栄養指導で”あるある!こんなこと”
第103回
コロナ禍で体重が増えた独居男性のお宅を訪問
スーパーに同行して食習慣改善へとつなぐ

今回は市内のクリニックの医師から在宅訪問栄養食事指導の依頼があった独居男性のケースです。カップ麺やレトルト食品などで済ませている食習慣改善のため、スーパーでの買い物に同行しました。

運動量の低減と食事の偏りが体重増加の原因に

在宅訪問栄養食事指導の依頼があったクリニックとは個別に契約し、非常勤管理栄養士の立場で訪問をしています。今回のSさんはこのクリニックに月1回通院しており、独居のため数回訪問をして栄養食事指導してほしいという依頼でした。Sさんは、脳梗塞の後遺症で右下肢にやや麻痺があるもののタクシーなどを利用して通院。週1~2回はタクシーまたは近所の方が付き添ってくれて買い物に行く生活をされています。
週1回のヘルパーの訪問で主に掃除や洗濯のサポートを受け、週1回のデイサービスも利用していました。食事はデイサービス時の昼食以外はスーバーの惣菜やレトルト食品、カップ麺などが多く、もともとの高血圧症に加え最近では体重増加もあり栄養指導の依頼となりました。初回訪問時はまず、生活習慣や食事内容の確認と栄養アセスメントを行います。

田村:Sさんは今、お酒を飲まないんですね。間食もたくさんしているわけではなくて、時々お煎餅程度。スティック型の少し甘いコーヒーも1日1杯。ちゃんと決めていらして素晴らしいですね

Sさん:女房は生前、よく甘い物を間食していたけど、俺はあまりそういうのは食べないかな

田村:そうですか。ところで奥さまがお亡くなりになって何年になるんですか?

Sさん:丸3年だね。最初は食事なんかもちょっと困ったけど、スーパーやコンビニもあるし、今は何とか食べることはできるね

田村:3年ですか。ご飯はご自身で炊かれますか?

Sさん:最初は米があったから炊いていたけど、やっぱり面倒になって、今はご飯も炊かないかな。1人だし炊くのは面倒だね

田村:そうですよね。お食事の内容はどんな感じですか?

Sさん:朝はパンと牛乳、昼はカップ麺かレトルトのカレー、夜は惣菜やレトルトのおかず、レンジでチンする冷凍のコロッケなんかかな

田村:そうですか。ご飯は?

Sさん:レンジでチンするレトルトのやつ。まとめて買って置くんだ。最近の商品は自分で炊くよりおいしいよ

田村:お野菜なんかはどうされていますか?

Sさん:野菜は先生からも言われるから、白菜の浅漬けとかキムチとかでなるべくとるようにはしているけど、難しいね

田村:ですよね。野菜はなかなか難しいですね

Sさん:そこは先生からも言われて気になっていたので、今回教えてもらえるといいな

田村:わかりました。最近ちょっと体重が増えていますね

Sさん:前は朝晩ゆっくり散歩していたんだけど、コロナ禍で家から出なくなったからかな

田村:そうですね。確かに家から出るのが怖いですよね

Sさん:ワクチンは接種したけど、感染して苦しむのは嫌だからな。スーパーでの買い物も週2回だったけど今は週1回。なるべく回数は減らしているかな

田村:皆さんそうおっしゃいます。食事内容は以前と比べてどうですか?

Sさん:買い物に行く回数が減っているから、野菜は前に比べると減っているな

田村:カップ麺やレトルトカレーが増えましたかね?

Sさん:そうだね(苦笑)

このような会話のなかで、半年間で5kgの体重増加、その原因として運動量の減少と食事内容の変化が考えられました。

田村:Sさん、デイサービスでは何をされているんですか?

Sさん:ゲームや食事、入浴かな

田村:リハビリなんかは?

Sさん:やっている人もいるよ

田村:もし可能なら、下肢筋力が落ちないようにリハビリを週1回でもできるといいですね。また、人混みでなければ感染しにくいので、朝晩の散歩を再開してはどうでしょう?

Sさん:大丈夫かい?

田村:大丈夫です。多人数で向かい合って食事を一緒にとるのは要ですが、外の散歩は大丈夫ですよ

Sさん:じゃ~また朝夕に散歩をするかな

田村:次回ですが、もしよかったらお買い物に同行させていただけませんか?

Sさん:一緒に買い物?

田村:はい。野菜を少しでもとれるような買い方を一緒に考えてみませんか?

Sさん:じゃ~来月のクリニック受診後、スーパーに寄る時でどうだい?

田村:ありがとうございます。よろしくお願いします

このような約束をして、この日は散歩再開の話しとデイサービスでのリハビリ追加について、主治医に伝えて終了しました。

スーパーで待ち合わせ 手軽な野菜摂取法を提案

翌月、約束のスーパーでお待ちしていると、ケアマネジャーさんとSさんがいらっしゃいました。

田村:その後はいかがですか?

Sさん:散歩は再開して、先週からデイサービスでも足の運動が追加になったよ

ケアマネ:リハビリは、先生ももちろんOKで、デイサービスで簡単な下肢の筋トレを追加してもらいました

田村:年齢の影響もあるし、今のうちから下肢の筋トレはありがたいです。じゃあ、お買い物をしましょう。まずはSさん、いつもどおり買い物していただけますか?

Sさんは、「はいよ」と言ってカートを押して、まっすぐ惣菜コーナーへ……。野菜の和え物やきんぴらごぼう、揚げ物などをかごに入れて、パックご飯やレトルトカレー、カップ麺、食パン、牛乳などもかごに入れました。

Sさん:大体こんな感じかな

田村:わかりました。では、レトルトのところにちょっと戻ってみましょうか?

そう話して、レトルトコーナーで「中華丼」の具材を示しました。

田村:Sさん、これもカレーと同じように温めて、ご飯にかけて食べられます。しかも、野菜を手軽にとれます

Sさん:知らなかったな

田村:お漬物コーナーの近くにレトルトパックされたきんぴらごぼう、ひじき、れんこんの煮物、煮魚などがあります。これだとお惣菜コーナーの物に比べて日持ちがするので、お野菜の物を選んで購入しておくといいですね

食物繊維がとれて日持ちがし、あまり高価でなく購入できる食材、カット野菜やレトルトの惣菜、冷凍の枝豆、浸し豆やゆで野菜などを紹介しました。

Sさん:今はこんなにいろいろと便利な物があるんだな。今一度、妹が来る時に話してまとめて買ってきておいてもらうよ

田村:そうですね。ただ、賞味期限が意外と短いレトルト食品もあるので、そこは注意してください

2ヵ月後に3回目の訪問をするとSさんから、「管理栄養士さん、体重が2kg減って先生にこの調子頑張れってほめられたよ」と報告がありました。

田村:そうですか。よかった。以前の体重なら問題はないと思います。あと3kgの減量頑張りましょうね

Sさん:まだまだ元気で頑張らないとな

田村:そうですよ(『ヘルスケア・レストラン』2022年2月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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