食べることの希望をつなごう
第47回
歯科病棟における入院前から退院までの
多職種での患者支援

摂食嚥下障害の患者に多くかかわる歯科では、患者に対しどのように多職種でかかわっているのかご存じでしょうか。今号は、当院での入院前から退院するまでの大まかな介入内容を改めてお伝えします。

入院前から術前までの多職種での介入内容

口腔がん患者が多く入院する歯科病棟は、入院から退院後まで摂食リハと口腔ケアに力を入れているところが特徴です。患者の入院が決まると、外来看護師によるオリエンテーションが行われます。その際、食形態やアレルギーの有無など食事に関する聞き取りも行われ、対応が必要な場合は管理栄養士に連絡が入る体制になっています。また、「飲み込みに関する質問票」という用紙を患者に渡し、記入のうえ入院時に持参するようお伝えします。そして外来で口腔ケアも開始します。

入院時、外来から食事に関して対応が必要だという申し送りがあった患者には、管理栄養士が面談を行い、適した食形態およびアレルギーに対応した食事を提供します。一方、病棟看護師は外来で渡した「飲み込みに関する質問票」の確認を行います。「術前の下評価を要する症例」という摂食リハの介入フローチャートがあり、あてはまる患者は摂食リハの介入を依頼することになっています。

入院中は摂食リハ担当歯科医師による摂食嚥下機能の術前検査、術後検査、定期的な再評価が行われます。口腔ケア担当歯科医師と歯科衛生士は、周術期の口腔ケアや追加治療中のラウンドを行っています。管理栄養士はミールラウンドに参加し、摂食嚥下機能に合わせた食形態への変更や必要な栄養を確保するための献立調整を行います。

退院時には、看護師を中心とし多職種で退院後のフォローを検討します。「飲み込みに関する質問票」は自己評価表であり、自覚症状に基づき患者自身が評価します。結果は点数化され、基準の点数を超えた場合、看護師が担当歯科医師に摂食リハへの介入依頼を提案します。また、点数が基準に満たなくても、患者から「嚥下に関する細かい話を聞きたい」という希望がある場合も介入を依頼します。

摂食リハチームが作成した「術前の嚥下評価を要する症例」の用紙は、術式やBMI、現在の食形態といった客観的な情報をもとに、フローチャートに沿って摂食リハに介入依頼をするか否か判断します。介入依頼のあった患者は、術前の摂食嚥下機能検査を行ってから手術となります。管理栄養士は嚥下機能評価の結果を確認し、食形態の調整が必要な場合には術前から対応します。

嚥下機能に合わせた術後から退院までの介入

術後は、傷の状態から経口摂取が可能だと判断されたら、口腔外科から摂食リハへと嚥下機能検査が依頼されます。適切なリハビリが行えるよう、摂食リハ担当歯科医師や病棟看護師、管理栄養士によるミールラウンドを行っていますが、管理栄養士はそこで食べ方、食事にかかる時間、食べる量、食べづらさの有無などを確認し、日々の献立に反映させます。そして適宜、摂食嚥下機能の再評価を行い、退院へ向けて食上げをしていきます。

入院前から外来で介入を開始している口腔ケアは、入院中は病棟への往診を行っています。日常の口腔ケアは看護師がとても丁寧に行っているので、往診の際は、摂食嚥下機能や嚥下リハの介入状況、食事摂取量、栄養補助食品や栄養剤使用の有無など、管理栄養士と看護師が情報共有および術直後の口腔内の状況確認をしています。術後の追加治療中は、口内炎や嚥下障害により食事摂取状況が大きく変化するため、できるだけ詳細を伝えるようにしています。

看護師は放射線治療の際、出血や痛み、口腔内乾燥や味覚の変化などを毎日観察し、記録用紙に記載します。痛みが出てきた、出血があるなど、食事摂取にかかわりそうな事項は管理栄養士に連絡が入る体制になっています。
管理栄養士は、摂食嚥下機能評価に基づき、食形態の調整を行います。口腔がん術後の患者は摂食嚥下障害のある場合が多く、誤嚥性肺炎のリスクを下げつつ治療を完遂するために、摂食嚥下機能評価と口腔ケアを継続しながら、さらに食事も安全に栄養摂取できる食形態に調整します。これらは当院での食形態の調整の一例ですが、咀嚼がつらい、食べ物が創部に当たって痛いなどの訴えがある場合には、きざみやペースト、とろみなどの形態調整を行います。また、口内炎でしみる場合には酸味や塩分を控えたり、だしのみで調理をしたりします。このほか、食事のにおいを抑えるために食事を冷やして提供することもあります。冷たいほうが痛みを感じにくいとおっしゃる患者さんがいらしたからです。

形や味の調整だけでなく、必要な栄養を確保できるよう、献立内容も調整します。体重減少は「放射線治療完遂率の低下」や「感染発症率の増加」などにより患者の予後に影響するので、摂取量を維持し体重減少を抑制する必要があるためです。食事の量を減らし、栄養補助食品を使用することで、より効率的な栄養摂取をめざすことが多いですが、それでも十分な栄養補給ができない場合、栄養の投与ルートについて検討します。経鼻胃管や胃ろう、OE法(問歇的口腔食道経管栄養法)などの栄養ルートがそれに該当します。

退院日のめどがつくと、退院時の摂食嚥下機能に関して、液体のとろみの濃度や食形態、内服の状況に加え、現在行っているリハビリの内容や目標、外来でのフォローについて情報共有されます。自宅退院がほとんどであるため退院支援も行っており、看護師は介護申請や受けられるサービスを紹介し、管理栄養士は調理の指導や宅配食および栄養補助食品の紹介などを行い、安心して退院できるよう栄養相談を実施します。

栄養相談では、入院中に提供していたような食事の調理方法、ミキサーやキッチンバサミなどの調理器具の使い方、一度にたくさん食べられない場合の補食の活用法などを説明したり、ユニバーサルデザインフード、スマイルケア食、特別用途食品などの市販食品や宅配食を紹介したりします。加えて、効率よく栄養補給をするためにいくつかの栄養補助食品を実際に見せながら紹介も行っています。外食や惣菜などの利用についても説明し、場合によっては摂食嚥下関連医療資源マップを紹介することもあります。

退院時には体重測定をし、退院後初回の外来受診時に体重減少がないかの確認につなぐために外来看護師へ情報共有します。その際、食事や生活に関する不安や悩みがある場合には管理栄養士に連絡が入る体制をとっています。

このように、当院の歯科病棟では、治療開始から終了まで、歯科医師、看護師、歯科衛生士、薬剤師、管理栄養士が連携して介入しています。(『ヘルスケア・レストラン』2022年2月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学病院 臨床栄養部 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士

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