食べることの希望をつなごう
第46回
栄養と歯科との相乗効果による
効果的なサポートに期待

栄養管理を行ううえで、患者さんの食事中の様子は情報を得る重要な時間です。その時、歯科領域の視点も取り入れて観察すると、より多くの問題に気づくことができます。栄養と歯科、この2つの連携がうまくはまると、より充実したケアにつながっていくだろうと考えています。

栄養を得るためのいくつかの入り口

当院は2021年10月1日に、医学部附属病院と歯学部附属病院が一体化し、東京医科歯科大学病院になりました。歯科診療部門のほとんどの診療科は外来中心の診療体制ですが、病棟も1つあり、そこは主に口腔外科の患者さんが手術目的で入院し、がんに対する化学療法や放射線治療も行っています。また、摂食嚥下リハビリテーション外来では、通院できない患者さんのお宅に訪問診療を行っています。このように、当院の歯科診療部門は、外来、入院、在宅の患者さんにかかわっています。

栄養には口から食べる、飲むといった経口摂取、経鼻胃管や胃ろう・腸ろうといった経腸栄養、そして輸液を使った経静脈栄養と、いくつかの入り口があります。歯科が主にかかわることが多いのは、食べること飲むことといった経口摂取の場面がほとんどであり、経口摂取に移行する途中や嚥下のリハビリを行っていて、経腸栄養や経静脈栄養を併用しているという場合もあります。歯科医師から介入依頼を受けるのは、ほとんどが食べることに関する内容で、食事が食べられていないので何とかしてほしい、というようなケースです。口腔内の不具合、たとえば無歯顎であったり、治療によって食べづらさが増したりしている患者さんに、必要な栄養を口から食べてもらうためどうしたらいいか、という依頼が多いように感じます。
また、摂食嚥下障害の患者さんに、安全に食べられる食形態の調理方法を説明してほしいという依頼も多いです。加えて、栄養補助食品や宅配食など、利用できる市販品の紹介の依頼もあります。患者さんの生活環境によっては、コンビニやスーパーの惣菜の選び方や手元での形態調整についてお話をすることもあります。

食事場面を見て気づく問題点

百聞は一見にしかずといいますが、やはり食事場面に同行させてもらうことで、いろいろな問題点がわかります。当院では、入院患者さんに対し、歯科医師、看護師、管理栄養士でミールラウンドを行っており、それぞれの立場で食事場面を観察しています。たとえば、食事摂取量の低下については、食べられない理由が何なのか。食事の形態の問題なのか、ボリュームの問題なのか、味覚や嗜好の問題なのかでアプローチが変わってきます。また、そもそも必要な栄養量はどの程度なのかも知っておく必要があります。なぜなら、食事量が減っていてもうまく栄養をとることができている場合もあるためです。食形態の調整に関しても、実際の食事場面が確認できると、その方にとってどのようなものが食べやすく、どのようなものが食べづらいのか、一口の量や食べる姿勢、咀嚼の回数や口の中の残留なども確認できます。

特に在宅の場合は、食事場面の確認により、実際に召し上がっている食形態やだいたいの栄養量の推測ができるだけでなく、品数や食材の数、手づくりなのか惣菜を利用しているのか、さらに、どのような調理器具を使っているのかなども確認することができます。調理上、ミキサーなどのような普段使用していない調理器具を使わなければならない場合は、デモンストレーションを行うことも。野菜やフルーツはミキサーにかけたことがあっても、肉や魚をミキサーにかけたことのない人がほとんどですから、実際に調理工程を見てもらうことは重要です。

一方で、調理そのものが難しい場合には、市販食品の紹介や栄養補助食品の使用について提案します。この時、経済状況やその方が受けられるサービスの環境など患者さんの背景を考慮することも忘れてはいけません。調理担当者の負担についても同様です。このように安全に食べられる食形態の調整については、とろみのつけ方や調理器具の使い方、調理方法、メニューの選び方なども併せてお話ししています。

栄養と歯科のコラボレーション

歯科医師からの依頼を受けるには、医師との連携が必須です。それは、患者さんに何かしらの疾患があり、食事療法を行っている場合にはそちらを優先することが多いからです。たとえば、体重が減っている、という場合ですが、体重減少の理由が咀嚼や摂食障害などによる食事摂取量の低下によるものであれば入れる栄養を増やせばいいですが、既往によっては一筋縄ではいきません。よかれと思って介入した結果、別のところが悪くなるという状況は避けなければなりません。患者さんの全体を診ながら栄養管理を行うことが必要になるため、医師との連携が必須になるのです。

また、現在の患者さんの状況についても確認したいところです。たとえば、がんの末期で安全に食べられればいいという時期なのか、これから治療があるのでできる限りしっかり栄養量を確保したい時期であるのか、リハビリを積極的に行うのか、リハビリを行うための土台づくりの時期なのかなど、患者さんにかかわる医療従事者の間で認識がズレないよう、情報共有は連携の鍵となります。歯科医師からは、「食べられないようだ」とか「食事摂取量が減っている」といった歯科の視点からの依頼をいただくのですが、その患者さんの背景にある疾患の治療方針や既往についての情報が少ない場合があります。

歯科医師を介して依頼を受けるなかで、歯科医師からの依頼では栄養食事指導料の算定ができない点が課題です。現在の診療報酬では、歯科医師からの依頼では栄養食事指導料が算定できません。しかし、歯科医師からは管理栄養士と連携するにはどうすればいいの?とよく聞かれます。特に、在宅で困っているケースが多いように感じています。相談を受けた際には、公益社団法人日本栄養士会で設置している認定栄養ケア・ステーションに依頼するよう案内していますが、栄養ケアステーションそのものがまだまだ足りないようです。

栄養と歯科のコラボレーションはまさしく鬼に金棒。そのため、歯科医師からの依頼を受ける管理栄養士には前述の管理栄養士としての知識はもちろんのこと、歯科の知識も必要でしょう。歯科医師からの情報をもとに、適切な食形態に落とし込むには、歯科治療や嚥下機能について知っていたほうが有利です。食べられなくて困っている人は思っている以上にたくさんいます。歯科との連携が当たり前になるといいなと日々感じています。(『ヘルスケア・レストラン』2022年1月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学病院 臨床栄養部 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士

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