栄養士が知っておくべき薬の知識
第126回
短腸症候群で行われる薬物治療について

短腸症候群というと、栄養管理がとても難しい疾患ですが、最近になって短腸症候群に特化した薬が発売されました。今回はその薬を紹介します。

短腸症候群について

短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)は、さまざまな原因によって小腸を広い範囲にわたって切除したために、水分をはじめさまざまな栄養素の吸収が障害される吸収不良症候群です。

SBSの病因は小児と成人では異なります。小児は、小腸閉鎖症や壊死性腸炎、消化管の蠕動が起こらないヒルシュスプルング病などであり、成人では上腸間膜動脈に塞栓ができて、それ以降の壊死部位を切除した場合やクローン病イレウスや腹部腫瘍の切除後などです。いずれも広範な腸管切除を余儀なくされるため、腸管長の短縮と腸管膜面積の減少によって腸管通過時間の短縮と消化・吸収面積の減少を起こします。水分・電解質をはじめ各種栄養素の消化・吸収が不十分となり、切除後当初は静脈栄養に頼らざるを得ない病態です。

成人では残存小腸が150cm以下、小児では75cm以下、あるいは全小腸の3分の1以下とされています。残存腸管の長さとともに、回盲弁残存の有無が大切になります。多くの患者さんでは腸管機能が順応していきますが、生涯にわたり静脈栄養を必要とする患者さんもいます。

残存小腸の程度と栄養素の吸収について

空腸は栄養素の主な消化・吸収部位であるため、空腸が切除されることによって吸収面積が減少し、栄養吸収が障害されます。鉄や水溶性ビタミンはほぼこの部位で吸収されますが、鉄欠乏症やビタミン欠乏症は空腸のほとんどが切除された場合に限られます。ままた、後述する腸管適応は残存空腸では起こりません。一方、回腸は絨毛の長さを伸ばし、吸収機能を亢進させることで適応し、その結果、栄養吸収が徐々に改善します。これが空腸との大きな違いです。
回盲部はビタミンB12や胆汁酸の吸収部位であり、回盲部の有無によってその後の管理も異なってきます。回盲部が切除された場合、ビタミンB12の吸収部位が失われているため、巨赤芽球性貧血予防にビタミンB12の注射による投与が必要となります。また胆汁酸は脂肪のミセル化に必要なため、脂肪および脂溶性ビタミンの吸収能は低下します。どの部位がどのくらい残っているのか、という確認がその後の栄養管理において大切です。

短腸症候群の病期

短腸症候群の病期は、3つのフェーズに分かれています。
第I期は腸管切除後すぐの時期です。腸管麻痺期に続いて1日に何回も水様下痢を来す腸蠕動亢進期に至ります。この時期は、腸管がほとんど機能していないため、水分・電解質管理に注意しながら中心静脈栄養で栄養管理を行います。経口による栄養補給は、その刺激によって下痢を悪化させる可能性もあるため控えるのが一般的です。胃酸分泌も水様下痢を助長することから、H2拮抗剤やプロトンポンプ阻害薬といった胃酸分泌抑制薬を投与します。またロペミンやアヘンチンキといった止痢薬を使うこともあります。

第II期は症例によっても異なりますが、術後1ヵ月くらいから腸管順応期と呼ばれる水様便が減って、腸管吸収能に改善が見られる時期になります。排便量が2L/日未満となった時点で、ナトリウムやブドウ糖の経口浸透圧溶液(いわゆるOS-1など)を少しずつ開始します。経腸栄養剤は、たんぱく源がアミノ酸そのものであるエレンタール®やジ・トリペプチド製剤であるツインライン®NFなどの消化態栄養剤を開始します。その際、これらの栄養剤の浸透圧が高いため浸透圧性の下痢や腹部症状を起こしやすいので、投与速度の調整が必要になります。必須脂肪酸欠乏にも注意し、経静脈的に脂肪乳剤を併用することが必要になります。回盲弁の有無にもよりますが、脂肪の消化・吸収面から、ウルソデオキシコール酸(ウルソ®)を使用するほか、ペクチンやグアーガムといった水溶性食物繊維を併用することで、消化管の通過時間の延長を図ります。また、短鎖脂肪酸は大腸から吸収されることから有用とする意見もあります。

第III期は安定期と呼ばれ、術後約1年を要します。下痢が収まってきて腸管の適応が改善して安定する時期です。経口からの栄養投与も可能な時期となります。大腸が残存していれば、複合炭水化物と低脂肪食として管理することが望ましいとされます。また、シュウ酸はカルシウムと結合して通常なら便として排泄されますが、大腸に脂肪酸が増えているとカルシウムが脂肪酸と結合してしまうため、シュウ酸が身体に吸収されてしまい、シュウ酸塩による腎結石が生じやすくなります。そのため食事は低シュウ酸塩食とします。その吸収に胆汁酸の必要がない中鎖脂肪酸も熱量を得るために有用です。この時期までに静脈栄養から離脱できたかどうか、胆汁うっ滞(ビリルビンが高くならない)が改善しているかどうか、すなわち腸管順応が起きているかが、予後を決定する判断材料とする報告もあります。

長期にわたるTPN(中心静脈栄養管理)は、カテーテル感染症の併発やIFALD(腸管不全合併肝障害)といった腸管機能不全に合併する肝障害を生じやすいためです。TPNが長期になった場合で合併症を併発しているケースでは、小腸移植も推奨されています。腸管順応が起きてくれば、TPNからの離脱可能性が高まります。

テデュグルチドについて

これまで腸管順応、すなわちTPNから離脱して腸管栄養が可能となるかどうかが、SBSの管理において重要なため、腸管順応を早く適切に誘導する薬がいろいろと試されてきました。グレリンやインスリン様成長因子などです。このうち、GLP-2(グルカゴンペプチド-2)の投与が、腸管順応に有用であることが明らかとなり、この度、テデュグルチドが短腸症候群の治療薬として認可されました。管理栄養士の皆さんに馴染みの深い糖尿病治療薬のGLP-1はインスリン分泌を促進しますが、GLP-2は脂肪酸の刺激によって回腸末端から分泌されています。GLP-2は、腸管の絨毛高の増高などによって栄養吸収の増加が得られ、腸管通過時間の延長や胃酸分泌抑制作用、腸管平滑筋の弛緩作用など、短腸症候群での腸的栄養投与を促す作用があるとされています。

適応としては、腸管の順応期間を経て、経静脈栄養量および補液量が安定した、あるいはそれ以上低減することが困難と判断された患者に投与すること、となっています。天然のGLP-2は約7分で失活しますが、今回発売されたテデュグルチドは、DPP-4により不活化されにくく、天然型より半減期が長いという特徴をもっています。
開始当初は、医療施設において、必ず医師の監督のもとで投与を開始しますが、皮下注射で毎日投与が必要なため、その後は自己投与も可能です。

おわりに

短腸症候群の患者さんは長期にわたる静脈栄養を余儀なくされるため、精神面での援助も必要です。また微量元素やビタミン類を含めて各栄養素の欠乏症が生じていないか、といったチェックも必要になります。在宅での静脈栄養管理や間欠的に静脈栄養を行う症例もあるなど、さまざまな職種との連携も必要になります。管理が大変な症候群ですが、日頃の管理栄養士さんの栄養管理力が試されるケースだと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2022年2月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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