われます。その1つに、昇圧剤の投与があります。ショック時は、循環血漿量が減少して血圧が低下します。血圧の低下は、組織の維持に多くの血液を必要とする肝臓や腎臓、脳や筋肉に障害を起こします。血圧測定を行って、拡張期血圧+脈圧(収縮期血圧-拡張期血圧)÷3で求められる平均血圧を65mmHg以上に保つことが推奨されています。昇圧剤として、以前はDOA+DOBといったドパミンとドブタミンが用いられました。しかしノルエピネフリンという同じカテコラミン製剤を使ったほうが血圧もコントロールできるうえに不整脈発生が少ないことが明らかとなり、近年ではノルエピネフリンが使われます。食物アレルギーのショック時に用いられるエピネフリンは同じカテコラミンですが、心臓への負担が大きいため持続投与には向きません。
このほか、症例によってミルリノンやバソプレシンが併用されます。これらのカテコラミンを大量投与しないと血圧が維持できない重症時では、脳などの大切な臓器の血流を増加させるため腸管血流は減少しています。経腸栄養剤を投与して腸管血流が増えることは、ショック状態から立ち直れないばかりか、血管攣縮(れんしゅく)によって腸管が壊死する恐れもあるため、腸管栄養は難しい状態もあります。カテコラミンが一定量以下で血圧コントロールが可能であれば経腸栄養剤の投与が可能など、施設ごとに経腸栄養投与可否の基準も決められていると思います。またこれらの昇圧剤は時間ごとに投与量の設定変更が必要になるため、集中治療領域では多くのルート管理が必要になります。

【腸管蠕動亢進剤】

腸管血流が維持できていてなお腸管蠕動が弱い場合、経腸栄養剤が胃内に停滞してしまいます。それ自体で経腸栄養剤の投与を控えることは推奨されていませんが、少しでも腸の蠕動を亢進させるために注射薬ではバントール®のほか、メトクロブラミドやエリスロマイシン、モサプリド、漢方薬の六君子湯(りっくんしとう)が使われます。これも施設ごとに使い慣れた方法が用いられます。

【ストレス予防】

敗血症の患者さんは目には見えないストレスがあるため胃酸分泌抑制剤が使われます。ファモチジンなどのH2拮抗剤やオメプラゾン®、ランソプラゾールといったプロトンポンプ阻害剤です。いずれも注射剤が発売されています。胃酸分抑制剤は胃内pHを上昇させるため、人工呼吸器関連肺炎の増加には注意します。

栄養管理への影響は、比較的長期投与となった場合に、腸管のクロストリディオイデス・ディフィシル(CD)が優勢となって重度の下痢を起こすことがあります。しかし集中治療病棟にいる限られた期間で、これが起こるかどうかは難しいところです。むしろCDは抗菌剤の使用による影響が大きいと思います。ただし、経腸栄養剤の投与速度や浸透圧によっても下痢を起こすため、下痢の原因について意見が求められるかもしれません。

【抗凝固療法】

敗血症は、さまざまなサイトカインが血液中に流入するため、血液を凝固する方向に傾くことからヘパリンやトロンボモジュリンといった抗凝固薬が使われます。これらはワルファリンカリウムと違って、ビタミンK量への配慮は必要ありません。また一律にこれらの薬を使うことは推奨されていませんが、D-ダイマーやFDPといった血液凝固後に線溶され、溶け出した成分が多くなっていれば、血液凝固が起こっている証拠であるため、抗凝固薬が使われます。また、患者さんは寝たきりの状態であることも多く、深部静脈血栓症を起こしかねません。いわゆるエコノミークラス症候群です。このために抗凝固薬が使われる場合もあります。

おわりに

集中治療病棟以外でも、敗血症を疑うツールにq-SOFAがあります。呼吸数が22/分以上の増加や精神状態変化、収縮期血圧100以下であれば、一般病棟であっても緊急病態とするもので、一般病棟勤務の管理栄養士にとっても必須のスコアです。集中治療病棟には、さまざまな病態の患者さんが収容され、また時間との闘いもあって大変な診療を迫られることもあります。皆さんで支え合って、管理栄養士が救命病棟にいることが当たり前になってくれたらと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2022年3月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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