栄養指導で”あるある!こんなこと”
第100回
女性だけでなく男性にもある?
更年期障害時の心の変化と対応
Pさんは、ここ2年半ほど月1回のペースで栄養指導に通われている患者さんです。心配ごとができたことで更年期障害を疑ったPさんの症例について紹介します。
体重減少の要因は心配ごとによる食欲不振
Pさんはもともと体格がよく、身長178cm、体重108kg(8月現在)です。栄養指導に通いはじめた頃の血糖値は、空腹時で150g/dl前後、HbA1cは10%前後ありました。大好きだったコーラを止め、食事面では野菜をしっかりとるように、そして食べる順番やスピードなどを調整してもらい、もともとあった115kgの体重を7kgほど減らし、HbAICは10%台から7.5%前後と頑張っています。
田村:Pさん、こんにちは。体重測定からお願いします
Pさん:はい
私が勤務するクリニックでは、最初に血液検査と尿検査を済ませてもらいます。そのあと、体重測定を行ってから栄養指導を実施し、その内容をもとに診察を受けていただきます。
完全予約制のため、外来の混雑具合に関係なく、スムーズに受診できる仕組みになっていて、予約して栄養指導を受ける患者さんはほぼ待ち時間なく検査、栄養指導、診察となります。
田村:108kgですね。ちょっと減りましたね
Pさん:いや~、なかなか減らないな……
田村:それでも増えていないのでいいんですよ
Pさん:そうかい?
このように、体重からこの1カ月の食事はどうだったか、運動はできたか、体調はどうかなどヒアリングします。気になることや問題だと感じた部分にアドバイスをしたり、質問に答えたり、用意してあるパンフレットや手づくりのレシピなどをお渡しして栄養指導を進めていきます。
また、検査データに変化があればよかった部分、今後注意していく部分なども一緒に話し合っていきます。
この日、Pさんは数値的にも大きな変化はなく、次の診察を受けていきました。そして翌月……。
田村:おはようございます。まずは体重測定からお願いしますね
Pさん:はい
田村:103.5kgですね……あれ、先月は確か108kgでしたね?
Pさん:はい
田村:あらすごい!すごく頑張られたんですか?
Pさん:いや、実は先月こちらに来た直後、具合が悪くなってしまって。心臓が苦しくなって先生に診てもらったこともありました。血圧が急に高くなって……
田村:そうだったんですね。今の具合は?
Pさん:血圧はお薬をもらって何とか落ち着いたんですが、何か調子がよくなくて
田村:それは大変ですね
Pさん:何だかいろいろ気力も減退して
田村:あらあら…夜は眠れますか?
Pさん:眠るようにはしてますが、パッと目が覚めてしまって
田村:先生は何て?
Pさん:現状、血圧が高かったくらいで、あとは特に……様子を見ましょうと。血圧が落ち着かなかったり、心臓が苦しかったりしたら大きな病院で検査してもらいましょうって
田村:食欲はどうですか?
Pさん:食欲……具合悪かった時は本当に食べられなくて
田村:それで体重も急に減ったんですね。体重が減ったこともありますが、疲れがひどいとかだるいとかはないですか?
Pさん:そこまでではないんですが、何だかスッキリしなくて
田村:ここのところ暑かったり、急に涼しくなったり、気候の変動も大きいので夏の疲れが出てるのかもしれませんね
Pさん:何だかな~。何で血圧が急に高くなっちゃったのか……
こんな風にとても悩んでいらっしゃる様子でした。いつもは元気で明るいPさんですが、この時はいつもと違っていました。
あまり知られていない男性の更年期障害
田村:Pさん、年齢が50代前半ですね……もしかしたら、少し更年期障害かもしれませんね
Pさん:男性にもあるらしいです
田村:はい。女性のように明確ではありませんが。年齢的に疲れが溜まりやすいですし、男性もホルモンの変化が関係していると思います。そして今、ちょうど季節の変わり目ですしね
Pさん:そうなのかな~。ちょっと鬱なのかなって思って、心療内科の受診も考えていたんです
田村:なるほど。でも、血圧は様子見で、心臓は苦しくないんですね?
Pさん:はい
田村:糖のほうも今日は大丈夫です。落ち着いていますよ。食欲は?
Pさん:具合が悪かった時よりは食べています
田村:今はいろいろ考えちゃうかもしれませんが、あまり考えすぎずに……って、考えちゃいますよね
Pさん:急に血圧が高くなっちゃったのが気になって……
田村:なるほど。血圧が高くなる原因は①年齢的なもの、②塩分過剰摂取などの食習慣、③肥満、④ストレスや不眠、⑤糖尿病などの基礎疾患などが考えられます
Pさん:ほとんど当てはまってますね
田村:Pさんに限らず、突然血圧が高くなることは誰にでもあり得ることです。ちゃんと原因も考えられます
Pさん:そっか
田村:先生もおっしゃったかもしれませんが、できるだけゆっくり寝て、食事は塩分に注意してください。体調がよくなってからでいいので軽い運動、ウォーキングなどするといいかと思います
Pさん:軽い運動は先生にも勧められました
田村:運動は気晴らしにもなるので、無理のない範囲でやってみてください。睡眠や糖のほうにもよい効果が期待できますよ
Pさん:なるほど、少しやってみっかな
田村:早朝とか、急に長時間とかはやらないでくださいね
Pさん:はい
田村:あとはいろいろ考えないで、って言っても考えてしまうと思います。なので“そんな時期”と思って考えてもいいです。でも、もし眠れないほどなら、先生にご相談なさってくださいね。糖や血圧との関連だってありますので、何か心配なことはぜひ先生に相談してみてください
Pさん:わかりました。何かちょっと安心しました
田村:先生に対応できることはしてくださいますし、大丈夫ですよ
翌月、体重は減り止まり、血糖も安定していました。お話をすると、ややむことは続いているようでしたが、主治医に相談すると食欲が戻るようです。糖のコントロールの食事と、最近は減塩にもちゃんと取り組んでおられます。散歩も30分程度からはじめて、今は奥様と休日に60分程度歩くそうです。
悩むことって誰にでもあります。「悩まないで!」「くよくよしないで!」と励ますのではなく、悩んでもいいのだということを伝え、何かあった際の対処方法を一緒に考えてみてはいかがでしょうか?
クリニックでは、今回のように悩みを抱えている男性患者さんが意外と多いです。できるだけ寄り添って一緒に考えたいと思います。(『ヘルスケア・レストラン』2021年11月号)
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士
たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている