“その人らしさ”を支える特養でのケア
第51回
栄養課におけるBCP策定の考え方

令和3年度介護報酬改定にて、感染症や災害のような非常時においても業務継続をめざした取り組みの強化が求められました。これにより、事業継続計画(BCP)の策定および研修・訓練が義務づけられました。そこで、今号では栄養課内におけるBCPをどのように策定するのか、考えたいと思います。

大雪の日の朝のこと……

休み明けの朝一番の業務は栄養課内の情報共有です。
現在、管理栄養士2人(私とMさん)で業務を行っており、お互い不在中の出来事について申し送りを行います。
ある日のこと、Mさんから「大雪で道路除雪が間に合っていなく早番の調理師(厨房職員)が遅刻した。提供時間は遅くなったが、献立とおり朝食を提供できた」という報告がありました。

早速脱線しますが、当施設がある新潟県妙高市は県内でも屈指の豪雪地帯です。冬は雪が降ることが当たり前で「大雪」のニュースで取り上げられることもよくあります。
長く雪国で生活していると、雪の予報の有無で通勤の時間を長めに見積もるなど、天気予報を確認しながら自分の行動を臨機応変に変更することが習慣になっています。また、道路の除雪についても通勤に支障がないように業者の方が深夜も作業してくださっていて、本当に頭が下がります。しかし、集中的な降雪があると除雪が間に合わず、それによる交通障害が発生し今回のように、「早番の調理師が遅刻した」という状況になってしまうこともあります。

冒頭で紹介した報告には続きがありました。「『除雪をもう少し早い時間に実施する』ように行政にかけ合ってほしい」という希望があったのです。管理栄養士の範疇では決められないことだったので一旦保留にして事務部門と相談し、頻回にあるなら申し入れすることになりました。しかし、降雪は自然現象ですので行政に申し入れしたとしても、今回と同様の状況が起こることも想定されます。雪は毎年のことだから……と思っていましたが、通常の対策を講じていても通勤できない場合は、施設側の備えも必要であると感じました。

さまざまな事象で業務継続方法を検討する

栄養課の視点で「災害対策」と考えると、まず思い浮かぶのは非常食・備蓄食です。
当施設は30人分3日間の食事の備蓄を行っていますが、それを使用するための訓練や施設内のマニュアルなどの整備はまだまだ不足していると感じています。災害発生のニュースを耳にするたび、自施設が被災した場合を想像して、現状の対策ではまったく役に立たないだろう、という結論になるのですが、目先の業務に追われ災害対策には着手できていないというのが実情です。
一方で、令和3年度介護報酬改定では施設全体の取り組みとして、感染症や災害への対応を強化するよう改定されました。介護サービスを継続させるため業務継続計画(以下、BCP)の作成も求められており、厚生労働省から「介護施設・事業所における業務継続計画ガイドライン」が提示されています。施設全体で取り組む内容であるため、その役割の一部を管理栄養士も担わなければならないと感じています。

以前、BCPの作成にかかわったことがあります。2016年に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいた予防接種登録の呼びかけがあり、その登録にBCPの策定が条件として挙げられていたこと、また、当時私が感染対策委員会に所属していたことがきっかけでした。
災害時と感染症流行時の対応は異なりますが、概要をまとめると、介護施設のBCPは「介護サービスの継続」が目的となっていますので、介護サービスのうち、欠員人数に応じて業務をそぎ落とし、最低限行わなければいけないこと(食事、排泄、清潔保持)に絞って業務を行うための基準と考えられます。
このことを給食に展開してみます。個人的には、最低限の業務か拡大したほうが考えやすいので、前述の説明とは逆向きに進めます。なお、あくまで私見であることを申し添えます。
給食で最低限必要なことは、「食べられる物を提供する」ことです。
ライフラインの使用もできないような時は非常食を使用し、非加熱の状態で提供せざるを得ない場合もあります。この場合、冷たいおかゆや缶に入ったままの惣菜でも空腹よりいいか、という状況かと思います。つまりこれが最低限の対応となります。
これをベースに、加温する、器に盛る、可能な範囲で調理する……などといったように、出勤可能な人数やライフラインの状況を想定して、実施業務を増やしていきます。
今回の介護報酬改定で求められているのは感染症と災害時の2種類のBCPです。それでは、給食業務の状況を想像してみます。

感染症の場合はライフラインが保たれていますので、少ない人数でどうやって食事提供と衛生管理を行うかがポイントになります。現在の新型コロナウイルス感染症感染拡大を思うと、終息の時期を想定できないことも問題となります。さらに、感染症の特徴によっては衛生管理業務の増加も想定されます。一方、災害時はライフラインの使用の有無などを含め、細かく状況の想定が必要であると感じています。また、地域住民の避難受け入れや被災状況によっては、他施設のご利用者を受け入れるなども想定されます。
どちらの場合でも配送業者等の人員不足や交通障害も想定されますので、備蓄や献立の見直しを視野に入れることも必要となるでしょう。

一つひとつのケースから確実にBCP策定へつなげる

当施設のBCP作成はこれからです。施設全体の動きを見ながら給食についても対応したいと思っています。

さて、冒頭のケースを受けて今後の大雪の日の対応はどうなったかと言いますと、遅刻した時間を軸に、主食を厨房でまとめて炊くことや朝食分の栄養補助食品の配膳を遅らせる、献立を雪害用献立に変更するなどを原案にまとめ給食委員会で検討、承認を得ました。この原案をもとに厨房と協議し詳細を決定する予定です。
この給食委員会での検討内容を議事録で目にした看護長(雪が積もらない県からの移住者)が、「栄養課版BCPだね」と声をかけてくれました。「さすがに『大雪警報が出そうなら休憩室に泊まって』って施設側からは言えないしね」と返すと、「泊まるの?雪国常識なの?」と驚く看護長に、管理栄養士Mさんが「大雪になりそうなら泊まりますよね~」とポツリ。

雪国(の昭和世代限定かも)の常識を押し付けず、対応を整備するのが令和流、と感じたエピソードでもありました。(『ヘルスケア・レストラン』2022年3月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る

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