食べることの希望をつなごう
第43回
とろみ付けや食形態の工夫あれこれ

摂食嚥下障害が生じている患者さんに対する食形態の検討は、多くの管理栄養士が頭を悩ませる部分だと思います。可能なかぎり経口摂取をめざす一方で、なかなか摂食が進まないというジレンマ。しかし、1つでもきっかけがあれば経口摂取につながる可能性があります。

経口摂取につなぐまでのさまざまな課題

「液体をそのまま飲むと誤嚥のリスクが高いため、とろみ付けが必要です」というお話を患者さんやご家族にさせていただく機会は、読者の皆さんにもご経験があるでしょう。当院では口腔がんの患者さんが多く入院されているため、日常的に嚥下機能評価が行われ、液体のとろみ付けの有無についても評価をしています。

何度かご紹介させていただいていますが、術前と術後に嚥下機能評価を行い、手術による変化を確認します。液体はそのまま飲めるのか、とろみが必要なのか。とろみが必要な場合、とろみの濃度はどの程度であれば誤嚥を防げるのか。どのような姿勢で、どのような食具を使い、どのくらいの量を飲むのであれば安全なのか。代償法はどのように行うか……。不必要な食形態の調整は食欲低下を招くこともあるため、詳細に検査を行い、経口摂取へとつなげていきます。

とろみの濃度は、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(とろみ)の薄い、中間、濃いとろみに加え、さらに薄いとろみで検査を行うこともあります。液体では誤嚥や喉頭侵入のリスクが高くても、濃厚流動食や飲むヨーグルト程度のごく薄いとろみがあればリスクを回避できる場合があるからです。とろみ付けの手間が面倒、飲んだ後のさっぱり感がない、とろっとしているのが嫌、とろみをつけるともとの味と変わってしまう、などなど、理由はさまざまですが、とろみを嫌がる患者さんは少なからずいらっしゃいます。それでも、ごく薄いとろみで誤嚥が防げる状態であれば、とろみ付けしたお水やお茶は飲みたくなくても牛乳や飲むヨーグルト、豆乳などなら飲める、といったケースがあり、脱水防止と栄養価アップに一役買っています。

一筋縄ではいかないとろみ付け

もともととろみがついているため不自然ではない料理であれば、患者さんの受け入れがよいこともあります。当院の嚥下調整食は、夕食に必ずポタージュスープをつけていますが、ありがたいことにおいしいというお褒めの言葉をいただくことが多いです。また、市販のゼリードリンクも使用できる場合があります。製品によっては離水が多いもの、不均質なものもあるので注意が必要ですが、とろみ付けした飲料よりも好んで飲まれる方もいらっしゃいました。

中間のとろみ以上のとろみが必要で、濃厚流動食を使用したい場合は、皆さんも悩まれることが多いのではないでしょうか。いい方法があれば私にもぜひ教えていただきたいです。ゼリーは送りこみや押しつぶしが難しいため、できれば使用したくなく、効率よく栄量を確保するため濃厚流動食を使いたい、でもとろみが必要、というケースがありました。液体を飲む際に使用していたとろみ剤で濃厚流動食にとろみをつけようと実験すると、1パックに6gのとろみ剤が必要です。
しかし、とろみはつくものの、付着性はかなり強くなってしまい、果たしてこれでいいのだろうか?という物性になってしまいました。酵素入りゲル化剤でゆるくゼリー化したり、市販されているとろみ付きの濃厚流動食を使用したりすることで解決できると考えましたが、手間やコスト等患者さんの生活環境を考えてご提案しないと継続は難しい場合も多いでしょう。

“好きなもの”がきっかけでとろみ付けを受け入れた一例

術後、学会分類2013のコード2-1、薄いとろみ~さらに薄いとろみでも誤嚥のリスクは避けられるとの評価結果から、食事が開始になった患者さんがいらっしゃいました。液体は不顕性誤嚥があるため、とろみ付けが必要です。追加治療の予定が決まっており、主治医からは、追加治療を完遂するため治療が終わるまでできるだけ誤嚥性肺炎のリスクを下げたいというお話がありました。

当院では食事開始後3食全量摂取できること、水分量の確保ができること、内服ができることを目安に経鼻胃管を抜去します。もともとたくさん食べるほうではなかったとのこと、お粥は苦手など、ボリュームと嗜好に配慮した献立調整を行い、経鼻胃管抜去に至りました。
しかし、化学療法による食欲不振をきっかけに、食事摂取量がガクッと落ち、体重も減少していってしまいました。肉や魚のペーストはにおいが気になり提供できません。かといって大豆製品や卵も飽きがきます。濃厚流動食はお口に合わず、食べられていたヨーグールトやフルーツのペーストも提供が続くと食指は進みません。経鼻胃管からの経腸栄養も提案しましたが、「どうしても嫌なので頑張りたい」という日が続き、明らかな体重減少を認めるまでになってしまいました。食べたい物をうかがうと、ハンバーガーやラーメン、パスタなど、術後である現在では食べることが難しい物ばかり。そんななか、よく購入して飲んでいたという市販のスープのお話をうかがいました。割とお高めなこともあって私自身は購入したことがなかったのですが、思い切って試食してみるとちょっととろみが薄く感じられます。温度変化の影響も大きく、熱々だとサラサラに近く、常温程度まで冷めると少しとろみがついてきました。摂食嚥下リハビリテーション科の先生に、そのスープを使って評価が可能か相談したところ、快諾していただけたので、患者さんにもご提案してみることにしました。検査は嫌だとおっしゃるかも、と不安もありましたが、「飲みたいです、検査します」とのこと。早速検査の運びとなりました。久しぶりに味わうご希望のスープは、無事誤嚥することなく飲むことができ、とろみはおいしくないから……とおっしゃっていたのに、「ちょっと薄いかも」とご自身でとろみ剤を足す場面も見られました。とてもすっきりした表情をされていたのが印象的でした。その後、スープはご自身の飲みたい時に飲んでいいことになり、栄養補給は経鼻胃管からの経腸栄養で行うことになりました。

食形態の調整が必要なことを頭では理解していても、受け入れられない場合もあります。今回はなじみの味、もともと好きだった料理のおかげで、一歩前に進むことができました。とろみ付けを含む食形態の調整に嗜好の問題が加わり、なかなか食べられない時期がありましたが、食べたいと思う気持ち、しっかり1人前食べられたという自信やおいしかったという満足感などが結果的に栄養の確保にもつながった一例でした。(『ヘルスケア・レストラン』2021年10月号)

豊島瑞枝(東京医科歯科大学歯学部附属病院 管理栄養士)
とよしま・みずえ●大妻女子大学卒業。東京医科歯科大学医学部附属病院に入職後、2010年より東京医科歯科大学歯学部附属病院勤務となる。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士、NST専門療法士、TNT-D管理栄養士、糖尿病療養指導士

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