栄養士が知っておくべき薬の知識
第125回
薬や植物、栄養素の不足によって生じる
光線過敏症とは

今回は、光(日光)によって生じる有害事象の「光線過敏症」について述べます。光線過敏症は注意すべき事柄が多く、管理栄養士にも理解していただきたい疾患です。

日光による有害事象とは

日光は日焼けを起こしますし、慢性的に浴びることでシミやソバカスの原因にもなります。光線過敏症とは日光によって引き起こされる生体の免疫反応のことで、日光アレルギーともいわれています。光線過敏症は、日光を浴びたところが赤くなるだけでなく、腫れ上がったり、水疱や色素沈着を起こしたりといったさまざまな症状を引き起こします。

また、光線過敏症は目に見えな紫外線によって生じます。紫外線は波長の長さからUVA、UVB、UVCの3種類に分けられます。波長の短いUVCは、大気のオゾン層に吸収されて地上まで届きません。ただし、UVCは高いエネルギーをもっていて、UVCを過度に吸収した場合は、日焼けだけでなく免疫機能低下や皮膚がんをも誘発するといわれます。オゾン層の維持は人類にとって重要です。UVBは主に日焼けを引き起こし、皮膚の最も深いところまで侵入するUVAはシミなどの原因になるとされます。

光線過敏症の種類

光線過敏症は内因性と外囚性の光毒性反応があります。内因性反応は遺伝的疾患や代謝疾患による光線過敏性皮膚症とされ、メラニン色素やDNA修復欠損、ポルフィリン増加などの原因によって生じます。また、栄養素の不足によっても起こります。一方、外因性光線過敏症の原因となる化合物は医薬品、食物、化粧品原料など、たくさんの原因が報告されています。

光線過敏症は医師による皮膚の評価と光テストで診断します。一般には日光にさらされた皮膚の部分にのみ発疹が現れた場合は、光線過敏反応が疑われます。患者さんの病歴や皮膚の症状、服用薬剤、皮膚に塗った化粧品などが調べられます。なかでも光線過敏反応を起こしやすい全身性エリテマトーデスなど重篤な疾患によって光線過敏症が起こっている可能性もあるため、これを否定する検査も必要になります。

栄養素の欠乏で生じる光線過敏症

ペラグラはニコチン酸アミドの欠乏症で、皮膚、消化器、認知症などの神経症状を起こします。トウモロコシを主食とすると、トリプトファンの代謝で生じるニコチン酸アミドの欠乏でペラグラを起こします。日光に当たるところの額や鼻、唇、首筋などに日焼けしたような皮疹ができて、通常、熱感とかゆみを伴います。粘膜の障害であることから消化器にも影響が及びます。ペラグラの原因がわかってからは主食をトウモロコシにすることなどが回避され、ニコチン酸アミド欠乏によるペラグラの発生は見られなくなってきました。しかし現在ではアルコール多飲者など、偏った食事摂取を続けている方ではビタミン欠乏を起こすように、ニコチン酸アミド欠乏のペラグラを起こします。治療はニコチン酸アミドとビタミンB群を投与します。

光線過敏症を起こす薬

光線過敏症を起こす可能性がある薬は多数に上ります。また、医薬品だけでなく化粧品や漢方薬、ハーブでも光線過敏症が報告されています。

医薬品は体内に入るとさまざま代謝を受けて代謝物ができます。その内のどれかが光線過敏を起こす可能性があります。植物でもセリ科、ミカン科、オトギリソウ科の植物などで光毒性反応が報告されています。このほかセントジョーンズワートやベルガモットなどといった機能性食品や化粧品として用いられているものでも光線過敏症が報告されています。

皮膚内の光生物学的反応は光毒性を含め、すべて光化学反応のうえに成立すると考えられます。皮膚に取り込まれた化合物のうち、皮膚深部にまで到達した光のエネルギーを吸収することによって、活性化を受けた状態になってしまうためです。この現象は光励起(ひかりれいき)と呼ばれます。

医薬品のうち光線過敏症の報告が多いものに解熱鎮痛剤があります。いわゆる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は貼り薬として使われますが、長期間にわたって皮膚に滞留するために貼り薬を剥がしたあとでも光毒性反応を示したことが報告されています。このため、ケトプロフェンを含有するモーラス®テープの使用上の注意には、貼った部位を日光に当てないこと、日光に当たるような活動はできるだけ避け、外出時は濃色の長袖シャツや長ズボンを穿き、テープを剥がしたあとも4週間は同じような注意が必要と書かれています。また貼り薬は何気なく人に渡してしまうこともあると思いますが、それは避けるように注意を呼びかけています。
一方、貼り薬だけでなく、経口剤によっても薬が皮膚に蓄積して光による毒性反応を示す場合もあります。

これまでに光線過敏症の報告が多い薬物には、抗不安薬のアルプラゾラム、クロルジアゼポキシド、抗菌薬ではキノロン系と呼ばれるレボフロキサシンやテトラサイクリン系、血糖降下薬のうちスルホニル尿素薬と呼ばれるグリベンクラミド、抗精神病薬のクロルプロマジンなどです。
このほか、植物ではキャベツ、イチジク、セロリ、ほかにベルガモット油、香料、クロロフィルなとでも光線過敏症の臨床事例が報告されています。こうした光線過敏症を起こす可能性のある医薬品や植物などを同定することはとても難しいとされます。医薬品でいえばその開発段階で、光線過敏症を誘発しやすい薬の構造上や物理化学的特性は現在までに十分に解明できていません。
医薬品が体の中でどのような場合に励起を受けたか、また励起された状態がずっと続くわけでもないので、どういったケースで励起状態を起こしやすいのかを解明することが難しいためです。唯一、光過敏症の報告が多い抗菌剤であるキノロン系では構造上にフッ素の位置を変えた場合に光線過敏症を起こしづらい抗菌剤が開発された程度です。
つまり、光を浴びて赤く腫れあがったなどといった場合では、新しく摂取した薬や植物で光線過敏症の可能性を考えて対応するしかありません。光毒性では、日光に短時間さらされた部分の皮膚に痛みが生じ、発赤と炎症が起きるほか、時には皮膚が褐色または青灰色に変色することがあります。これらの症状は日焼けと似ていますが、特定の薬や化合物を服用した皮膚に塗ったあとに光に当たった場合にしか現れない点が異なる部分です。

光線過敏症の予防方法

内因性の光線過敏症を起こしやすい人は、冷え症や肩こりの訴えがあり、白血球が少ない女性など、ちょっとでも日光に浴びると真っ赤になるような方に多くみられます。過度の日光曝露を回避し、保護効果の高い衣類を着用し、日焼け止めを使用し、その薬を使い始めて光線過敏症が起こっていると考えられたら医師に相談して原因になっている薬を中止するなどで対処します。

以前、本稿で骨粗しょう症の患者さんは日光を浴びてビタミンDを活性化させる必要があると記しました。光を浴びることは健康的でよい面もあります。
一方で、紫外線によって光線過敏症を起こすこともあります。在宅栄養管理などを担う管理栄養士のなかには、患者さんを外出させて気分転換を図ることもあるかと思います。光に当たった部位が赤く腫れあがったなどといった場合光線過敏症ではないかと考え、前述のような対処を考える必要があると思います。(『ヘルスケア・レストラン』2022年1月号)

林 宏行(日本大学薬学部薬物治療学研究室教授)
はやし・ひろゆき●1985年、日本大学理工学部薬学科卒業。88年、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院勤務。2002年から同院NST事務局を務める。11年4月から日本大学薬学部薬物治療学研究室教授

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