“その人らしさ”を支える特養でのケア
第49回
介護報酬における加算算定への取り組みが
よりよい栄養ケアにつながっていくことを実感
令和3年度介護報酬改定から10カ月が経ちました。読者の皆様のなかにも、本改定を機に新たな加算算定を始めた方も多いかと思います。今号では本改定を受けて、当施設で新たに取り組んだ内容を紹介します。
加算の算定を踏まえ変更した業務内容
当施設では、体制が整い、栄養マネジメント強化加算の算定を始めました。厚生労働省や公益社団法人日本栄養士会による概要およびQ&Aなどを繰り返し確認しながら実際の業務に落とし込んでいく作業は、まだまだ手探りで解釈が違う部分もあるかと思いますが、取り組みの第一歩を紹介いたします。
栄養マネジメント強化加算は、従来の栄養ケアマネジメント加算とは異なり、管理栄養士の人員配置や日々の業務内容までが加算要頭に含まれています。
管理栄養士の人員配置の条件は、入所者50人に対し1人(施設に給食管理を担当する常勤栄養士がいる場合は、入所者70人に対し管理栄養士1人)と規定されています。当施設は2021年春から管理栄養士2人体制となり、給食管理業務と並行しながら、入居者50人に対し管理栄養士1人という条件をクリアすることができました。
また、食事の観察の回数も加算要件に含まれました。低栄養リスクが中・高リスク者に対するミールラウンドは週3回以上必要となります。厚生労働省の加算要綱を確認すると、「やむを得ない場合は管理栄養士以外の職種が行ってもいい」となっていますが、できるだけ、管理栄養士がミールラウンドを行うようにしています。
以前から当施設では昼食時のほかに、午前中もラウンドを行っていました。午前中のラウンドは、昼食時の訪問ユニットを決めることを目的としているほか、ご利用者の様子を知り、ご利用者に自分の顔を覚えてもらうために行っています。また、他職種とコミュニケーションをとるためでもあります。
昼食時は1つのユニットに時間をかける傾向があり、加算前に普段どのくらいミールラウンドを行っているか調査したところ、ご利用者1人当たり週に1~2回と、条件に不足していることがわかりました。
このことを踏まえて以前の業務から変更したことが2つあります。1つ目は1ユニットのラウンドにかける時間、2つ目がラウンドを行う時間です。
以前から昼食時の栄養課業務には分担があり、一人は前月中に予定されたユニットを担当、もう一人はプラン変更が必要な方や新規入居者を担当しています。後者の管理栄養士は、これまで該当利用者がいない場合に前者の管理栄養士が訪問していないユニット1カ所を訪問していましたが、加算開始後は該当利用者がいない場合には複数のユニットを回る対応に変更しました。変更当初は、「こんなに短い時間の観察で大丈夫だろうか」と思っていましたが、私の不安を耳にした看護師から「毎日見てくれているんだから、短い時間でも様子の変化に気がつくでしょ」と言われました。その言葉を裏付けるように、毎日の訪問のおかげで、短い観察時間でも、むせの頻度や食べ方の違いなど細かい変化に気がつくようになってきています。
また、以前は出勤後すぐ行っていた午前中のラウンドの時間を見直しました。管理栄養士の勤務時間内で食事の様子を確認しようと思うと、チャンスは昼食時のみ。そこで10時の水分補給のタイミングで訪問できるような時間帯に、午前中のラウンドを変更しました。水分補給だけではありますが、ご利用者によっては経口補助食品や水分補給用ゼリーなどを「食べる」機会もあり、食事と同様の内容で評価を行っています。
ただし、週3回のうち、2回以上は食事を確認しています。このほかにも、ご利用者によっては朝食の時間が遅かったり、水分補給と一緒に経口補助食品を食べていたり、おやつの時間があったりと、意外とご利用者が食べている時間は多くあり、食べる時間の情報を収集しながらミールラウンドを行っています。
ミールラウンドを行った場合は、記録に「ミールラウンド実施」と記載しています。その場で対応したことや特記事項があれば追加で記載しますが、状況に変化がない場合はこの一言で記録は終了です。
利用者の変化から適切なケアの重要性を再認識する
加算開始の初月、アセスメント項目が増えたこともあり、全ご利用者にアセスメントを実施しました。とても大変でしたが、ご利用者全員の状況を同じタイミングで確認することはあまりないので、貴重な機会でした。
そこで気がついたのは、ご利用者が食べられる食事の量が全体的に減ってきている、ということです。以前は3食と間食分で1日4回経口補助食品を提供する方が多かったのですが、改めて確認すると1日3回が限度という方が増えていることに気がつきました。もちろん、必要栄養量は満たしていますが、それでも「最近全部食べられない」とユニットから相談を受ける機会も増えてきました。この気づきを給食委託業者と共有し、現在対応を検討中です。
経口補助食品はさまざまな商品が販売されており、金額や購入経路を気にせず選ぶのであれば、興味深いものがたくさんあります。少量で高エネルギーであるものはもちろんですが、エネルギー当たりのたんぱく質を多く必要な高齢者に提供することを考えると、たんぱく質含有量が多いほうが食事の補助としてはいいように思います。また、味もさまざまで、甘くないもの、さっぱりとしたものなど、これまでの経口補助食品の味付けとは違ったものがあり、ご利用者が長く使っても飽きることがないように対応できるな、と感じます。
新しい加算の算定を行うことで、気がついたり、視点が変わったりと少しずつ自分のなかで変化が出始めています。加算の算定を行うことで収入が増えることも利点ですが、新たな気づきからよりよい栄養ケアにつながっていくのだなぁと実感しています。
今後、科学的介護情報システム(LIFE)のフィードバックなども活用しながら、より一層、ご利用者に寄り添った栄養ケアができるよう努力したいと思っています。(『ヘルスケア・レストラン』2022年1月号)
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る